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短編小説 |鴨川の宇宙人1/6

プロローグ:鴨川の奇妙な出会い

京都の鴨川。古都の中心を悠々と流れるこの川は、数多の歴史を見守ってきた。その土手を、私は放課後いつものように歩いていた。夕暮れ時の空気が心地よく、川面に映る夕陽が美しい。しかし、この日常的な風景の中で、私の人生を大きく変える出来事が起ころうとしていた。

突然、奇妙な声が耳に入った。最初は誰かが携帯電話で話しているのかと思ったが、どうもそうではないようだ。振り返ると、一人のおじさんが立っていた。

「なるほど、素晴らしい洞察だ」と厳かに呟いたかと思えば、「いやいや、そりゃないぜ、兄弟」と軽薄な調子で返す。さらに「計算が間違っている。再考せよ」と冷たく言い放つ。

その様子は、まるで複数の人と会話をしているかのようだった。しかし、周りには誰もいない。おじさんは一人で立っているだけだ。

興味をそそられた私は声をかけた。「あの、誰かといるんですか?」

おじさんは驚いたように私を見た。「ああ、いや…独り言さ」と言いつつも、落ち着かない様子。彼は「ハットリ」と名乗った。

「ハットリさん、ですか。でも、さっきから誰かと話しているみたいでしたよ?」

ハットリさんは困ったような表情を浮かべた。「いや、その…」と言葉を濁す。

会話を続けるうち、ハットリさんの言動がますます奇妙に感じられた。彼の話は一貫性がなく、口調や性格が目まぐるしく変化する。

「君、学生さんかい?」と穏やかに尋ねたかと思えば、「おいおい、若いのに放課後こんなところをうろついてちゃダメだぜ」と叱るように言う。そして次の瞬間、「若者の行動パターンの分析、興味深いデータだ」と冷静に分析を始める。

私は戸惑いながらも、なぜか彼から目が離せなかった。「ハットリさん、あなた…一体何者なんですか?」

ハットリさんは一瞬、困惑した表情を見せた。しかし、すぐに穏やかな笑顔に戻る。「私か?ただの普通のおじさんさ。ただ、ちょっと変わっているかもしれないがね」

その言葉に、私は首を傾げた。普通のおじさん?いや、そんなはずはない。この人の中には、何か特別なものがある。そう直感した。

「ねえ、ハットリさん。本当のことを教えてください。あなたの中に、何か…いえ、誰かいるんじゃないですか?」

その瞬間、ハットリさんの表情が凍りついた。「君、どういう意味だ?」

私は自分でも驚くほど冷静に答えた。「あなたの中には、複数の人格が存在しているのではないでしょうか?」

静寂が流れた。ハットリさんは長い間黙っていたが、やがてため息をついた。「君は鋭いね。そう簡単に気づかれるとは思わなかった」

その言葉に、私の心臓が高鳴った。まさか、本当だったのか。

「実は…」ハットリさんが口を開こうとした瞬間、彼の体が光り始めた。私は驚いて後ずさりした。

「いかん!制御が効かなくなってる!」「おいおい、まずいぜ!」「緊急事態だ。対処法を考えろ」

ハットリさんの口から、次々と異なる声が飛び出す。そして彼の体は、まるで万華鏡のように形を変え始めた。

私は恐怖と興奮が入り混じった感情に包まれながら、目の前で起こっている信じられない光景を見つめていた。

ハットリさんの正体とは一体…?彼の中に潜む複数の人格の正体は?そして、なぜ私にそれが見えたのか?

疑問が次々と湧き上がる中、私は自分がとんでもない秘密に触れてしまったことを悟った。そして、この出会いが私の人生を大きく変えることになるだろうと直感した。

鴨川の土手で、夕暮れ時。私の平凡だった日常が、突如として非日常へと変貌を遂げようとしていた。

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