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野球のスポーツ障害のお話

今回は野球のスポーツ障害の野球肩、野球肘についてお伝えいたします。
野球肩や野球肘と言えば、皆さんも馴染みのある疾患名かと思いますが、正式名称は「投球障害肩」「離断性骨軟骨炎」と言います。

投球障害肩はボールを投げる動作に伴って肩関節周辺に発生する痛みの総称で、離断性骨軟骨炎(野球肘)は、ボールを【投げる動作】によって肘が痛くなる肘の障害の総称です。

これらの症例は「野球」や「ソフトボール」、「やり投げ」などの物を投げる動作でも見られ、「テニス」のサーブ時やストローク時のラケットを振る動作で肘に強い力がかかるスポーツでも生じます。

また、野球肘は子供だけでなく大人にも発症し、痛みのでた時期によって以下の2つに分けられます。
少年期野球肘: 骨端線(成長線)閉鎖前の成長途上の骨端線や骨軟骨の障害
成人期野球肘: 骨端線閉鎖後の骨、関節、靭帯の障害


投球動作について

投球時は、大きく分けて5つのフェーズがあり各フェーズごとに発症する疾患が異なります。この後に解説する疾患の病態と並行して覚えておくとイメージが付きやすいと思います。

投球フェーズのイラスト

1.ワインドアップ期
 ワインドアップは踏み出し脚を挙げ始めてから一番高く上がるまで
 の事を言います。

・コッキング期
 このコッキング期は前期と後期のフェーズがあります。
 前者を「アーリーコッキング期」と言い、後者を「レイトコッキング期」  
 と言います。

2.アーリーコッキング期は、踏み出し脚が一番高く上がってから踏み出し
 て足底が地面に接地するまでを言います。

3.レイトコッキング期は、踏み出し脚の足底が地面に着いてから投球側の
 肩関節が最大外旋位になるまでのフェーズのこと。
 わかりやすく言うと胸を大きく張るまでになります。

4.加速期(アクセラレーション期)
 加速期は、投球側の方が最大外旋位になってからボールをリリース
(離す)までの事を言います。

5.減速機(フォロースルー期)
減速期はボールをリリースしてから腕が振り下ろされるまでの事を言います。※減速期をさらに分ける場合もありますが、ここでは、まとめて減速期とさせて頂きます。



野球肩の原因

野球肩の原因として繰り返し投げることで、肩への負担が大きくなることで発症します。特にコッキング期~ボールリリースにかけて肩に大きな負担が生じます。
投球過多(オーバーユース)以外にも、投球動作としては、始めは下半身~体幹~上半身と全身の機能を使った運動連鎖をされます。
そのため、下肢、体幹、肩甲帯の柔軟性低下や筋出力低下(コンディション不良によるミスユース)が生じると肩に大きな負担がかかり痛みが生じます。

野球肩の症状

肩の挙上時の痛み、関節可動域制限、投球時、投球後の痛み、筋出力低下がみられ、パフォーマンス面では、全力投球不可、球速の低下、遠投距離の低下などが挙げられます。
また、成長期のアスリートに野球肩が生じると、腕の成長障害をおこすこともあります。リトルリーグショルダーにより成長軟骨が障害を受けると、成人期になってから両上肢の長さに差が生じてしまうこともあります。

野球肩の分類

・インピンジメント症候群
・関節唇損傷(SLAP病変)
・上腕骨骨端線離開(リトルリーガーズショルダー)

インピンジメント症候群

成人の野球肩でも多いと言われているのがインピンジメント症候群です。
投球動作のコッキング期~フォロースルー期にかけて、肩関節外転外旋位から内旋位に移行する際に上腕骨頭と肩峰がぶつかり、その間にある腱板(棘上筋)や肩峰下滑液包が挟みこまれて痛みが生じます。
その他にも肩を挙げる際に引っかかり感やつまり感の訴えなどがあります。

インターナルインピンジメント PSI(後上方インピンジメント)

コッキング期おいて肩関節外転外旋位のポジションで腱板の(棘上筋、棘下筋)が後上方関節唇と衝突して挟まれ痛みが生じる病態となります。
広背筋、僧帽筋中部、下部、菱形筋など後方の筋の硬さや、大胸筋、小胸筋、前鋸筋など前方の筋の柔軟性低下、関節包の硬さ、肩甲骨可動性不良などが原因です。

ASI(前上方インピンジメント)

