「今月の写真」~境を越えて通信Vol.67~

あけましておめでとうございます。
12月までよろしくお願いいたします。

「おい、もう2月だぞ」
そうおっしゃるあなた、読んでいただきありがとうございます!

実は、これを書いているのはお正月。今、箱根駅伝やってます。

箱根をつけっぱなしにして、耳で学生たちの走りを感じながらあれこれ用事を済ませ、お昼前にひと息ついてソファに体を預けます。もちろん私はベッドの上ですよ。

毎年変わらないわが家のお正月。
進化という名の下、あらゆるものが変わっていくこの世の中。
私たちは「変わらないもの」に身を委ねてほっとしたりする。


さて「今月の写真」です。

この写真はウチのヘルパー、赤池勇吾さんが撮ったものです。

赤池さんは私と同世代。
私は朝起きてから夜寝るまでずっと60年代から現在までのRock、Bluse、Folk、R&Bなんかを流しているのですが、たまに曲に反応したりするのを見てると、結構聴いてきた音楽タブってるようで、たまにうんちくなんかも話してくれたりします。

そんな赤池さん、放浪旅がライフワークらしく時折旅の話を聞かせてくれるのですが、若い頃から写真も撮っていて旅先でもいろんな被写体を写真に収めていたとのこと。

そんな旅や写真の話を聞いて「旅先で撮った写真を見せてもらえないか」と頼んでみたところ、A4サイズほどにプリントされた写真を十数枚持ってきてくれました。

赤池さんのこだわり、全てフィルムで撮られた写真です。ちなみに現在もデジタルは所有しておらずアナログ、フィルムカメラだけだそうです。

赤池さんは私の左側に立って写真を一枚一枚ゆっくり見せてくれました。

その時、同時に写真についての話をしてくれました。

メキシコ、キューバ、ニューヨーク、そしてインド。

どこの国のどんな場所でどんなシチュエーションだったか、その時なぜシャッターを押したのか。

一枚一枚つぶさに話してくれました。

赤池さん曰く、「フィルムだから一枚一枚じっくり吟味して撮るので撮ったときのことをよく覚えてる」とのこと。
フィルム代、バカにならないもんね。

しかしなるほど。それで全部詳細に話しができるんだ。

その持ってきてくれた写真のうちの一枚が「今月の写真」。
インドのグジャラート州アーメダバードという都市で撮ったそうだ。

お願いをしてスキャニングさせてもらいました。


インドにはカースト制度という階級制度があって1950年に廃止されるまで二千数百年続いたとされています。そんな長く続いた制度ですから、いまだにその影響は根強く、特に最下層の人々の人生に暗い影を落としています。


「このおばあさん、たぶん”しわ伸ばし”を仕事にしてるんだろうけど、なんだか疲れて寝ちゃったんでしょうね…」と赤池さんが話してくれた。

確かにアイロンのようなものが置いてある。しかし…

”しわ伸ばし”?そんなのが仕事として成り立つのか?
そう思って聞いていると、

「この人たちはカースト制度の影響で仕事を選べないんですよね」と付け加えてくれた。



「そら寝るわ」

そう思った。


これは2013年に撮影された写真です。たったの12年前。

こんなことがまかり通ってる現実があるんだ…と驚きました。

少し調べると、現在も確実にカーストは残っているのですが、新しい分野である「IT関連」の職業はカーストで定められた職種に当てはまらないため、階層に関係なく誰もが選べるらしい。

そして多くの若者がIT関連企業で働くことを目指した結果、インドは世界トップクラスのIT大国となりました。

若者はともかく、この写真のおばあさんのような高齢の方にチャンスは巡ってこないし、巡ってきたとしてこれまで何十年と”しわ伸ばし”しか許されなかった人です。しかも巡ってきた仕事は「IT関連」だ。
まぁ、だからといっておばあさんが今さら憤ったりするだろうか。この現状は何十年も続いてきたおばあさんの日常なのだ。

おばあさんは、これから先も「変わらない」日々を生きていくに違いない。
そして「変わらないもの」にほっとする私たちも同じ世界に生きている。


一枚の写真とその話。
それと出会っただけで普段絶対に考えないことに思いを馳せる。そんな機会をもらった。だからといって私の中で何かが劇的に変わるわけではないし、すぐに忘れてしまうかもしれない。いや、きっとそうに違いない。
でも、この写真を見れば反射的に思い出すだろう。この写真は私の脳裏に焼き付けられた。

「一枚の写真とその話」これがセットでなければ、この写真が私の脳裏に焼き付くことも、ここでこうして紹介することもなかったかもしれません。

写真は、言葉を添えることで見る人に気づきを与え記憶に残ることがある。そんな体験をしたお話でした。


いい写真とは、こういうものなんかな。




ではでは、また来月。


この記事は「境を越えて通信」で掲載している「今月の写真」に添えられた言葉の全文です。
この写真と言葉が添えられてる「境を越えて通信」はこちらをご覧ください。

「境を越えて通信」Vol.67-2025年2月号-