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『Babel』―異世界で言葉が通じるって当たり前ですか?


お世話になっております、古宮です。

今回は、ちょっと変わった道筋を取った自作の『Babel』が完結したので、そのご紹介と御礼になります!

『Babel』というお話

電撃の新文芸というB6判レーベルから、全4巻です! 1巻あたり、文庫2.5冊分くらい入っている……。それはもうぎゅうぎゅうに詰めました。もともとの話が4部構成なので、それにあわせてぎゅうぎゅうに。

この話が書かれたのは2008年です。Unnamed Memoryをかき上げてから1年くらい後に書いたものになります(Unnamed Memoryは発表するまで長かったので、web上の発表年は同じです)

当時は、少女主人公で異世界に迷いこんで、そこで活躍するーという話が流行ってまして。「ああ、こういう形態なら変化球の話でも読んでもらえるかな」と思って書いたのがBabelです。

異世界での言語を大ギミックに据えた、主人公の成長譚。

これは当時、割と珍しいタイプの「主人公がめちゃくちゃ苦労する話」でした。なんかこう、現地で認められたり、日本知識を披露していい目にあったりすることない。違う世界の人間だとばれると危ないし、貴族に捕まって皮を剥がれたらやばいので、素性を隠して旅をする、古いタイプのファンタジーです。

「世界に自分を知らしめていく」タイプの話ではなく、「世界を自分が知っていく」タイプの話で、主人公は現地の多くの人と出会い、衝突し、日本人としての倫理観を保ちながらも、異世界ナイズされた形で成長していくことになります。異世界転移もの、ではあるのですが、どちらかというと、世界ふしぎ発見に近い。郷に入っては郷に従え、の話です。

で、同時に「日本という外部から来た」人間の視点が、誰も気づかなかった世界の違和感を暴いていく話でもあります。そのための伏線が、3巻までにぎゅうぎゅう張られていて、4巻で回収される、全4部の謎解きファンタジーのようなものです。

そんな話ですが、何年か前に宝島社さんの「このweb小説がすごい!」で7位を頂き(アンメモは9位でした)、それを機に書籍化のオファーを頂いたりしました。しかし古宮は公募上がりの作家なので、電撃にその旨連絡したところ「いや、じゃあうちで出そうぜ」となり、電撃文庫版で2巻まで刊行しました。

そもそも1回打ち切りになった

文庫版はもう、今現在入手不可能、に近いです。新文芸版と間違えて買わないように、電子も配信停止になっています。

担当さんとどんな打ち合わせで1巻を書いたか、詳細は覚えてないんですが、私はそれまでの経験から「絵師さんのスケジュールとかもあって、1年に1冊くらいしか刊行できないっぽいなー(これは後で人や時期による、と分かりました)」「文庫でやるなら1巻ずつ区切りのいいところまで書きたいから、もうどばっとカットして全4部を4巻に収めるくらいにしちゃおう」くらいの発想でした。ので、本来は倍の分量ある1部から、必要な伏線だけを拾い上げて、事件を再構成しました。超圧縮版ですね。切り取り動画みたいだ。

で、これが発売一週間で打ち切りが決まりました。

ラノベって発売から一週間で決まるって都市伝説じゃないんだな、すげー! と思いつつ、担当さんが「2巻までは出せますんで、そこで話を畳みますか?」と聞いてくださったので「いや、続きはwebで読んでもらいましょうよ!」と全然気にせず、同じ形式で超圧縮版を出して文庫版は終わったわけです。その後、webを読みに行ってくださった方は多く、そのためにPC買ってくださった方もいらっしゃって、本当にありがとうございます!

イラスト担当の森沢先生にも平謝りなんですが、後日コミティアなどにも様子を見に来てくださり、本当にありがたかったです。

忘れてた頃に、再書籍化の話がきた

Babelは、風呂敷を畳みきって終わった話なので、結構忘れてました。

ただ担当さんだけは打ち切りが悔しかったようで、「絶対隙を見てなんとかするので! 打ち切りって言わないでください! 著作一覧にも完結とかつけないのはそのせいです!」と折に触れて言われました。あれ、私割と打ち切りって言ってるな……。すみません。

同時に、私がへらーっと何も言わないまま打ち切りになった一件は、読者さんたちにめちゃくちゃ危機感を与えたらしく、『Unnamed Memory』が電撃の新文芸の創刊タイトルになった時には、皆様に大変な心労をかけたようです。すみませんすみません。

ただ皆様のそんな支えのおかげで、『このライトノベルがすごい! 2020』で『Unnamed Memory』は大判1位を頂きました。

そこを担当さんは「今のうちじゃない!?」ということで、「Babelにもう1回挑戦しませんか」と仰ったのです。

打ち切りからの復活、ってぽつぽつとあるのですが、やっぱり数は少ないです。打ち切り巻からの続刊、とか、他レーベルで拾われた、とかあるんですが、同じ編集部から、本が大きくなって出し直し、は珍しい方だと思います。

実のところ単行本の利点は単純に「打ち切りされにくい」です。1冊の値段が高いせいか、文庫よりも少ない部数で出すことができます。(もっとも『Unnamed Memory』も『Babel』も、1冊に文庫2冊分強は詰めているので、本当に出版社に利益が出ているのかは分からない……)

私は「えー、4巻まで読まないと分からないタイプの話だし、売れないんじゃないかな……。でも少部数で出しきって逃げ切っちゃうのはありかな」と迷い――「やるなら、イラストは森沢先生に続投して頂きたいんですが」と聞いてみました。

森沢先生は、即答でOKを出してくださったそうです。

そのありがたいお返事に決心がつきました。

よし、4冊で逃げ切ろうぜ!(担当さんが大変)

文芸用の分量で出版しなおし!

幸い、新文芸になったということは……文庫の2倍書ける!

というわけで、削った部分を戻して整えて、文庫出版分の上位互換である1,2巻を出しました。

3巻は、文庫では出なかった部分、今まで相方の魔法使いに助けてもらってきた主人公が、相方と離れ、見知らぬ国の城で一人奮闘し、成長していく話です。

異世界転移の成長ものである以上、この「誰も頼れない中で、自分の力でなんとかする」というフェーズは絶対必要だと思っていて、ただここは……文量がとにかく多い。削れない。仮に文庫が打ち切られていなかったら、多分この3巻部分で相当困ったと思うので、結果としてよかったと思います。

そして、今日発売の4巻です。

ここには、全ての謎明かしが詰まっていて、1-3巻で書かれていた何気ない話の本当の意味が一つ一つ明らかにされていきます。

この話は、「異世界を知る」という性質上、雑談にうんちくが多いのですが、その中に色々重要なピースが混ざっていたことに気付くのもここです。

1-3巻だけだと、犯人が分からないミステリ、みたいで意味がない話なので、こうして完結巻まで出せたこと、本当に皆様に感謝をしております。

本をお手に取ってくださり、更には口コミや宣伝など支えてくださった読者様(このラノ5位入賞、ありがとうございます!)、一度打ち切られたのに見捨てずイラストを引き受けてくださった森沢先生、ネゴって最終巻までの出版を確保してくださったであろう担当さん方、ありがとうございます。

最終巻は決して多い部数ではないので、本屋さんで出会うことはまずないと思いますが……ファンタジーの膨大な伏線が畳まれていく面白さは保証します。

異世界で言葉が通じることは、当たり前ではない。

もしそれを当たり前と思う状況が成立しているのなら――そこには秘密があるのだ。

そんな秘密の開示に、ぜひ触れて頂けると嬉しいです。


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