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【経験者に聞く】ネフローゼを治療しながら、どう働くか

薬の副作用や再発の心配はもちろん、働き方や周りの人とのつき合い方、今後の生き方など、ネフローゼを治療しながらの生活には多くの不安がつきまといます。

でも、「経験者のリアルな声」を聞くことができれば、そんな不安も少しだけ軽くなるのではないでしょうか。

この「経験者に聞く」は、そんな想いからはじまった企画です。

★★★

今回の「経験者に聞く」は、『ネフローゼを治療しながらどう働くか』がテーマです。

年齢・性別・職種も違う4名の方と座談会を行い、寄せられた質問に対して経験談を語っていただきました。

座談会の時間や記事ボリュームの関係で、いただいた質問すべてに回答することは難しかったのですが(質問をくださった方々、すみません!)、質問として明確に取りあげていなくても、みなさんの言葉のなかに、悩みを解決する多くのヒントが隠れているんじゃないかと思っています。

少し長い記事になってしまいましたが、金言や学びがたくさんつまっていますので、最後まで読んでいただけるとうれしいです。


<座談会参加者プロフィール>

※ニックネーム・年齢・ネフローゼ歴・現在の服薬量(プレドニン、免疫抑制剤のみ)・職種・簡単な病歴&職歴を記載しています

三児の父さん(50代前半/ネフローゼ歴7年・プレドニン2.5mg)/金融機関/管理職

44歳の時に心が折れる代わりに腎臓が折れる感じで発症(微小変化型)。以降、プレドニンが2.5~5mgになると再発すること3回。現在、再発ゾーン突入中。仕事はコンサル部門の管理職なので、職場復帰後は定時退社していた時期もありましたが、現在は8時前に出社して20~22時退社が多い状況。再発した際は副作用を立場上周りに見せないようにしながら、なんとか業務はこなしてます。塩分6g/日は週単位で管理しつつ継続中。でも、コロナ禍で減ったものの、出張の時はリミッターを外して、地元のおいしいものを満喫してます(うなぎ、ごまサバ最高っ!!!)。


空と豆さん(40代後半、ネフローゼ歴7年目、プレドニン2mg 免疫抑制剤125mg) /支援員

2015年4月に事業所の異動があり、翌年1月に突然に下肢浮腫となり初発、微小変化型ネフローゼ症候群と診断、1か月半の入院で病休を取る。退院後は2週間後の外来日まで年休で自宅静養をした後復職する。仕事は、知的障害者の生活介護事業所で生活支援業務。新卒時から同仕事(福祉業界)で、子供2人の産休育休を経て、現在は主任、サービス管理責任者、グループリーダー。再発は、風邪や減薬のタイミングで3回程度。入院には至らず、ステロイドを20mgくらいに増やして寛解する、仕事は継続していた。


きまるさん(20代後半・ネフローゼ歴6年目・プレドニン4㎎・シクロスポリン25mg)/SE(システムエンジニア)

21歳・大学生の時に発症(微小変化型)しました。在学中、再発を繰り返し頻回再発型へ、結果的に大学を二年留年一年休学しております。大学四年生の時、体調・精神面が不安定なまま就職活動へ。しかし、在学中には就職活動がうまくいかず、フリーターとして就職活動を継続することを決めました。コンビニエンスストアの早朝勤務をする傍ら、就職活動に勤しみ、半年間の就職浪人期間を経て正社員のSEとして働いております。私は就職活動の段階から、難病を患っていること、強い薬を服用中であることを開示しておりました。自分の現状を伝え、そのうえで雇用していただける会社で働くことが、自らの健康を維持することにつながると考えたからです。IT系ということもあり、連日残業が続いたりと納期が迫ってくると目に見えて忙しくなりますが、食事のバランスと適度な運動を行い、再発に気を付けながら日々生活しております。


かるたさん(30代後半・ネフローゼ歴13年目・プレドニン11mg)/企画職

新卒で入社した企業で3年目(営業職)の春にネフローゼ(微小変化型)を発症し、2年間休職。そのまま退職するか悩んだが、復職とともに異動し、企画職としてのキャリアをスタート。再発や入院を繰り返しながら、6年勤務。海外短期留学のため退職し、帰国後は疾病をふせて短期アルバイトや在宅ワークなどをしながら1年ほど生活。その後、2社目と3社目は疾病を開示し、就労支援(福祉業界)への転職を実施。3社目(現職)では、現場と企画の仕事を兼務する形で入社したが、再発を契機に直近2年弱は企画専従で完全テレワークにて勤務している。


