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なにか歪んでいる 『カルテル・ランド』マシュー・ハイネマン(ドキュメンタリー 2015)

私の日常生活では、ニュースや人の話の中で、カルテル(麻薬密売組織)について見聞きすることがある。
たとえば隣の州で、マフィア(「カルテル」と同義だと思う)が、大型トラックを幹線道路上で燃やしたことがあった。目的は、政府や対抗組織への見せしめらしい。たまたまそこに居合わせた人が、黒煙を上げるトラックの写真を見せてくれた。
そんなふうに、麻薬戦争は身の回りで起こっており、身近な問題としてこのドキュメンタリーを見た。

本作は、2010年代前半のメキシコの麻薬戦争を扱っている。
主な取材対象は3つ。

まず、メキシコ・ミチョアカンの自警団。
自警団とは、カルテルの暴力から自分たちの町を守るために結成された住民グループ。ライフル銃を持ち、カルテル関係者を摘発して町を奪還する。形だけの見張りに立つ警備員のようなものではなく、文字どおりカルテルと戦っている。警察や軍はカルテルと結託しており、助けてくれない。

それから、アメリカ側の自警団。国境付近で、麻薬や不法移民の流入を防ぐため活動している。連邦政府の警備隊は国境を十分に監視できていないと彼らは言う。
主要人物の1人ネイラーは、自ら社会の底辺で暮らした経験から、不法移民の存在に問題意識を持ち、この活動に関わるようになった。

そして、映画のはじめと終わりに登場するのが、麻薬製造・密輸を末端で実行しているメキシコ人たち。

映画の中で、メキシコ側の自警団が略奪を働くことが問題になっている。
自警団リーダーのミレレスは、潜り込んだカルテルメンバーの仕業と見ていた。結局、自警団は一枚岩ではなく、ミレレスを排除して連邦政府の管轄下となった。合法組織となったわけではあるが、政府・警察はカルテルと繋がっている。
その後、ミレレスは武器の不法所持で逮捕され、現在も刑務所にいる。

一方、麻薬製造者の話は、ひどくすっきりしている。
俺達は金が必要だから麻薬を売っている。カルテルも自警団も仲間だ。同じ金で潤っている。

欲望と暴力に支配された世界が、力を持っている。

なにか歪んでいる。
全て非合法なのに、カルテルが跋扈する状況になるのはなぜだろう。
なぜ、メキシコの行政も自警団も、本来の使命や目的を外れて、敵対するはずの相手と手を結んでしまうのだろう。

そういえば、メキシコの労働組合も、同様の問題を長く抱えているという。
経営者側と癒着し、幹部は私腹を肥やしている。政府が介入し、巨大な富を蓄えた書記長が追放されたケースなどはあるが、人々の不満をガス抜きするためのただのパフォーマンスかもしれない。

一体どうして、そのような状況になるのだろう。
私にはまだわからない。

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