『風に恋う』|額賀澪|試し読み

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記事

『風に恋う』PV①

吹奏楽に賭けた青春
憧れの先輩が指導する吹奏楽部で全日本コンクールを目指す少年--
「やりたいこと」と「現実」のギャップ
「俺は、ブラック部活に洗脳された馬鹿な高校生のなれの果てですか」


『風に恋う』額賀澪
http://nukaga-mio.work/windgazer

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『風に恋う』PV②

『拝啓、本が売れません』(KKベストセラーズ)で話題を呼んだ松本清張賞作家が挑む、デビュー作以来の吹奏楽×青春小説。

ぶつかり合いから、音楽は輝くんだ――。


『風に恋う』額賀澪
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風に恋う|目次

プロローグ

序章|凍てつく夜に『夢やぶれて』
01 | 02 | 03

第1章|追憶と『二つの交響的断章』
01 | 02 | 03 | 04 | 05

06 | 07 | 08 | 09 | 10

11 | 12 | 13

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風に恋う|第1章|13

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 練習に集中しているうちに、気がついたら五時半近くになっていた。そろそろ合奏が始まる時間だ。楽器を抱えて第一音楽室に戻ると、瑛太郎がすでに指揮台の上に置かれたパイプ椅子に腰掛けていた。膝に頰杖をついて、ぼんやりとスコアを眺めている。

 すべてのパートが集まったタイミングで、普段だったら玲於奈が号令をかける。ところが、それより早く瑛太郎が立ち上がった。

「ちょっと教えてくれないか」

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風に恋う|第1章|12

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「瑛太郎先生に、吹奏楽部のことどう思うかって聞かれたんですけど」
「池辺もか。それ俺も聞かれたわ」

 基と同じアルトサックスを吹く二年の池辺豊先輩と三年の越谷和彦先輩がそんな話をし出し
たのは、パートごとのチューニングと基礎練習を終えて、個人練習に移ろうとしたときだった。

「先輩達もですかっ?」

 パート練習で使っている二年一組の教室に、自分の声が予想以上に大きく響いた。

「もし

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風に恋う|第1章|11

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 二人を呼びにきた瑛太郎が連れて行ったのは、普段練習をしている第一音楽室ではなく、その隣の音楽準備室だった。

「昼休みに悪かったな」

 音楽準備室は実質吹奏楽部の顧問の部屋だ。さほど広くない部屋の中には長机が置かれ、本棚からは楽譜が雪崩れ落ちそうだった。

 瑛太郎が、部屋の隅の冷蔵庫から取り出したペットボトルの麦茶をグラスに注いで、基達の前に置く。

「君達に聞きたいことがある」

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風に恋う|第1章|10

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「いくらなんでも酷すぎるだろ、あの朝練」

 弁当を広げる基の前の席に座って、コンビニのメンチカツサンドを囓りながら、堂林は同じことばかりを繰り返していた。

「瑛太郎先生も、昔みたいにガツンとビシッとやればいいんだよ。正直、それを期待してたのにさ」

 不破先生ではなく瑛太郎先生という呼び方を広めたのは、三好先生だ。

「コーチになったばかりだから、いきなりってわけにもいかないんじゃな

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風に恋う|第1章|09

2|激流の先へ

「もう早起きからは解放されると思ってたのになあ……」

 トーストを囓ろうと大口を開けた瞬間にそんなことを言われ、基はそのまま固まった。台所に立って基の弁当を作っている母の背中を見つめる。

「五時起きの生活ももう終わりだと期待してたのに」
「す、すみませんでした……」

 中学三年間、母は毎朝五時に起き、朝練のために六時半に家を出る基の朝食の準備をした。土日も朝から夕方まで練習

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風に恋う|第1章|08

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 徳村が夕食を食べ終え、「あと三本、原稿が残ってるから……」と言って自室に引っ込み、瑛太郎も風呂に入って自分の部屋に戻った。

 瑛太郎が契約社員として勤めていた学習塾を辞めたのが去年の年末。大学卒業後に広告制作会社へ入社した徳村が、「こんなブラック企業にいたら殺される!」と退社してフリーライターになったのが今年の一月。ちょうどアパートの更新時期が近づいていたから、一緒に住むことになった

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風に恋う|第1章|07

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 玄関を開けたらダイニングは真っ暗だった。瑛太郎が使っている洋室ももちろん暗いが、その隣にある和室の戸からは、うっすら明かりがこぼれている。

 帰りがけに持たされた肉じゃがの入った紙袋を抱えたまま、瑛太郎は和室の戸をノックした。返事は聞こえないが、「入るぞ」と言って引き戸を開ける。

 煌々と明かりが灯った六畳の和室で、徳村尚紀はノートパソコンと睨めっこしていた。大きなヘッドホンで音楽

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