司会&執筆担当:カバヲ(40代前半・ネフローゼ歴15年目・プレドニン5㎎)/フリーライター

26歳の時ネフローゼ症候群(微小変化型)を発症し、当時の仕事(派遣社員)は退職。再発が続いたため初発から6年ほどは自宅療養をしていたが、在宅で働ける環境を作ろうと一念発起し、33歳でフリーライターに。その後、34歳・37歳・40歳でも再発。34歳~39歳までは仕事が忙しかったため(休みは月1~2日。連日深夜2~3時まで働いていました)再発時や副作用で体調が悪い時期でも試行錯誤しながら働いていた。

※以下、敬称略


Q1 職場への病気の開示について

具体的には下記のような質問をいただきました。
・今の職場には病気のことを話していない。どのタイミングで話すべきか、理解されるか不安
・ネフローゼに限らず、病気のある方々は周囲に病気を開示しているのか?
・病名や病状などをどのように説明しているのか?
・(病気があるということに対して)周囲の反応や対応はどういったものなのか?

・説明のタイミングや周りの反応について

カバヲ:まずは、みなさんの状況を確認します。三児の父さんと空と豆さんは、ネフローゼを発症した際、すでに今の職場に勤務されていた。かるたさんときまるさんは、病気を開示して転職や就職活動をされて、今の仕事に就いた。つまりみなさん、職場には病気のことを話しているってことでいいでしょうか?

4人:はい

カバヲ:では、就活&転職時の話は後ほど詳しくおうかがいするので、まずは三児の父さんと空と豆さん、病気のことを職場に話した際の状況を詳しく教えてください。

三児の父:私の場合は、(初発の際に)40日くらい入院していたんですけど、会社的に7営業日連続で休む場合は会社に診断書を提出しなければいけないため、入院中にそれを上司が病院まで取りに来てくれたんです。それで、当時の部署の上の方や会社の人事は病気のことを知っていたけど、周りの人は「なんか急にいなくなったな……?」程度に見ていたんじゃないかなと思います。

空と豆:私も初発の時は、1ヶ月半くらい入院しましたね。退院の翌日に職場に出て挨拶をしたんですけど、退院当時はこういう病気(再発と寛解を繰り返し、長く患うことも多い)だと自分でも思ってなかったんです。再発を繰り返すとは聞いていたけど、自分には関係ないと思ってたので(笑)。自分自身も病気のことをそれほど詳しく把握できていなかったので、周囲にもちゃんと語れなかったような気がしますね。

カバヲ:職場の人に病気のことを話すときに、躊躇したり、誤解や偏見を生んだらどうしようと不安に思ったりはしませんでしたか?

三児の父:正直、自分のことで精いっぱいで、周りがどう思うかを気にしている余裕はなかったんですよね。退院後1週間でのフルタイム復帰だったので、まず自分がちゃんと働けるのか、このまま続けられるのか、という不安の方が大きくて、周りの目はほぼ考えたことなかったですね。質問者の方の状況はわかりませんが、ある意味、周りの反応を気にできるっていうだけでも余裕があってすごいなと思います。

カバヲ:確かにそうかもしれませんね。

・病気をどう説明している?

カバヲ:みなさん、具体的にどんな感じで病気の説明をしていらっしゃるんですか?

かるた:私、初発の時は新卒で入社した会社で働いていて、3か月の入院後、1か月で再発し、1か月半再入院、その後、2年間休職して職場復帰したんですね。上司とか人事にはちゃんと説明をしていたんですけど、同僚には、「蛋白が尿から漏れて……」とか説明しても分かってもらえないだろうなと思ったので、「疲れると身体がむくんだり、ひどくなると入院になっちゃたりするんです」というような説明をしていましたね。ただ、いろんな人に話しながら、周りの人にどう伝えればいいかを練習していた側面もあるかもしれません。「こういう言い方をすると心配させ過ぎちゃうんだな」とか「こう言うと伝わるんだな」とか。

カバヲ:どう伝えるとよくて、どう伝えるとダメだった、などはあるんですか?

