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『アートの経済学』から考える、ビジネスと私

これは、1961年にルーチョ・フォンタナによって発表された「空間概念・期待」という作品です。

数年前に大原美術館で初めてこの作品を見たとき、あまりのシンプルさに衝撃を受けました。キャンバスにカッターで切り目が入れられただけのものですが、その価値は、1億円を超えます。

これなら自分でもつくれそうと思うほどなのに、なぜこんなに高額な値段がつくのでしょうか。

道具、材料費に数万円かかるとしても、キャンバスにカッターで切れ目を入れるという人件費はほぼゼロ。ブランド価値が加わったとしても、何億円にもなるというのはアートに最近はまったばかりの私には、まったく理解できません。

このような疑問を解くべく、日本で最初に現代アートを取り扱った東京画廊の山本豊津氏による講義「アートと経済学」を聞きに行きました。

ちなみに、私、檜垣は昨年コンサルファームから離れ起業したのですが、最近はビジネスを考える上で、アートとビジネスの融合点についても思いを巡らせています。
そんな私の考えも交えながら、山本氏のお話しをお伝えしたいと思います。

歴史の最先端に立ったことがあるか

冒頭のフォンタナの作品に、1億円を超える値がつくのはなぜでしょうか。言葉を変えると、どんなアートに価値があると認められるのでしょうか。

その点について、山本氏は歴史の先端に立っているかが評価されるポイントになると話します。

フォンタナ自身も、次のように語っていました。

ちなみに、冒頭のフォンタナの作品のどんなところが優れていたかを解説すると、油絵は一般的に、木の骨組みに布が巻かれたキャンパス上に描かれます。ところがフォンタナは、切り込みを入れることによってキャンバスが布であることを改めて認識させ、「素材そのものを表現した」という点で画期的だったとされています。

つまり、それまで同じような考え方が表現されておらず、新たな取り組みであると認識されたからこそ評価されたということ。

ビジネスの世界でも、既に展開されている事業と同じことをしても価値はさほどありません。過去の関連領域のビジネスを学び、何が新しくて、これまで解決されてこなかった課題をどう解決しうるのか、を検証する必要があります。

コンテキストの重要性

アート作品に実際に触れることができるのは、「コレクション」や「画廊」といった場です。
では、どんなコレクションに価値が高いといえるのでしょうか。山本氏は以下のように解説します。

要は、歴史的に積み上げられた信用というお墨付きを得た作品は評価されると、私は理解しました。

一つ目のトピックで「アートは歴史である」というキーワードがありましたが、それには、作品そのものの表現方法として過去にない表現がされているかという点に加え、歴史があり信用のある機関や人による保証がされているかという意味も含んでいると考えました。

ビジネスに照らして考えると、サービスそのものによって解決される課題の内容やサービスの価値を上げるのみならず、「信用の後ろ盾」を得ることが重要になるということだと言えます。

さらに、自分自身がコンテキスト(文脈)を形成する立場になることにより、エコシステム内で圧倒的な権力を保持できるようになり、他者への優位性が強まると考えられるのです。

製造業の人は、現代アートを買う

アートは、誰がどんな目的で買っているのでしょうか。山本氏は以下のように話します。

企業がアートを買うとき、社長の趣味や投資目的で購入することも少なくないと思いますが、業種によって購入する絵の違いがあるということは、たいへん興味深い指摘でした。

ちなみにZOZOタウンの前澤友作氏は、123億円でバスキアを購入したことが昨年話題になりました。流通業だけに、大衆性のあるポップアート(にバスキアがカテゴリーできるのかは専門家により判断が分かれそうですが)に惹かれたのかもしれません。

一方、損保ジャパン日本興亜美術館には、ゴッホやゴーギャン、セザンヌといった作品が収蔵されています。

個人的には、現代アートには一見して何を表現したいのかまったくわからないものもありますが、鑑賞しながら想像を巡らせることで、これまでにない発想を求めると考えると、現代アートにも俄然興味が湧いてきました。

アートをより深く理解するために、私が思うこと

アートへの向き合い方や楽しみ方は、色々な視点があり人それぞれです。難しいことは考えず何も知らなくても楽しめますし、それは強制されるものではないはず。

ただ、最近アートを深掘りしていると、歴史(美術史、世界史、日本史)や宗教、哲学、経済というように知識が増えることによってアートを捉えられる幅が同心円状に広がっていくと感じています。

正直、アート関連の話しは理解が難しいこともあり、これまで自分で使っていなかった別次元の思考が試されている気がします。

そして、それを言語化し理解できれば、アートを深く楽しみ、人生がより豊かになるとともに、新たな時代のビジネスにおいても何かしら活用できるのではと自分のアンテナは反応しています。

そのためにも、アートに関する知識(ハード)やそれらの感覚的な捉え方(ソフト)を総合的に使って、自分の中で咀嚼していきたいと思っています。

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ちなみに私も、アートを理解するためには「買ってみないことには始まらない」と思い、リーズナブルでいい絵はないかなといくつかの画廊を回っていたのですが、ピンとくるものに出会えずにいました。

そんな中、ふと足を踏み入れた古美術店に置かれていた一枚の絵。

心惹かれ、後日再訪して購入したものがこちらです。

私はこの絵の、力強く勢いのあるタッチに惹かれました。評価がどうはわかりませんが、自分がイイと感じた絵だったから、感覚で決めました。

購入した店では、そこらじゅうに骨董品が散乱し、この絵も無造作に置かれていました。額縁もなかったので、後日近所の額縁店に絵を持って行き「これに合う額縁をつくってください」とお願いし、こうして今、自宅に飾られています。

アート作品は、「その人らしさを物語る」と山本氏も話していました。

本記事を読まれた皆さんも、自分がどんなアートが好きなのか、ご自分自身を知るためにも、アート作品を買ってみてはいかがでしょうか。

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※本記事は、2018年6月6日に開催されたNewsPicksアカデミアイベント 山本豊津「アートの経済学」の感想をまとめたものです。

講義の詳しい内容については、アーカイブ動画をぜひご覧ください。👇

NewsPicksイノベーターズトークで連載された山本豊津氏の「アートの経済学」特集もこの機会にぜひご覧ください。👇

文:檜垣 寿宏

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