見出し画像

DX最前線!日本の成長戦略とスタートアップとの価値共創

「NIKKEISHA STARTUP TABLE」では、「挑戦」と「変化」を目指す企業の「1→100」のために、成長期に直面するさまざまな悩みや課題に応えるべく、“社会との対話“の機会を提供しています。
 
コロナ禍を契機に、企業のデジタル化は一気に促進し、ビジネス環境に大きな変化を起こしています。社会全体でデジタル活用への取り組みが強化される一方で、企業そのものの変革を伴う「デジタルトランスフォーメーション(DX)」を実現できている企業はまだまだ少ない状況です。変化が激しく予測ができないVUCA時代において、持続可能な企業となるために、経営戦略としてのより大胆な変革が求められています。

日本企業のDX推進に取り組む経済産業省の奥村滉太郎氏と、数多くの企業DXをスタートアップ企業と連携して併走してきた有限責任監査法人トーマツの柳橋雅彦氏にお話しいただいた講座から、企業に求められるDXと、企業DXのためのスタートアップ共創のポイントを少しだけご紹介します。

企業に求められるDXとは何か?

DXとはデジタル技術やツールの導入そのものではなく、データやデジタル技術を使って、顧客目線で新たな価値を創出していくこと。ビジネスモデルや企業・文化等の変革に取り組むことが重要だ。

DX推進において、経営者は以下のプロセスで検討する必要がある。よくあるDXの推進が進まないパターンは、このプロセスに合っていない。
①    そもそも自分の会社は何のためにあるのか?理念・存在意義(パーパス)
②    5~10年後、どういう会社になりたいか?(ビジョン)
③    ビジョンと現状の差は何か?どう解決するか?
④    顧客目線での価値創出のためデータ・技術をどう活用するか?

その上で、DX推進を成功させるポイントを紹介する。DXに成功した事例に共通するポイントは次の5つ。
●気づき・きっかけと経営者のリーダーシップ
●まずは身近なところから
●外部の視点、デジタル人材の確保
●DXのプロセスを通じたビジネスモデル・組織文化の変革
●中長期的な取組の推進

日本企業におけるDX推進の現在と経済産業省の支援

米国と比較すると、日本ではDXが進んでいないと考えている企業が多い。世界デジタル競争力ランキング2021(全64か国中)では、日本は28位。特に人材の部門では47位、デジタル技術・スキルは62位で、これらが全体を引き下げている。

2018年に経済産業省が出した「DXレポート」では、ワーストシナリオとして、2025年以降、最大12兆円/年の経済損失が生じる(2025年の崖)と発信。既存システムの刷新が急務と訴えた。2020年の「DXレポート2」では、そこから「価値を生み続けられるような企業文化の創造が重要」と提唱している。戦略や人材育成も必要と捉え、変わり続けられる組織になることが重要だと伝えている。

③外部の視点、
デジタル人材の確保
•  日々発展するデジタル技術を経営の力にするためには、専門的な知見が必須
•  取組を迅速に推進するため、外部の人材の力を活用しながら不足するスキルやノウハウを補う
 
①気づき・きっかけと
経営者のリーダーシップ

• 中堅・中小企業等のDXにおいては、経営者のリーダーシップが大きな役割を果たす
• 特に、DXの推進に取り組む「きっかけ」や、「気づき」を得る機会をいかにして得られるかが重要
 
②まずは身近なところから
• まずは身近な業務のデジタル化や、既存データや身近なデータの収集・活用に着手
• その推進過程で成功体験を得るとともに、ノウハウ蓄積や人材確保・育成し、組織全体に拡大
 

経済産業省が設けているDX推進の支援に関する体系も紹介する。企業のDXレベルにあわせて、企業認定や有料企業選定などの施策を提供している。

「DXへの取り組みをダイエットに例えると、ベースのDX推進指標や自己診断が、体重計に乗ること。ある程度DXが進み指針を公表した事業者へのDX認定が、ダイエットを続けるぞ、とジムに入会いただくこと。さらにその先の段階でボディビル大会に出場するように、上場企業にはDX銘柄、中小企業にはDXセレクションといった上位レベルのものがあり、それによって成功事例を発掘・全国展開していく。というような体系になっています。」と奥村氏は語る。

DX推進指標
経営トップが自社のDX推進状況を把握・自己診断する材料として、経済産業省が公開している指標。「①DX推進のための経営のあり方、仕組み」と「②DXを実現する上で基盤となるITシステムの構築」について、定性・定量的に評価する。

DX認定
「DXの準備ができている」企業を認定する制度。DXは明確なゴールや共通の目標がないため、「これから継続で取り組む」という状態になったことを認定する。ロゴマークの使用、税制や融資等、様々な特例がある。「DX認定制度はスタート地点のようなものですので、是非気軽にご申請ください!」と奥村氏。

DX銘柄
経済産業省・東京証券取引所・IPAが共同で選定する制度。企業価値向上につながるDX推進の仕組みを社内に構築し、優れたデジタル活用の実績が表れている企業を、東証の上場企業の中から業種ごとに毎年選定する。「DX銘柄への選定自体にリワードはないですが、株価パフォーマンス、人材獲得やビジネスの導入にも良いとの評判です。大企業の方はぜひ申請をご検討ください。」(奥村氏)

DXセレクション
経済産業省が2022年から始めた、中堅・中小企業等のDX優良事例を発掘・選定する新たな制度。地域の「地方版IoT推進ラボ」の推薦企業等から推薦があり、全国のDXの取り組みを収集している。