かるた:病気のことを詳しく話すと、マニアックすぎて途中で興味を失われたり(笑)

三児の父:そうですよね。職場の人からしたら「ネフローゼ」ってなんのこと? って感じだと思う。だいたい腎臓の病気っていうと「不摂生なんじゃないの?」って言われたりとかね。

カルタ:はいはい(笑)。「飲み過ぎたの?」とかも言われますよね。

三児の父:もう面倒くさいんで、「蛋白がだだ漏れするんで塩分は取れませんけど酒は飲めます」とか、適当にそんな感じの説明で終わりにしてましたけどね。まぁ(仕事関係の人に)そこまで深く理解されていなくてもいいかな……というか

カバヲ:ええ、よくわかります。

空と豆:私も、「もし私が太り出したら、再発して薬たくさん飲んでるんだなぁと思ってね」とか、「腎臓の病気で疲れやすいんで、(業務中に座ったりしているけれど)決してサボってるわけじゃないんですよー」と軽く伝えているくらいで、詳しくは言ってないですね。そもそも私が職場に病気のことを伝えているのは、定期外来でお休みを取らなきゃいけないっていうのが大きな理由なので。私の職場は毎年管理職が変わるんですけど、そのたびに「私はこういう病気でこんな症状で……」って切々と言うのも、自分としてはちょっと違うかなと思うのもあって、日常会話程度に話すくらいですね。こっちがサラッと話すと、向こうも「へ~、そうなんだね」とサラッと返してくれるというか。

カバヲ:話し方によっては重く聞こえることもあると思うけど、あえて自分からは重く感じないように話しているという感じですか?

空と豆:職場に看護師もいるので、ステロイドや免疫抑制剤を飲んでいるというと、なんとなくわかってくれるというところもあったりするんですけどね。

かるた:相手を見て、どう話すか使い分けているんですかね?

空と豆:そうかもしれないですね。

・病気を開示するメリットは?

カバヲ:ちょっと話を戻すんですけど、さっき三児の父さんやかるたさんが、『病気の話をすると「不摂生だからだ」とか「飲み過ぎたの?」って言われたりする』っておっしゃっていましたよね。これって結構あるあるなんじゃないかなと思うんです。実際私もよく言われますし。私の場合は「いやいや違うよ(笑)」って流せちゃうんだけど、なかにはそういう言葉に傷ついてしまう人もいて。だからこそ、伝え方や反応が気になるのかなと思うのですが……

かるた:私も最初はやっぱり傷ついてましたね。2年休職して職場復帰したときは、事情を聞く前に、「顔が丸い」とか「(入院してたみたいだけど)元気そうだね、まるまる太って」とか言われて。それで嫌になっちゃって、周りに病気のことは言わないでいた時期もありました。

カバヲ:今はオープンにしていますよね?

かるた:はい。全方位的にオープンですね。

カバヲ:病気のことを言う、言わない、どっちもやってみた結果、言ったほうがいい、楽だなという結論にいきついたってことですか?

かるた:自分には言う方が合うかなと思ったって感じですかね。どっちのチョイスでもいいとは思いますけど、自分には合うかなぁと。悪気がないのはわかるのですが、他人の言葉に傷つくこともありました。もちろん、わかってくれる人もいたので、できる範囲で少しずつ試していき、カバヲさんのように私も聞き流せるようになっていった感じです。

三児の父:私は人を採用したり、90人くらいいる部署全体の人事担当者という立場で仕事をしているんですが、誰がどんな疾病を持っていて、誰がどんな就労制限があるのかは、基本全部把握しているんですね。そういう立場から言うと、正直に洗いざらい言ってもらった方が、管理する立場としても非常にやりやすいんですよ。やっぱり無理して働かれて、さらに身体を壊して長期間離脱されるというのは、本人にとっても会社にとってもよくないことなので。同僚など横のつながりはまた別かもしれませんが、上司にははっきり言うことが、結局自分を守ることになるかなと思ってます。


Q2 就職活動・転職活動の際、面接時に病気のことを話すか否か

具体的には下記のような質問をいただきました。
・現在学生で、就職活動の際に病気のことを伝えるべきか悩んでいる
・転職活動の際、面接時に病気のことは伝えようと考えているが、どう伝えたらいいか悩んでいる
・(病気を抱えたうえでの)就職活動、転職活動の体験談を知りたい

・なぜ病気を公表して就職・転職活動したのか?

カバヲ:まったく知らない人に病気のことを話すのって勇気がいるし、特に面接となると難易度も相当上がると思うのですが、かるたさんときまるさんは、なぜ病気を公表して活動しようと思ったんですか?

