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日本企業のシステム変更における課題とその本質

私がみてきた範囲だけだが、日本企業におけるシステム投資はスタートから課題がある。
先ず、システム部門の地位が低く、社内における発言権がないことだ。
多くのシステムエンジニアは、問題点を把握しているが、責任者は発言しないことが多かった。
いわゆる様子見だ。

他方、現場の責任者は、システムの効果的な導入を理解せず、自分の考え方で押し切ろうとする。
また、多くの経営職は、システムのなにかをほとんど理解できていない。
システム部門やベンダーに丸投げだ。
権限のないシステム部門は、現場の理不尽さに振り回されて、さらにベンダーへ泣きつく。
ベンダーも弱い立場だから、本質的議論を避ける傾向が強い。
しかも、クライアントからの追加や修正等は売上の増加だ。
仕様書を作成しては、追加承認をもらい作業を継続する。
できあがったものが、うまく稼働すれば、幸運だ。

先日、グリコは業務システムについて、独SAPのクラウド型ERP「SAP S/4HANA」を使って構築した新システムへ切り替えるプロジェクトを推進してきた。旧システムからの切替を行っていた4月3日、障害が発生し、一部業務が停止。その後、一部商品の出荷が停止となり再開されたが、「プッチンプリン」「カフェオーレ」「アーモンド効果」をはじめとする大半のチルド食品は再び出荷停止に。さらにキリンビバレッジから販売を受託している果汁飲料「トロピカーナ」や野菜飲料の出荷も停止するなど、影響は他社にも拡大している、と報じられていた。

また、これによりグリコが被る損失は大きい。同社は5月、24年12月期連結決算見通しについて、売上高は従来予想を150億円下回る3360億円(前期比1%増)に、純利益は従来予想を40億円下回る110億円(前期比22%減)に下方修正すると発表した。ダメージはこれだけではない。4月22日付「日経クロステック」記事によれば、プロジェクトの当初の完了予定は22年12月であったが延期され1年以上の遅れとなり、投資額は当初の予定金額の1.6倍にも膨れ上がっている、と報じられていた。
昨日、一部の商品は出荷されたと追加報道されていた。

本来、システムの大規模変更は、経営トップ、あるいは担当役員の仕事だ。
はじめに、どのようなシステムにするかという全体構想をシステム部門とベンダーから詳しく聞く必要がある。
もちろん、システム部門の責任者と若手も同席の上だ。
しかも、若手に発言させる場がなければならない。
なぜか、ふたつの理由がある。
ひとつは、若手は素直に現状をみており、問題の急所を捉えていることがある。
ふたつめは、経営者はなんども若手を含めてミーティングを重ねることでプロジェクトの雰囲気をつかむことができる。
若手が生き生きと仕事をしていればプロジェクトの進捗に問題がない。
経営者は、むずかしいシステムの仕組みを精緻に理解するのではない。
人の行動をみるのだ。
また、この際、現場をいれてはいけない。
現場は仕事をよくやり稼ぐが、とかく変更や改革に反対する生き物だ。
現場を入れてやる会議は、また別に設けてやるべきだ。
経営者は、そのうえでプロジェクトの進捗をPLに任せていくことが肝心だ。

全体構想が決定すれば、経営者(担当役員)は、トップダウンでシステム変更の大義と方向性を現場に話すことが重要だ。
要は、システム部門の専門性を活かせる体制づくりをおこなっておくことだ。
後は、信頼できるベンダーがいれば、システム部門を中心に入れ替え作業をやっていく。
とかく、システムのなにかを理解できていない稼ぐ部門の責任者や役員ほど声がでかい。
要注意だ。
改革にならず、システム部門やベンダーの仕事の足を引っ張る。
このような人物がいることで、システム設計や導入は、混乱に混乱をきたす。

