2話 名探偵ラッキーセブン

「こちらコードネームマウント。目標がA地点を通過。」
若い女性の後ろをつけるアラフォー自由人。見る人が違えば若さに嫉妬するBB…いや人生経験豊富な女性に見えるかもしれない。
「こちらコードネームドラゴン。目標がB地点を通過。なんかこーゆーの昔やったよな(笑)」
楽しそうでなによりだ。こちとら女好きのお前を合わせると「初めて生で見たけど嫌いだな。いーな。」って手を出しかねないと不安でギャルと揉めたんだぞ。
「コードネームギャル。そっちはまだか?」
ドラゴンが続く。
「こちらコードネームシャチ。ギャルじゃないです、シャチです。まだ来てないっぽいね、きたら報告しますコードネーム勇者どうぞ。」

1週間前。サチに呼ばれて、LUCKYに行くと衝撃の話を聞かされた。彼女のアカリが知らない男と楽しそうに喫茶店で話してるところ。これを見せてすぐサチはアカリを擁護した。アカリは社会人だし、大人の付き合いだってある。ただ、仕事終わりにわざわざ会ってたのが気になったらしい。だとしてもだ、これを俺が信じる義理がない。何しろ証拠がない。2人でいる写真すら。サチが嘘をついているのかもしれない、だとしたら何のために?その日珍しく客がいたので、店には騒音が流れ続けた。店のBGMは楽しそうなクラシックが慰めているように聞こえた。
「嘘だと思ってるんでしょ。」
浮気が見つかった時ってこんな感じなんだろうか。さすがは青春を共にしただけはある。将来こいつだけは敵に回さないでおこうと思った。
「じゃあみんなで確かめようよ!サチの勘違いならそれでもいい。」
すごくいい案だ。自分で目で確かめれば真実が分かる。ただ、それをオレから提案してしまえばサチを疑っているのは明白。サチからせっかく言ってくれたのだ、乗らなきゃ男じゃない。
ただ、ただ。「みんな?」そこだけは疑問で声が出た。
「タツとヤマさんと4人で!」
タツはダメだ!絶対ダメだ。あいつは無類の女好きで、女に手を出しすぎたせいで男にはぶられてオレなんかといるんだ。それにイケメンだ。あんなのをアカリあわせたら、手は出すはもしかしたらアカリがタツに惚れるわとか。オレの脳内が追いつけなくなる。ってかなんでオレの周り美男美女ばっかなんだよ。
30分くらい揉めていると、いつのまにか客は俺たちだけになっていた。そこでとりあえずヤマさんに相談したところ。
「タツごときにぐずぐずしてどーするんだよ。他の男がいるかもしれないんだろ?それに大丈夫さ。あんたは顔はないけど優しいやつだ。あんたを選ぶやつなんて、いい人が騙そうとしてるからとどっちかなんだ。白黒はっきりつけようじゃないか。真実はいつもひとつ!」
この突っ込みどころが多すぎる名言に背中を押されて、チーム(名探偵LUCKY)誕生した。

「こちらコードネームシャチ。目標C地点通過。最終目的地に向けて進行中。」
「こちらチーム勇者。最終目的地前にて待機。連絡開始。」
俺は彼女に連絡をとった。
○今どこにいるの?
⭐︎仕事終わりに喫茶店でお茶してるよ。どうして?
○会いたいなって思って。
⭐︎急だね(笑)じゃあ6時にいつものところで。
〇今からじゃダメなの?
☆まだ仕事があって。
テンプレ通りの会話を終えると、ここからは俺が乗り込む手はずだ。そして浮気を認めさせる。はずなんだけど。
「コードネーム勇者。作戦にうつして!」
分かってる。急かさないでくれ。俺は裏切られたんだ。浮気されたんだ。ムカつくはずなんだ。はずなのに。
「勇者?たっくん?どうしたの?」
サチのいつもの呼び方で勇者はただの一般男性Aに戻った。
「ごめん。ムリだ。」
「はあ?何言ってんだよ。なんなら俺が。」
「待ちなさい。ここは一旦引くよ。」
無理やり強行しようとするタツをヤマさんがなだめてその日の作戦は終了となった。

パシャり。「えっ?」

基地LUCKYに戻ると、開口一番タツが俺に向かってきた。
「なんで、相手の男にビビったかよ。」
ビビってなんかない。ムカつくはずなんだ。今でも乗り込んで怒鳴りつけたいはずなのに。
頭の中には笑顔のアカリばかり浮かぶ。
悲しかったんだ。幸せが終わる気がして。
気がつくと左肩と胸の間あたりに雫がたれた。
それが雨の降り始めかのごとく次々と服を濡らしていく。傘はよく電車に忘れがちだけど、いつもそれを持ってきてくれるおせっかい。傘はいつでも両隣に咲いていた。2人が、今は3人が暖かく抱きしめてくれる。今はただそれでいい。

そこから少し落ち着いてた、スマホを見るとLINEが入っていた。アカリからだ。
「着いたよ」
着信
「タク?大丈夫?」
着信
着信
着信…
あ、やばい。今は夜7時。約束から1時間放置したことになる。壊れた人形かのごとく首を3人のほうに動かした。アニメならガーンっいうナレーションがつきそうだ。浮気がどうのこうの言う前に自分が最低な人間になってしまった。
するとヤマさんがすかさず、俺の携帯を取りアカリに電話した。
「あ、もしもし?アカリさん?私LUCKYって喫茶店で店長しててね。タクくんは常連だから仕事手伝って貰ってたら途中でこけて2時間くらい気絶しちゃって」
そこから何回かのやり取りのあと電話は切られた。スマホを渡しながらヤマさんは、
「ってことで今から来るそうだから、そこのソファーに寝たフリしときなさい。」

タツは帰り、ヤマさんは店の締め作業のため外に出ていた。もうすぐアカリがくる。
ある写真を見せられて、頭が真っ白になった。
前の時は信じたくなかったもの。
でも今は信じられないもの。
裏切った人がおばけになったみたいな?
意味わかんない?そりゃわかんないよね
写真にはそこに写ってなきゃいけないものが
なかったんだ。

to be continued


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