かるた:先ほどもお話ししたように、私は1社目で働いている時に発症しているんですが、在職期間中に何度か再発して入院したこともあったので、言ったほうが働きやすいって思うようになって。今後は無理したくないなというのもあり、転職のタイミングで、病気のことを言って採用してくれる会社で働きたいと思ったんです。あとは、難病の人の手助けをしたいという気持ちもあって、2社目3社目は障害者支援の会社で働いているのですが、病気を通じて得た経験を、逆にメリットのひとつと思ってもらえる職場を狙っていたというのもありますね。履歴書の段階で、病気があるということを記載していました。

きまる:理由は大きくふたつあります。ひとつは、在学中にネフローゼになったことで、大学を1年休学・2年留年したのですが、休学や留年の理由を包み隠さず話すためには病気の公表が必要だったため、話そうと決めました。もうひとつの理由としては、何度も再発して苦しかったし、大学も諦めて地元に帰ろうと思ったこともあったけど、それでも乗り越えてきた。忍耐強さや、病気から学んだことがあると伝えたくて公表していました。とはいえ最終面接で「病気や強い薬を飲んでいるみたいだけど、本当に大丈夫か?」と聞かれることも何度か経験しました。正直大学を卒業して就職浪人を6か月したので、すんなり採用とはいかなかったけど、この先心身ともに無理せず過ごしていくためには、病気を公表したうえでも採用してくれる会社で働くことが、自分にとっては一番いいと思ったからです。

カバヲ:なるほど。おふたりとも、『病気を公表したうえで採用してくれる会社で働きたい。それが自分の身体やメンタルにとって一番いい選択だ』という思いがあったんですね。就職活動がうまくいかなかったときに、もう諦めようかなとか、病気を黙って活動してみようかな、と思ったことはないですか?

きまる:ありましたね。病気を黙るというよりは、休学や留年もあるし、どうしようか……と思う時期はありました。本当にしんどかったときは、実家に帰ろうか……と思うこともないわけじゃなかったです。ただ諦めそうになるたびに、大学を卒業するためにどれほど頑張ったか、若かった時の自分をもっと大切にしてあげたいという気持ちがわいて。諦めずに続けていけば、いつかいい会社に巡り会えるんじゃないかという気持ちで頑張れたんだと思います。

カバヲ:そうやって頑張った結果、無事就職できたわけですよね。きまるさんが就職された会社は、もともと病気に理解がある会社だったりするんですか?

きまる:正直、そういうわけではないと思います。規模も小さい会社なので、一人ひとりにかかる負担も大きいと思う。ただ、「病気を乗り越えてきた」っていうところを認めてもらったんだと思っています。

カバヲ:すごくいい会社に巡り合えたんですね! 病気を公表して就職したからこその利点を感じることはありますか? 働きやすいなとか、よかったなと思うことなど。

きまる:会社が小さいからこそ、全員が働きやすい雰囲気はあるかもしれないですね。病気があるからと言って、嫌がらせをされたりとか仕事を振られなかったりなどはまったくないです。特別理解があるわけではないけど、受け入れてくれてるなという感じはします。

・面接時、どういう説明をしていたか?

カバヲ:面接で病気のことを伝える際、何か工夫しましたか?

きまる:就活の際は「腎臓の疾患がある。難病で再発があり、強い薬を飲んでいる」という形で伝え、「ネフローゼ症候群」という病名は最終面接で言うようにしていました。また、ただ単に病気があると伝えるのではなく、「長い闘病生活を経て、現在は再発の兆候を感じ取れるようになってきたので、働くうえでもうまくできると思う」ということも伝えていました

カバヲ:病気の内容やデメリットを伝えるだけでなく、こうすれば普通に働けますということも伝えて、会社側に安心してもらえるような工夫をしていたんですね。

きまる:はい。少しでも受け入れ態勢を取っていただければと思って、そういう努力もしていました。

カバヲ:それはすごく大切かもしれないですね。病気のことだけを一方的に伝えてしまうと、採用する側だって「うーん……」となってしまうかもしれないし。かるたさんは、気をつけていたことはありますか?

かるた:私も、病気の説明とともに、自己対処していることや配慮してほしいことを話していましたね。とはいえ、私は働きやすそうな会社に絞って就職活動をしていたため、配慮してほしいことって実はあまり多くなくて、具体的に言うと、通院のこととか、疲れやすいので休憩をこまめに取りたいとか、そんな程度です。そうすると向こうも「あ、その程度の配慮で普通に働けるんだな」と思ってくれて。それも、採用につながった一因なんじゃないかなと思っています。

カバヲ:そういう話し方の工夫も、病気を公表して転職・就職活動する際のひとつのテクニックですよね。

かるた:そうですね。きまるさんも言っていたけど、私も「再発の兆候はつかめている」とか「万が一入院になっても、だいたい〇日くらいになると思う」といったことも、必要があれば話していました。

カバヲ:三児の父さんは人事的なお仕事もされているということでしたが、その立場から、就活・転職時に病気のことを話すことについて、どうお考えですか?