私が在籍していたある企業の創業社長は、これをよく理解していた。
現場の話をよく聞く人だったが、私たちのアドバイスを受け入れ、できる限りカスタマイズを少なくし、ベンダーが推奨する標準機能を優先してもらった。
導入するための当初の投資額は約5億円だったが、標準機能を優先することで導入期間とコストを削減できると、私たちメンバーは踏んでいた。
しかも、運用のトラブルも少なく、導入と同時に本格的な稼働ができた。
創業経営者の学ぶ姿勢と決断力に感服した。

日本企業では、ベンダーを下にみる企業が多いが、実は大手ベンダーは多くの企業をみており、各企業の経営機能や経営能力などを把握している。
有能なベンダー、担当者にもよるが、各企業の現状の問題点を把握する能力が高く最適解をつかんでいる。
企業は、このようなシステムに関する能力が高いベンダーを活用する立場だ。
うまくベンダーを活用する企業には、ベンダーとの上下関係がないわけではないが、可能な限りなくす努力をしている。
社員もベンダーもみな経営改革をしていく仲間として対応する。
これが理解できていない経営職が多く、トラブルを発生させる。
また、社内におけるオープンなコミュニケーションができていない企業ほどトラブルがでるものだ。
現場が部分最適ばかり追うからだ。

私が退職した後、ソニーでもSAPを導入していたが、大きなトラブルは聞かないし(私が知らないだけかもわからないが)、また、多くの企業でSAPは利用されているのでSAPの特殊な問題ではないだろう。
残っている原因は、企業の特殊環境と要因なのだ、と思われる。
企業が過去からもつ企業体質は、かなりやっかいだ。
あらゆるところに根付く。
だからだろうか、成功体験をもつ企業や数社が合併した企業などでは、この体質が新たなシステム導入時などに顔を出し、悪さする。

もっともむずかしいシステム内容は業務系システムだ。
各社のノウハウが詰まっているからだ。
ここだけは、各社の現場から徹底したヒアリングをおこない、最適解を探しだすことになる。
それでも既存のシステムを残すほど、システム入れ替え時のトラブルが発生しやすい。
私が経験した企業は、業歴が浅く、経営者の決断で旧システムを残さず簡単に捨てた。
完全に新規システムとして導入した。
小さなトラブルはあったが、順調に移行して稼働できた。

とにかくベンダーの意見をよく聞き、追加費用に対する判断も経営者自身がおこない即決していた。
当初予定額よりオーバーしたなぁ、と笑っていた。
約5億円オーバーした。
私は、自分が担当した人事システムだけで1億円の追加投資をおこなってもらったが、私はその段階では必要ないのではないか、と次回の投資を進言した。

創業経営者から、私の頭でみている世界と創業経営者が考えみている世界が違うと言われ、投資を実行させられた。
みている世界は、まったく違った。
投資をしておかなければ、企業の成長もなかっただろう。
私やサラリーマン経営者ではこうはいかない。
未来をみる力は、資金の使い方と実行力でわかるものだ。
人の話をよく聞き、さらに謙虚に学ぶ経営者だった。
しかも、異次元だった。
勿論、経営だから多くの問題と課題が、次々と押し寄せてきたが、正攻法で解決していった。
現代社会にあって数少ない大義と志をもつ経営者だった。
若くこわもての経営者だったが、私は話がしやすく、なんでも相談できる経営者だった。
怒られることもあったが、理屈があり、怒るだけでなくわかりやすく説明してくれ、さらに私が話す言葉を真剣に聞いて結論を出す。
本質的な議論ができる経営者だった。
私は、その上で、次々と株式公開のための改革を進めた。

経営上の大きなトラブルの本質は、多くは目に見えないのだが、だいたい経営者にある。
経営者が作り出す企業風土や環境は、会社のすみずみまで波及する。
トラブルでもよい結果でも、物事というものは、経営者や経営職などの権力をもつ者たちの言動がまわりまわって生まれてくるものだ。
私にはシンプルにみえていた。

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