見出し画像

チップ習慣に納得と違和感 『現代メキシコを知るための70章』国本伊代編著(評論 2019)

「〇〇国を知るための○章シリーズ」の、メキシコ版。メキシコに興味を持った人に、この国の歴史から現代政治、経済、文化まで、要点を解説してくれる本。

メキシコのスーパーでは、買った商品を袋詰めしてくれる人がいる。レジカウンターの先で待ち構えていて、こちらから頼まなくても勝手にどんどん詰めていく。高校生くらいの若者もいるけれど、高齢者が目立つ。

さて、この国にはチップの習慣がある。当然、袋詰めの彼らにもチップを渡す。
私はなかなかこれに馴染めず、つい、「また渡さなければならないの?」と感じていた。少額とはいえ、頼みもしないサービスに対して財布からお金が出ていくのは、なにか腑に落ちなかった。レストランで食事をした際のチップは、まだ納得できる。でも、品物を袋に入れるのは、自分でできるのに。

けれど、『現代メキシコを知るための〜』の以下の記述を見ると、ケチらずに渡していてよかったのかもしれない、と思う。

(大手小売店が)地域社会への貢献と客へのサービスとして導入している、買った商品を袋に入れるサービスに、高齢者を積極的に活用する政策が首都圏だけでなく地方でもこの数年で目立つようになった。チップをはずむのが常識の社会では、年金で暮らしていけない高齢者がかつては子供達がやっていたこの作業を引き受けているのだ。(略)作業は1日3時間ほどだが、その間に得られるチップは最低賃金(2018年の最低賃金は1日83ペソ=約500円)の半分以上になるという。

また、貧困に関する以下の事項も、繰り返し述べられている。

・世界銀行の資料では、2017年時点で国民の約5割が貧困層と分類される。
・労働人口の半数〜6割が、インフォーマルセクターで働いている(路上の物売り、家政婦、日雇いなど)。彼らに関する統計数字はなく、社会保障の網から外れている。

ますます、チップを出し惜しむべきではない気がしてくる。

正直にいうと、メキシコの最低賃金を今まで知らなかった。そして、その額が私の肌感覚以上に安いので驚いた。生きていける最低限だとしても、とても少ない。そのお金でどんなものを食べるのだろう?どこで衣類や日用品を買うのだろう?私が知っている場所ではないのは確かだ。

自分が住んでいる国のことを、少しずつ知るたびに、まだ知らないこと、イメージさえできないことに突き当たる。

チップの話に戻る。
それでは、これからは私も違和感なくチップを払えるかというと、そうはならない気がする。
謝意をお金(しかも小銭)で表して、渡す側も受け取る側もわだかまりなく満足する感覚は、私にはまだよく飲み込めないから。
貧富の差が厳然として存在する社会で成立する文化なのかな、と思う。その格差のあり方に、自分は馴染んでいないのかもしれない。
ただ、その違和感は抱えつつ、以前より納得して、スーパーの袋詰め係にお金を渡すと思う。

この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?