三児の父:もし、中途社員の履歴書に既往症が書いてあったらどう思うか……と考えると、正直業務継続に支障が出る可能性がある疾病だと、多少不安を覚える部分はあるかもしれませんね。ただ、長く働く前提で考えるなら、やっぱり病気のことは言わないと、本人が不幸になるような気がします。かるたさんやきまるさんのように、病気を受け入れてもらえる環境をどうやって見つけるかっていう方に気持ちを切り替えた方がいいんじゃないかと思ったりもしますね。


Q3 職場に配慮してもらっていることは?

具体的には下記のような質問をいただきました。
・(病気があることで)職場の人に配慮してもらっていることはあるのか?
・通院はどのようにしているか?

・配慮してもらっていることは?

三児の父:体調が悪いときはもちろん無理しないというのは大前提としてありますが、普段は他の人と変わらないくらいの配慮レベルですかね。ただ、昔より社会的な配慮も進んでいると思いますよ。うちの会社でもダイバーシティという考え方が一般的になってきたけど、みんなが働きやすく、みんなが頑張れる職場にしていくんだ、みたいなところは、昔に比べるとやらなきゃいけなくなっている。そういった世の中の流れもあるんじゃないかと思いますね。

かるた:私も、会社の制度は利用しています。たとえばフレックス勤務だと、体調悪いときは少し早めに業務を終了して、その分体調がいいときにしっかり働いたり。転職する際には、フレックスなどの難病のある人でも働きやすい制度がある会社を探したりしました。もちろん業務内容的にやりたい仕事だったというのもありますが、会社の風土や制度なども決め手になって今の会社で働いています。

カバヲ:自分が働きやすい会社を探すというのもひとつの手だということですね。

かるた:そうですね。そうすれば、わざわざ周りに配慮をお願いしなくても働けるというところはありますね。

空と豆:私は特に配慮をお願いするってことはないですけど、でも上司や周りから「最近体調どう?」と聞いてもらえるだけでも、うれしかったりしますよね。私の職場では、育児や介護、メンタル系疾患の制度はわりと充実しているんですけど、難病の制度となるとまだまだ……というところはあるので、日頃の会話やコミュニケーションなどでおぎなっていくしかないなと思ってます。

きまる:コロナ渦かつSEという職業柄もありますが、リモートワークで働けていることはすごく助かっています。残業はちょっと多いですが、本当に身体にむくみが出てつらいときは、早く上がらせてもらったりもしています。

カバヲ:体調不良にも理解があるんですね。

きまる:そうですね。「体調優先だから」と言ってもらえるし、体調が悪くて休ませてもらうことも何度かあったんですが、その翌日や翌々日には「大丈夫だった?」と周りの人から声をかけてもらえて、働きやすさは感じています。

・通院はどうしている?

カバヲ:みなさん、通院はどうされてますか。有休使われているんですか?

空と豆:有休です。

かるた:私も有休だったり、フレックスでほかの日に多く働いたりしてます。転職したてとか、復職したてとか、有休が少ないときは非常に困りますね。

三児の父:私の通っている病院は毎月2回土曜日も診療しているため、土曜日に行くようにしているので年休は消化せず通えています。ただこれは結果論ですけどね。普通に平日しかやっていない病院であれば、年休取る形になりますよ。

きまる:今までは有休を使っていました。ただ、足りなくなりそう……という気がしてきている。なので最近は、働ける時間ギリギリまで働いて早退して通院、という形にしています。


Q4 体調が悪いとき、どう乗り越えているのか?

具体的には下記のような質問をいただきました。
・ハードな仕事が続くとき、仕事を優先すべきか体調を優先すべきか、きっぱりと判断できず困っている
・薬の副作用や再発時など、体力的にきついときに仕事をどのように調整しているか
・体調が悪くても、遠慮してしまってなかなか言い出しづらい

・体調が悪いときはどうしている?