投球動作のフォロースルー期(水平内転+内旋)で多いと言われていて、腱板の(肩甲下筋腱)が小結節に挟まれ痛みが生じる病態です。
原因として、上腕骨頭の前方変位や肩関節前方の緩さ、後方軟部組織の硬さや広背筋、僧帽筋、菱形筋などの後方筋の硬さ、肩甲骨可動性低下などが原因です。


リトルリーグショルダー(上腕骨骨端線離開)

成長期の上腕骨には骨端線(成長軟骨)があり、この骨端線は大人になるにつれなくなり成長が止まります。
成長期では骨がまだ、未熟のため投球動作を繰り返していると上腕骨に負担がかかり痛みを生じます。
原因として肩関節の外転外旋位(コッキング期)から内旋位に捻りながら(フォロースルー期)へ移行する際に捻るストレスと投げおろすときに肩から手に向かって遠心力(牽引力)がかかり引っ張られることで骨端線(成長軟骨)に負荷を与え痛みがでます。
※小学生や中学生の場合はオフの時期がないため球数制限や練習、試合後のケアが特に大事になってきます。



続いて、野球肘について解説していきます。

野球肘の原因

野球肩と同様で本症例は繰り返しボールを投げたり、ラケットをふることで肘に強い力がかかり、骨(骨端線)、軟骨、靭帯、筋肉に負担がかかり発症します。
特に投げすぎ(オーバーユース)による野球肘が最もよく知られていますが、「肘下がり」「手投げ」「体の開きが早い」「全身の柔軟性の低下」などの不適切な投球フォームなどのミスユースでの発症も多いです。
また、速い球を投げる、遠くに球を投げるなど、たった1球でも肘に大きな負担がかかる場合、骨の強度が原因で野球肘が発症することが知られています。最近ではボールの種類や大きさ、球種なども野球肘の原因になることがわかってきています。

野球肘で肘が痛くなるメカニズム

肘には上腕骨(肩側)、橈骨・尺骨(手首側)の3つの骨があります。
ボールを投げるときには以下のそれぞれの部位に強い力が加わり、少年期には成長軟骨や骨端線、成人期には骨や関節、靭帯に負担がかかります。
肘の内側(小指側)には骨をつなぐ靭帯やボールをにぎったり押し出す筋肉がついています。
したがってボールを投げるときには、内側には関節が離れようとする力(牽引力)が加わります。外側(親指側)では骨と骨(関節)がぶつかる力(圧迫力)が加わります。後方では関節がぶつかる力(圧迫力)が加わります。

野球肘の症状

野球肘の主症状は、ボールを投げる時や投げた後に肘が痛くなることです。
1球で痛みが出て投げられなくなるものや、徐々に痛みが出て痛みが慢性化するものがあります。
多くは日常動作で痛みを感じることはありませんが、症状の悪化とともに日常生活での肘の曲げ伸ばしで痛みを感じたり、肘が急に動かせなくなることもあります。
また、稀に手の小指側(尺側)にしびれや力の入りにくさが起こることもあります。そのため、全力でボールを投げられなくなったり、遠くまでボールを投げられなくなることもあります。

野球肘の分類

野球肘は肘の痛む部位から内側型、外側型、後方型、その他の4つに分けられます。

内側型野球肘 
  少年期 内側上顆障害
      内側上顆裂離損傷(剥離骨折)、
      内側上顆骨端線閉鎖不全(骨端線離開)
  成人期 内側側副靭帯損傷
      尺骨神経障害

外側型野球肘  
  
少年期 肘離断性骨軟骨炎
  成人期 滑膜ひだ障害

・後方型野球肘  
  
少年期 肘頭骨端線閉鎖不全
  成人期 肘頭疲労骨折
      後方インピンジメント症候群

その他
  少年期 関節内遊離体(関節ねずみ)
  成人期 関節内遊離体(関節ねずみ)
      変形性肘関節症

1. 内側型野球肘

投球動作では、加速期に腕が前方に振り出される際に、肘に強い負荷(外反ストレス)が肘の内側の骨の出っ張り(内側上顆)に加わります。
さらに、その後のボールリリースからフォロースルー期でも手首が背屈(手首を反らす)から掌屈(手首を曲げる)、前腕は回内(内側に捻ること)、指は屈曲(指が曲がること)に素早く曲がるため、肘の内側に強い負荷が加わります。
この動作の繰り返しにより、年齢によって構造的に最も弱い部分に負荷がかかり損傷が起こります。

内側上顆障害

肘の内側の骨の出っ張り部分(内側上顆)にある成長軟骨が障害されます。徐々に肘の痛みが出て、初めのうちは投球後数時間で痛みはおさまりますが、そのまま投球を続けていると痛みがおさまりにくくなります。

内側上顆裂離損傷(剥離骨折)

