マガジンのカバー画像

ふじはらの物語り《第一巻》侍従と女官 原本

59
時は平安朝(架空)。 運命の為せるわざにより出会った男と女。 そしてそれを取り巻く数多の人間群像。 愛。友情。闘争… 時の流れは、それらを大きく巻き込みながら、一つの方向へと突き… もっと読む
運営しているクリエイター

記事一覧

《第一巻》侍従と女官 1 ふじはらの物語り   原本

夕暮れ、新任の侍従が、奥御殿のお廊下をしずしずと進む。 御簾の中の内廊を、前の方から、訪…

103

《第一巻》侍従と女官 2 ふじはらの物語り   原本

家春が、御曹司(みぞうし)の戸を押し開けると、ただ、平侍従のみがそこに居た。 家春は、挨拶…

8

《第一巻》侍従と女官 3 ふじはらの物語り   原本

先のような日々が三度ほど続いたのち、この度は、宿直(とのい)をも務めることになった。 また…

9

《第一巻》侍従と女官 4 ふじはらの物語り   原本

「時に、貴殿、お子は。」 「二人ばかり、小さいのがございます。」 「そうですか。お見受け…

3

《第一巻》侍従と女官 5 ふじはらの物語り   原本

彼は、やんわりと話しの内容を軌道修正した。 「それはそうと、藤原殿の奥方はいずれのお血筋…

7

《第一巻》侍従と女官 6 ふじはらの物語り   原本

彼は、思った。 “よっぽどつまらぬ女なのであろうか。この者の妻女というのは。せっかくの果…

5

《第一巻》侍従と女官 7 ふじはらの物語り   原本

弘徽殿女御というのは閑院左大臣の娘である。 閑院左大臣は関白をも任ぜられ、すなわち、この国において人臣中、最高の地位にある。 ただ、人が不思議に思うらく、彼が左大臣でしかなく、太政大臣ではないというのはそれなりの事情による。 現下、太政大臣は空席である。 この宮廷には、大きく、三つの党派が勢威を誇っている。 まず一つは源氏。 この源氏は、五代前の帝より出でたものである。 そして、藤原北家の嫡流、つまり、氏の長者の家系で、現当主が閑院左大臣である。 最後に、同じ

《第一巻》侍従と女官 8 ふじはらの物語り   原本

一の宮は、東国の大国守に任ぜられたうえで、まことに異例ではあったが、直々の赴任が申し渡さ…

8

《第一巻》侍従と女官 9 ふじはらの物語り   原本

弘徽殿女御のお腹からは、二男一女がお生まれである。 長男である三の宮は、性温良で、ご学識…

7

《第一巻》侍従と女官 10 ふじはらの物語り   原本

弘徽殿女御の父である閑院左大臣は、藤原氏の長者であり、北家の棟梁でもあって、何をしなくて…

8

《第一巻》侍従と女官 11 ふじはらの物語り   原本

そもそも、内大臣は、藤原北家の同族として、閑院左大臣家と親しく交際していた。 閑院左大臣…

13

《第一巻》侍従と女官 12 ふじはらの物語り   原本

初めの内、お上は、大納言の娘が、“どうも賢女である”との噂を耳にされて、ご興味を覚えると…

11

《第一巻》侍従と女官 13 ふじはらの物語り   原本

お上は、御(おん)自ら、更衣に唐土(もろこし)の聖賢の話しについて水を向けられた。 すると、…

13

《第一巻》侍従と女官 14 ふじはらの物語り   原本

お上は、更衣が一体どのようにその精神を涵養したのか、非常に興味深く思われて、その由(よし)をお訊ねになった。 更衣の申しようはこうである。 “元々陸奥(むつ)にいる頃、父が空いた時間を見つけては、兄に漢籍の素読やら自己流の解釈を指導していたのを、皆が一つの部屋にいる中で自然に吸収した側面がありつつ、京(みやこ)に上がってから、ひょんなことで弟のために父がつけた家庭教師である、仙人のように歳を取った先生の教導を結局皆で受けることになって云々。さらに、自分なりに思いを深めたの