カバヲ: 再発時(寛解していない時期)はもちろん、薬が多くて副作用がきついときもありますよね。私はフリーランスという働き方もあって、体調が悪くても基本我慢して仕事しているんですけど(笑)。

三児の父:私も我慢派ですけど、でもしんどいときは早く帰るようにしていますよ。定時までは頑張るけど、それが終わったら「ごめん、今日は帰るから」といって何も見ず帰ってます。

空と豆:私も再発時は「しんどー」と言いながら仕事してましたね。本当につらいときはちょっと早めに帰らせてもらったり、休憩中に横になったりはしてましたけど。あと定時には帰って、家ではひたすら静養。家事育児は最小限にして自分が休むのを優先しています。この病気になったメリットというと変かもしれないけど、以前より自己管理できるようになったとは思いますね。疲れる前に休むとか、食事(塩分を気にする)なども気をつけているから、それほど体調不良を感じなくて済んでいるのかもしれないです。

かるた:働き方が完全テレワークになってからは、体調管理しやすくなりましたね。いつでも横になれるし、調子悪いときはお昼休みを少し長くとって仮眠もできるので。具合が悪いときは、とにかく横になる。あとは(尿蛋白を調べる)テープを見ながら、これくらいならまだ大丈夫だなとか、3+まで行きそうになったら早めに病院に行くとかしています。メンタルに関してはやっぱり難しいですね。私も落ち込んじゃったりしやすいし、パニック発作が出てしまったりもあったので。怪しいなと思ったら早めに病院にかかったり、今日の気分とか体調とかを管理できるアプリを利用して、自分でモニタリングするようにしています。

きまる:ほかの方と同じで、基本定時にあがり、夜は静養する。意識的に塩分を抑えたり、カリウムのあるものを食べて身体の巡りを少しでもよくできるようにしています。

・体調不良時の仕事の仕方は?

カバヲ:三児の父さんは、出張も多くてハードに仕事されていると思うんですけど、体調と仕事どちらを優先されていますか?

三児の父:優先しているのは体調の方だと思いますよ。調子のいいときは、まあまあ遅くまで仕事をしたり、やらざるを得ない状況なので普通にこなしたりしますけど、疲れているとき、再発しているとき、減薬したてなどは、次の日に回せる仕事は回すようにしています。仕事を優先してると最後切れてしまうと思うので、仕事を長続きさせるためにも、やはり体調優先しながらやる時はやるけど休む時は休んでメリハリをつける。自分はそのタイプだと思います。

カバヲ:副作用がきつい時期って、正直1日では収まりませんよね? 何週間とか1ヶ月とか体調不良が続くと思うんです。数日だけの不調なら、その日休むなり早退するなりっていう対処も可能ですけど、不調の期間が長くなってくれば、無理やり仕事せざるを得なくなりますよね。そういうときはどう乗り越えていますか?

三児の父:だいたい午前中は調子がよくて午後は疲れてくるパターンなので、仕事の優先順位をつけて、絶対にやりきらなきゃいけないものを午前中に済ませるようにしています。やるべきことは午前中にやって、後でカバーできる仕事は体力の続く限り午後やって、という感じで。普段よりはその辺りの切り分けを厳密にしますかね。

カバヲ:それもメリハリをつけているということですかね。

三児の父:そうですね。体調悪い時期って意外と続くので、全体的に後がしんどくなってしまいますから。しんどいなかでも、やれる時間とやれることを絞り込んでいく、そんなやり方をしてます。

カバヲ:すごく勉強になりました。空と豆さんはどうですか? みなさんデスクワークが多いと思うんですけれど、空と豆さんの場合は、もう少し身体を使う仕事ではないですか?

空と豆:そうですね。日中利用者さんが来ている間は、介助とか支援が多くて身体を使うんですけれど、利用者さんが帰った後は書類とか計画書とかデスクワークをやらなくちゃいけないんですね。しんどいときは、日中支援の時間に抜けさせてもらって事務仕事をやらせてもらったり、休憩時間を使ってやるべきこと(事務仕事など)をやって早く帰らせてもらったりしています。周りにご迷惑かけちゃうんですけどね……。たしかに介助のときは多少体力を使うんですけど、その辺は慣れているのもあって、やることはやって抜くとこは抜くというか。うまく加減しながらやってますね。

・「体調が悪い」って遠慮なく言える?

カバヲ:体調が悪いときに、それを言い出しにくい……という悩みも多いようです。かるたさんは、そういうことありませんでしたか?