内側上顆障害とよく似ていますが、これはある1球を投げた時から急に痛みが出ます。肘の内側の出っ張り部分(内側上顆)の成長軟骨や骨が割れたもので(裂離)、痛みが強いことが多いため2~4週間程度の安静、場合によっては肘の固定が必要なことがあります。

内側上顆骨端線閉鎖不全(骨端線離開)

中学生頃に肘の内側の出っ張り部分(内側上顆)の成長軟骨と上腕骨の間は成長とともに癒合します。しかし、強い負荷が繰り返しかかると癒合せずに痛みの原因となることがあります。また、ある1球を投げた時から急に痛みが出ることもあります。
これは、投球時に内側の筋肉に引っ張られて肘の内側の出っ張り部分(内側上顆)の成長軟骨が上腕骨からはがれた状態です。
転位が大きい場合は手術が必要になることがあります。

内側側副靭帯損傷

通常、骨端線が閉鎖した高校生以上で起こります
前述の投球動作の繰り返しにより、肘の外反を制御する内側側副靭帯にストレスを受け受傷します。
1回の外力で靱帯が完全に断裂する場合と異なり、野球肘では繰り返す牽引により、内側側副靱帯が部分的に損傷したり変性します

尺骨神経障害

長年野球をすることにより肘に変形が起こり、この変形によって内側の神経(尺骨神経)が圧迫されたり、肘周辺の発達した筋肉が神経を圧迫したりして小指や薬指にしびれが出ることがあります。この場合、投げているうちにしびれが出て投げられなくなることもあります。
投球の休止、腕の筋肉のストレッチ、フォームや体の硬さなどの問題を改善することがありますが、改善しない場合には手術が必要となることがあります。

2. 外側型野球肘

投球動作の加速期における外反ストレスによって、腕橈関節と呼ばれる肘関節の外側に圧迫力が働き、さらにフォロースルー期で関節面に捻りの力も働きます。このストレスの繰り返しにより生じるのが外側型野球肘です。

肘離断性骨軟骨炎

10歳前後で発症することが多く、野球肘で最も重症になる障害の1つです。
発症してすぐは、痛みや動きの制限などはありませんが、徐々に運動時痛(曲げ伸ばしによる痛み)や可動域制限(曲げ伸ばしの制限)が起こる場合があります。
症状が進行した場合、病巣部の軟骨片が遊離して関節内遊離体(関節ねずみ)になり、引っ掛かり感や肘が動かなくなるロッキングをきたすこともあります。(関節ねずみが関節の中に挟まり、肘がある角度で動かなくなること)

滑膜ひだ障害

投球で肘を伸ばしたとき(フォロースルー)に肘の後外側にある膜が骨に挟まって痛みを出します。

3. 後方型野球肘

ボールを投げるとき、フォロースルーでは肘が伸びますがこの時に肘の後方に衝突するようなストレスを受けます。この動作の繰り返しにより骨端線、骨、骨軟骨が痛みます。

肘頭骨端線閉鎖不全

骨端線が閉鎖する前の小学生から中学生で起こります。
フォロースルーで肘が伸びる際に肘の後ろで骨同士の衝突が起こり、骨端線が開くような力が働きます。これにより骨端線の癒合が遅れたり、骨端線部分で骨が離れてしまい、骨折のようになることがあります。

肘頭疲労骨折

骨端線が閉鎖した中学生から高校生以降で起こります。フォロースルーで肘の後ろで骨同士の衝突が起こり、これを繰り返すことで疲労骨折が起こります。

後方インピジメント症候群

投球を繰り返すことで少しずつ骨棘(骨の棘)のような余分な骨ができてくることがあります。投球で肘が伸びたときに、肘の後ろで骨同士の衝突が起こり痛みを出します。

4. その他

少年期の肘離断性骨軟骨炎をそのままにしておくと病巣部から軟骨片がはがれる関節内遊離体(関節ねずみ)や骨棘(こつきょく)ができる変形性肘関節症になります。

関節内遊離体(関節ねずみ)

少年期や成人期でも起こります。関節ねずみと言われる軟骨片が関節で引っかかる際の痛みや急な動作制限(肘ロッキング)を起します。

変形性肘関節症

少年期の肘離断性骨軟骨炎を放置して進行してしまうと通常では中高年以降に起こる肘の軟骨がすり減って骨にも変形をきたす状態になります。
また、成人期でも投球を続けていくと変形や肘遊離体(関節ねずみ)の原因となります。


