序章 第一章 化け猫、谷根千を駆ける | 01 | 02 | 03 | 04 | 05 | 第二章 化け猫、再びの歌舞伎町 第三章 化け猫、潜入する 第四章 化け猫、脱走する 第五章 化け猫、飼い猫になる? 終章
--- 「お前が化け猫だろうが人間だろうが俺にとってはどうだっていい。自分の力をどう使ってどう生きようと俺が知ったことじゃない。だが、椿に手を出されたとなっちゃ話は別だ。いくら家出中と言っても、あいつはああ見えて、愛宕組の跡継ぎ候補だからな」 ゆらりと、目の前で炎が揺らめいたよう…
--- しばらくして、車が停まるのがわかった。俺を膝に抱えていた男が、袋を両手で抱えて車を降りる。足音の響き方が変わったから、建物の中に入ったのだろう。エレベーターに乗ったのも音で見当がついた。 廊下を少し歩いて、男が部屋に入る。耳に神経を集中すると、部屋の中にすでに人の気配が…
--- 午後六時前、椿がいつも通りレジの点検を始めた。しっぽ屋の斜向かいにある喫茶店・満満堂の窓から、俺はそれを確認した。通りを行き交う人々に目を凝らしても、不審な人物はいない。不自然にしっぽ屋の周辺をうろつく人物も、一箇所に留まって椿を監視している人間も見当たらない。しっぽ屋を…
--- 七時を過ぎた頃、「今日はもうおしまいだよ」と抱き上げられ、店の外に出された。猫相手に、彼女は「またおいで」と手まで振ってくる。 しっぽ屋のシャッターが閉まるのを見届けて、俺は店と店の隙間に体を滑り込ませた。窓枠や雨樋を伝ってしっぽ屋の屋根に上り、すっかり暗くなった谷中の…
--- 球を追うのは得意だ。 「千歳っ!」 ペアを組んでいた圭輔が俺を呼ぶ。その声より早く駆け出し、サイドラインの際を狙い撃つようにバウンドしたテニスボールを、ラケットで掬い上げた。勢いを殺して打ち返したボールは緩やかにネットを掠め、ぽとりと相手コートに落ちる。それを拾おうとし…
--- 一言で言うなら、彼はお星様だった。 「今日は、ミケにしよっかな」 いかにも今っぽい大学生という姿をした彼は、誰へともなくそう呟いて、細長い指でガラスケースを指さす。 今の独り言、私に向かって言っていたのだろうか。シフトに入るたびに彼は店に来るから、いい加減顔を覚えられ…