かるた:今は体調が悪いときははっきり言うようにしていますが、以前は、どのくらいのときに言ったらいいのか悩んだことはありましたね。今の私の部署では、私がわりと口火を切ってその日の調子を言って、他の人も「実は今日は体調があんまりよくないんだよね~」とかお互いに言い合って、そのときに元気な人がフォローする感じになってるんですけど。でもそういう職場ばかりではないし、昔働いていた職場もそういう感じではなかったので。

三児の父:みんながめちゃめちゃ忙しくしてるときに、自分だけさっさと帰るというのはまあまあ勇気がいりますよね。私くらいの歳になっちゃうと、疲れたからじゃあねっていうこともできるんですけれど、若い人が言うのは勇気がいるのかなと思います。そういう意味では、かるたさんがおっしゃった今の自分のコンディションを常に言っておけば、そういったところの予防線にもなるかなと思いますね。今はコロナ渦ということもあって、体調悪くて会社に来るとか仕事をするとかは「悪」になっているので、結果的にその点はかなり改善されたと思います。

カバヲ:それは本当にそうですね。きまるさんはどうですか? このなかでも一番お若いし、まだ勤められて長い年月も経っていないということもあって、堂々と「休みます!」とは言いづらくないですか? 

きまる:職場内でも自分が一番新人だし、職業柄ずっと忙しいなかで定期的に病院にも行っていることもあって、しんどいから定時で帰りますとは少し言い出しづらいし、自分の性格的にも言い出しづらいところはありますね。それでも本当にしんどいときは早あがりして、早く帰った次の日は1時間早くリモートワークに入って仕事したり……。自分の体調優先でいる方が長く働くという点ではいいのかなと思うので、少しずつ遠慮しすぎないようにできればいいなと思います。

・体調不良に対して、上司はどう思っている?

カバヲ:きまるさんが、「体調が悪いから早退したい」とか「お休みしたい」と申告したときに、上司から「また!?」というような、ちょっと気になる対応が返ってきたことはありますか?

きまる:はっきりとはないです。ただ、自分が非常に周りの目を気にしてしまうタイプなので、もしかしたら今日はもうちょっと頑張るべきだったかな……と思う雰囲気の反応は、正直一、二度はありました。そのときに「もう少しやるべきですか」と何度か聞いたこともあるんですけれど、そう聞いたら、「体調優先でいいよ」としっかり言ってくれたので、それはよかったなと思います。

カバヲ:三児の父さんは管理職ということで、部下の方から「今日体調が悪いので休ませてください」などの申告を受ける立場だと思うのですが、そういうときって上司として(難病の有無に関係なく)正直にどう感じるものなんですか?

三児の父:みなさんが心配されるよりはフラットに、「ああそうなんだ。じゃあ早く帰った方がいいね」って、私的には思っていますよ。「また!?」みたいなことは、基本的には思わないですね。多分自分がそういう経験を持っているからだと思うんですけれど、(体調不良に関して)よくないイメージを抱くことはないと思います。ただ、病気を武器にして一方的に配慮だけを求めてくるとなると、「いやいやそれはちょっと違うだろ」とは、正直言いたくなりますけど。普段からやるべきことをやっているとか、持病があるなりにしっかり業務に取り組んでいるというベースさえあれば、体調不良も普通に受け入れられると思います。

カバヲ:さきほどきまるさんが「早退するかわりに次の日1時間早めに業務に入る」とおっしゃっていましたが、そういう『今は体調が悪いからできないけれど、それはどこかで必ず巻き返します』という姿勢は、見てくれているし理解してくれているってことですよね、上司として。

三児の父:そうですそうです。普段が大事なんじゃないかなって思うんですよね、その点では。そんな気がします。


Q5 やりたい仕事とできる仕事での葛藤は?

具体的には下記のような質問をいただきました。
・好きだった体力系の仕事ができなくなった。やりたい仕事とできる仕事で葛藤している

・今の仕事に対して葛藤はあるか?

カバヲ:やりたい仕事とできる仕事で葛藤していませんかという質問なのですが、みなさんいかがですか?

きまる:じつは就活を始めたときは、調味料関係の会社を希望していたんです。自分が、減塩料理をつくって少しずつ体調がよくなっていった経験から、同じような人を助けたいという思いがあって。同じような理由で、医療系の会社や大きな病院の医療事務なども視野に入れていました。最終的にはSEの仕事に就きましたが、当時はやっぱり、困っている人を助ける仕事に就きたかったな……という想いはありましたね。ただ今思うと、その想いにとらわれすぎていたかなとも思ったり。非常に難しいですね。

