連続ブログ小説「南無さん」
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本
連続ブログ小説「南無さん」第十二話
カチャーン。という音が屋敷中に響き渡り、庭で囀っていた雀にもこれは聞こえたらしい。彼らは驚いて塀の上へ飛び上がった。
しかし、南無さんの家には割れそうなものはもうないはずである。というのもすでに、いずれの茶碗も南無さんが己の雁首にひっかけてぐるぐる回しているうちに戸外へ飛び出して行って、待てど暮らせどひとかけらも帰ってこなかった経緯があるからだ。
カチャーン。カチャーン。
では何の音
連続ブログ小説「南無さん」第九話
師走、雪。静まり返った山中の境内に、ただひとつ響く音がある。
パアン、パアン、と数秒ごと、空を割るがごとき破裂音。草木を震わせ禽獣を目覚ますその音は日の出とともに始まり、鳴り続くことすでに一刻あまりが経とうとしていた。
先頃、麓の本寺での行を終えた僧が、末寺であるところの山中へ務めに参り上がろうとしたところ、やはりこの音に気がついた。
はて、一度は杣人の何ぞ生業と思ったけれども、木こ
連続ブログ小説「南無さん」第七話
時は平成、世は太平。
アスファルトは熱射を照り返し、南国もかくやとばかりに往来人の肌を焼く。
さながら地獄の様相で沸き立つ陽炎の奥、ビルの影から一糸とまとわぬその身をゆらりぬるりと現したるは、南無さんである。夏なので時流に合わせ、クールビズだ。
さて、かような日照りに半袖を選ぶ人間が多い中、なんの故にか暑苦しく胸元を締め、そのうえ上着まで羽織った黒装束の若者の姿を、さきほどから南無さんは目に