「DXとはデジタル技術ルールを導入することそのものではなく、データや技術を使っていかに、顧客目線で新たな価値を作るかということ。そして、そのためにビジネスモデル・企業文化等の変革に取り組むことが重要です。

そのために経済産業省では様々な制度を用意しています。人材不足・人材育成は、世界でも、日本企業でも皆さん悩んでいるところで、社会全体で一斉に取り組んでいく課題です。社会全体で取り組み、日本経済が盛り上がる未来になればいいなと思っています。引き続き経済産業省としてもいろんな施策を発していきますので、ぜひチェックいただければと思います。」と奥村氏は語る。

スタートアップはDX推進の最適なパートナー

DXプロジェクトを推進するにあたって、「変革に対しての強い思い」「スピード感」「革新的なサービス」を持つスタートアップは、欠かせないパートナーだ。スタートアップの方々と、対等の関係で新しいプロジェクトを作っていけるか、一緒に試行錯誤していけるか。それが非常に重要になるだろうと柳橋氏は語る。

しかし、スタートアップが大企業と協業する際、現状では実証実験の先の本格導入(実装)時に大きい壁がある。本格導入することで初めて継続的に社会にインパクトを生み出せるようになるのに、その前の段階でつまずく“実証止まりの現状”が見えてきた。

実際に、スタートアップ32社、大企業109社にアンケートを実施したところ、大企業側では「実証実験の時と本格導入の時で優先的に見る点が変わった。実証実験の時は機能・性能を見ていたが、本格導入では信頼性・セキュリティ・コンプライアンスが実証時よりも重要になる。」という課題がみえてきた。この結果からみるに、「本格導入と実証実験には分断があるもの」と考えられる。

この分断は、スタートアップと大企業の双方が歩み寄ることで解消できるものだと柳橋氏は語る。

大企業側の歩み寄り
スタートアップとの出会う機会を増やしていく他、「Start Small, Fail Early, Learn Fast.(小さく始めて早く失敗して、どんどん学んでいく」)」の考え方を持つことが重要だ。このスタンスは「顧客のニーズを素早く満たすことで企業価値を高める」ための働き方という、アジャイルの考え方にも非常に近いといえる。従来のようにドキュメントや計画を優先するよりも、個人・顧客との対話から変化に柔軟に対応していくことが重要。こういったスタートアップの考え方を理解し、一緒に組んでパートナーとして動ける体制を用意できるかが重要である。


スタートアップ側の歩み寄り
相手の立場に合わせて、ピッチと商談の場とでは、営業マインドを切り替える必要がある。ピッチでは、複数の方々に「自分たちの製品の革新性、有意性、メンバーの優秀さ」を訴える。一方、商談の場では、1対1で「相手の課題解決に自分の商品がどう貢献できるのか」を訴える必要がある。商談先である大企業のお客様のパーパスは何なのか?それを達成するための課題解決に、自社がどう貢献できるか?を徹底的に掘り起こして、営業をかける姿勢が必要だろう。

「現在、東京都ではDXにおけるスタートアップ連携の事業を行っております。大企業も募集しており、今後、スタートアップと大企業の本格導入のサポートをさせていただく事業もございます。ぜひご関心を持っていただいて、スタートアップと出会う場に足を運んでいただいたり、スタートアップの方々も、営業として大企業に接してみる機会を作っていただいたりしてもらえればと思っております」と柳橋氏は締めくくった。


講座で取り上げたご質問を一部ご紹介します。

質疑応答

Q「まずITコーディネーターに相談するのが良さそうだと感じましたが、どこで出会えるのでしょうか?」

奥村氏:
ITコーディネーターとは、ITコーディネーター協会で認定した資格を持っている人たちです。そういったサポートチームを持っている地方銀行など、全国あちこちにいらっしゃるので、「この分野・業種・地域でやっている人はいませんか?」とITコーディネーター協会にご相談いただくのは方法の一つです。


Q「サプライチェーン全体でDX化に取り組まないと意味がないかと思うのですが、企業を横断して、DX化に取り組んで成功している事例はありますか?」

奥村氏:
約2年前にDX銘柄を取得した工具系の卸売企業の例があります。はじめに、注文を受ける前にAI予測で工具を送る、みたいなツールと合わせて、「うちで作ったプラットフォームで、受発注をデジタル化しませんか」と、それまで電話とFAXで連絡していたお客様に提案したところ、皆さんそれを使い出してサプライチェーン全体が効率化されたお話を伺いました。

なので、全く未着手なところからやっていくと、サプライチェーン全体でデジタル化されていくのかなという気がします。


Q「スタートアップ企業も玉石混交かと思います。パートナーとして、自社に適しているか否かの判断基準として、どのような視点を持つと良いですか?」

柳橋氏:
実際に会ってお話しすると、本当に思いがしっかりしてビジネスでしっかりとやっていこうと考えている方なのか、それとも今その領域でテストしているだけか、見えてくると思いますので、いろんなスタートアップと会ってみるのがまずは大事かと思います。

皆様の関わり方として、共同研究などのPoCであれば緩いところでもいいと思います。しっかりやっていく場合は、信頼性・実績・セキュリティ、コンプライアンスの認証や、外部の認定の有無、サービスが停止した場合の対応を考えているかは、大企業としてスタートアップとお付き合いする上で、把握しておくべきポイントかもしれません。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?