かるた:私も葛藤は結構ありました。最初は営業希望で就職していたんですが、2年休職した後の体力では、その企業で求められる営業の仕事に自信が無くなってしまったこともあり、会社と相談して企画の仕事に異動をしました。転職後に立ち仕事をしていたときも、体調的にきつくなって難しいなと思ったり。今も本当は、障害や難病のある人のそばで対面支援をしたいと思うんですけれど、今はそれも自分にとって難しいと感じるので、現場で使う研修を作ったり、利用者さんを募集するためのホームページを作ったり、職員の研修をしたりなど、現場の人を支える仕事をしていて。本当は現場に出たいけれど、一歩下がったところで間接的に関わって、自分の気持ちに折り合いをつけているって感じですかね。

三児の父:自分が希望する仕事に就けないというのは、(病気の有無にかかわらず)正直よくある話なので、葛藤というのはあまりないですかね。私の場合、新卒で入った会社に10年以上いましたが、やりたいと思っていた仕事ができたのは3年くらいで、それ以外は最初は全く興味がなかった分野の仕事をしてました。でも、結局はその仕事で転職して、今の会社でもその仕事をしている。最初は興味もなかった職種ですが、実はもう20年以上その仕事で飯を食っているというという感じなので、できる仕事をずっと続けていくと、そこで自分なりのやりがいとか、これ実は自分に向いているかもっていうのが結構出てくるんだなと、実体験でそう思うようになりました。やりたい仕事でもできなければ意味がないので、できる仕事をしっかりやったなかで、その仕事にいかに自分なりにやりがいを感じていくか、という気持ちの切り替えをしてみたらどうかなと思ったりもしました。そこでどうにもならなかったら、それはそのときに次の手を考えればいい、という感じですかね。長く生きていると若干こんな感じで達観しつつあるという(笑)。

空と豆:私は、大学出てからずっとこの仕事なんで、やりたい仕事の部類だと思うんですけれど、それを病気になってからも続けられているのは幸せかなとは思いますね。私の職場は年にいちど、(異動やキャリアアップの希望などを調査する)自己申告書というものを提出するのですが、キャリアアップはしたくない、に大きくマルをつけているんですよね。本当だったらキャリアアップもして、いろいろな分野の福祉に携わりたいけれど、(病気をしたことで)こじんまり現状維持を望みたくなっている自分がいるっていうのはありますね。いろいろ冒険ができなくなっている。冒険すると、楽しい分ストレスもかかるだろうから、再発しちゃうんじゃないかと考えちゃう。今後の身の振り方を考えたりもしますけれど、まあどうにもならないので、与えられた仕事をどこまでこなせるか、限界がきたら、そのときまた考えてもいいかな? という感じですね。

三児の父:やっぱり仕事があるっていうのは、実は当たり前のことではなく、ありがたいことだと思っていて。実際に就労されている方は働く機会を持っているわけなので、それを幸せに思ったり、最大限自分なりに状況を享受したりすることが大事なのではないかなと。世の中、いろいろな事情で働きたくても働けない人がいっぱいいらっしゃるので。

カバヲ:確かにそうなんですよね。きまるさんは、年齢的にも若い世代になると思いますが、みなさんのお話を聞いて思うことはありますか?

きまる:与えられた仕事をこなすというのがいかに大事で、働けるということは幸せなんだな、というのを噛みしめて生活していこうと思いました。そう考えることで、働くうえでしんどいことも乗り越えていけると思いました。意識がひとつ変わりました。ありがとうございました。

カバヲ:みなさん、お忙しいなかありがとうございました。本当にいいお話しを聞かせていただき、ありがとうございました!

(インタビュー時期/2021年7月)

当記事の内容は個人の体験談であり、治療や職業生活における効果を保証するものではありません。
当インタビューの情報を参考にして生じた損失や不都合などについて、座談会参加者および患者会は一切責任を負いません。

「経験者に聞く」第1回目の記事はこちらです
>>【経験者に聞く】ネフローゼを治療しながらの「妊娠・出産」って実際どうなの?


取材・文/イトウウミ

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終わりに(患者会・田中)

今回のインタビューを通じて、それぞれが自助努力をされているのだと感じました。記事の中にあった「仕事があることをありがたく思って目の前の事を頑張る」という姿勢も大切な事ではありますが、病気に限らず、当事者だけに過重な負担がかからないように、誰もが働きやすい世の中にしていく必要性があると思います。

長く療養していて何から始めればいいかわからないという方は、一次性ネフローゼの場合、障害者総合支援法の対象疾病になっており、就労移行支援や就労継続支援などの就労に関わる福祉サービス利用申請が出来ます。またハローワークには「難病患者就職サポーター」という方が配置されていますので、相談してみるのも一案です。

参考URL
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/service/naiyou.html

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