野球肘の治療

当院では、肘自体の圧痛や可動域制限がある場合は一定期間の投球禁止による安静を行ってもらいます。
※原則、肘の負担が考えられる動作を禁止としてます。(腕立て伏せや跳び箱、ドッジボールなど)
ただし、肘にあまり負担のかからないランニングやバント練習、守備練習(ノックで捕球動作~送球の構えまで)バッティングなどの肘に直接負担がかからない運動は許可しています。
治療は患部のケアと並行して、肘以外の症状に合わせて下半身や体幹、肩まわりなど全身の柔軟性や筋力の改善・強化を行ないながら、段階的に肘周りの筋力強化、投球動作のチェックなどを行っていきます。

野球肘は、基本的には肘の使い過ぎや過剰な負荷によるところが大きいため、肘自体の症状が改善するまでは練習日数や時間、投球数の制限、ポジションの変更などが必要になってきます。

また、投球フォームのミスユースにより肘に負担がかかりすぎることもありますので投球フォーム指導を行い段階的に投球開始しています。

投球数や練習時間、日数について

小学生では1日50球以内、試合を含めて週200球以内
中学生では1日70球以内、試合を含めて週350球以内
高校生では1日100球以内、試合を含めて週500球以内

上記を目安に治療を続けていきます。
これ以上投げると肘関節障害のリスクが高まると言われています。


練習日数と練習時間

小学生では、週3日以内、1日2時間以内、
中学生・高校生においては、週1日以上の休養日をとることを推奨します。
個々の選手の成長、体力と技術に応じた練習量と内容が望ましいです。

野球肘の治療法は個々のクライアント様で異なります。
ポジションやチームの練習状況、野球(投球)の継続を希望するか否か、また今後どの程度の競技レベルを目指すのかなど、クライアント様やご家族と十分に話し合った上で治療方針を決定すべきと考えております。

野球肘の予防

野球肘を予防するためには、肘にかかる負担を軽減することが大切です。
ボールを投げる動作は全身を使います。下半身から生み出された力が上半身へと伝達され、最終的に手や腕でボールに力を伝えます。
下半身や体幹の動きが悪いと肩や肘や手が必要以上に大きく動かされる、いわゆる手投げの状態となり、野球肘の発症のリスクが高まります。
また、オーバーユースにならないよう前述の投球数も参考にしていただけると幸いです。


肘内側障害では

投球動作中の腕が一番しなる時に痛みが出やすいと言われていて、肘を外側に引っ張る力が急激に加わり、内側の靭帯や筋肉が強く引き伸ばされることで障害につながります。
予防するためには、肘の内側につく筋肉の柔軟性と筋力を高めることに加え、上半身から下半身まで柔軟に動く必要があります。
猫背の人は肩甲骨や背骨の動きが悪くなり野球肘になりやすいとの報告もあるため、姿勢の改善も大切です。


肘外側障害では

投球動作中の腕がしなる時やリリース直後に痛みが出やすいとされています。
肘が外側に引っ張られた時、外側の関節に圧迫やずれる力が加わることで障害へとつながります。
特に手首を内側にひねった時には外側の関節への圧が高まるとされており、予防のためには手首をひねる動きがスムーズであることが大切です。


肘後方障害では

リリース時に痛みが出やすいとされています。
リリース時は肘を外側に引っ張る力に加えて、肘を伸ばす力が強く働き、肘の後方で骨が衝突することで痛みを生じやすいとされています。
予防のためには、肘の曲げ伸ばしの動きを柔軟に保つことや肘を伸ばす筋肉の働きを高めることが大切です。
また、リリースがダーツを投げる動作のように肘から先だけを動かす投げ方になると痛めやすいため、全身を柔軟に使って投げることも大切です。

まとめ

これらの症状は、野球をはじめバレーボールのスパイク、テニスのサーブなど頭上で腕を振るような動きをするオーバーヘッドスポーツで多く見られます。
この頭上で腕を振るという動作は肩に負担がかかります。また、それに伴いカラダの使い方を間違えることにより、ミスユースが原因で肘関節の負担が増加することになります。
当院としては、早期の競技復帰を大前提とし、復帰後のパフォーマンス向上、再発防止を目指しております。
患部のケアをはじめ投球フォームの修正または、関連部位の機能向上を目的とし、運動療法を中心に筋力トレーニングにて症状を改善してまいります。

また、上記のような痛みがないが、現状のパフォーマンスに満足できない方なども是非当院でお話を聞かせてくださいませ!
当院独自のトレーニングメゾットにより、お身体の変化、パフォーマンスの変化を体感していただけると幸いです。


当院の「野球肩・野球肘」解消の独自治療メゾットの一部を公開

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