Case1
2017.4某日
日暮里某所。
日暮里駅に降り立つのも初めて。ネットで知り合った人と会うのも初めて。お見合いも初めて。
死を覚悟するレベルの緊張で、でも自分の未来は明るいと信じて、新しい境地で踊れることに胸を踊らせて、待ち合わせ場所に向かった。
物腰の柔らかそうな男性。
安心した。
のも束の間……
練習場といって連れてこられた建物にはホテルの看板。
ああ、終わった。
振り向いて走って逃げよう……
「待って」
笑いながら抑止された。
「地下が練習場だから」
怪しい。でもなるようにしかならい。諦めてついて行った。
練習場はほんとにあった。
まだプリペイドカードが使えた当時。私の分の入場料も出してくれた。
先輩らしい、優しい先輩だ。
着替えてフロアに向かう。
部活しか知らなかった私にはあまりにも広い世界だった。
何事もなく、言われるがままに踊りだす。
踊りたい、ドレス着たい、賞状がほしい、私を私と認めてほしい。
それしか考えていなかった。
「で、キミはなにがしたいの?」
突然の質問に言葉を詰まらせる私。
踊りたいです……
精一杯の答えだった。
その言葉を皮切りにか、知らない技でリードされる。
決まったルーティンでしか踊ったことがなかった私はフォローなんてできなかった。
このスポーツがリードとフォローで成り立ってるなんてそもそも知らなかった。
踊れない。わからない。かなしい。できない。
そして始まった説教。
「何がしたいのかわからないよ」
「その姿勢でダンスに取り組むの?」
「人生それでいいの?」
ああ。終わった。だめだ。
そして帰り際
「ひとりでスタジオ行ったら男の先生にセクハラされるから行くときは相談しなさい」
この言葉を信じてしばらくスタジオに行けなかった。機会の損失は大きい。
こうして私のはじめてのお見合いはたくさんの恐怖をこころに植えつけて幕を閉じた。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?