東京も町内会の集合体

初めて東京に住むことになって、東新宿(新宿7丁目)の区画に入ったとき、高いビルがほとんどなく、アパートもせいぜい3階建て、隣接しあった家に塀がなかったりする景色に驚いた。

新宿にこんなところがあるのか、というが素直な感想だった。新宿と言ったら、世界一の駅利用者数を誇り、高層ビルが立ち並んでいる場所である。そのイメージとは真逆だった。

言葉の定義としては正しくないが、「下町」という言葉に連想される場所だった。つまり、高い建物があまりなく、狭い敷地に家が並び、銭湯が多くあって、町内会で年末に門松を配ったり、盆踊りや祭りがあるような場所だった。あるいは、隣の家の網戸が空いていてテレビの音が漏れてきた。

東京に来て色々な場所を歩いていると、中心部を離れると、こうした風景がありふれた姿だとわかってくる。

職場が近いので新宿中央公園をよく散歩している。都庁をはじめとする巨大がビルが立ち並んでいるのが見える場所なので、写真を撮っている人も多い。そんな場所で、15時になると園内放送が流れる。「時間になりました。係の人は所定の場所についてください。」というこの放送は、下校する生徒の見守りを呼び掛けている。

銭湯に、新宿100年史という、行政が少し前に作った写真で新宿の歴史をたどるという大型本があって、よくそれを見ていた。その中に、新宿駅開通の時の写真で、「交差点では左右を確認しよう」と書かれた横断幕がどーんと写っているものがあった。

この種の標語は日本全国で目にする。天下の新宿であっても、まったく変わらなかったのだ。純粋に、交通量が増えてきたので、みんな注意しないと危険ですね、という気持ちで横断幕が作られたと思われる。

地下鉄やJRで、いちいち、やれ、マナーモードにしてくれだのいう起源はここにあったのだ。駅が存在する前に、住んでいる人がいて、町内会があって、駅を作る際にも協力していたのだ。

その時から、新宿中央公園にはオフィスで働く人と観光客で9割を占める今に至っても、基本構造が変わることなく続いているようなのである。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?