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D2Cはデータ×ブランディングの「キメラ」──『D2C』#1

D2Cは、単なる「中抜き」ではない――。その本質は「顧客との関係性の変化」にこそある。
「ストーリーテリング」×「テクノロジードリブン」
「ビジネスのルールを書き換える2つの潮流をかけ合わせた、今投資家が最も注目するビジネスモデルの全貌と、立ち上げの具体論とは。『D2C 「世界観」と「テクノロジー」で勝つブランド戦略』の一部を、特別に公開します。

私たちNewsPicksパブリッシングは新たな読書体験を通じて、「経済と文化の両利き」を増やし、世界の変革を担っていきます。

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はじめに 

 これから挙げる 2 つの映画はアメリカの対照的な異なる面を描いている。

 1 つ目は『プラダを着た悪魔』。 

 鬼上司とそれに必死でくらいつく新人の女の子、というストーリーラインは一旦忘れ、その世界観を思い出してほしい。メディア企業が多いニューヨークの中でもひときわ格調高い高級ファッション雑誌。そこでは美意識が重視され、「ダサいもの」は忌み嫌われる。目の肥えたニューヨーカーたちに受け入れられようと、数えきれないほどのブランドがしのぎを削る。メディアやファッションという「ニューヨークらしい」華やかな業界の内幕の一端が垣間見える映画だ。

 2 つ目は、Facebook の創業期を描いたデヴィッド・フィンチャー監督の『ソーシャル・ネットワーク』。

 プログラミングに長けたハーバード大学のコンピュータサイエンスの学生たちが、アルゴリズムをもとにプロダクトを作る。会社を大きくするため、エンジニアと投資家の多いシリコンバレーに移り住み、ベンチャーキャピタル(以下 VC)から投資を受け、洗練されたユーザー獲得手法を用いて指数 関数的成長を遂げる。「シリコンバレーらしい」ハッカー文化がドラマチックに描写されている。

 伝統的なメディア企業や高級ブランドを擁する「東海岸」的なブランディ ングやカルチャー創出。そして、GAFA(Google、Amazon、Facebook、 Apple)を生んだ、シアトル、シリコンバレーやサンフランシスコなどの「西海岸」的なテクノロジーやベンチャー投資の手法。

 この本がテーマとするD2C(Direct to Consumer)と呼ばれる新しい業 態は、この 2 つの世界が混ざり合って生まれた。

 『プラダを着た悪魔』のモデルとも言われ、世界最高峰のファッション誌 の1つ『VOGUE(ヴォーグ)』のカリスマ編集長アナ・ウィンターと、 Facebook CEOのマーク・ザッカーバーグがキメラのように合体した最強の組み合わせと言える。

 高級感のある世界観やブランディングを重視しながら、同時にデータ分析や AI などを上手に活用するデータドリブンという特徴も持つ。

「テック×小売」による大規模市場のディスラプト

 これまで消費者向けブランドの市場は、ベンチャー投資の対象として考えられてはいなかった。その理由はいくつかあるが、実際にモノを製造し販売するため、インターネット企業と比べて立ち上げコストがかさむこと。加えて、従業員数十名でユーザー数千万人(かつての Instagram がそうだった) といった少ないリソースでの指数関数的な成長が難しいことがその主な要因 だろう。

 しかし、消費者向けプロダクトのマーケットは巨大だ。テクノロジー関連
市場の 3 倍もある。そしてその中には、言葉は悪いが、伝統的なスタイルに あぐら 胡座をかいて変化なくビジネスを続けている企業も多い。ここをテック企業が放っておくはずはない。

 今、消費者向けブランドの業界が、D2C という「テック×小売」を実現した新しいスタイルの業態によって、次々とシェアを奪われている。その様子は、2007 年に iPhone が登場して以降、次々と新しいアプリケーションが生まれ、既存の業界がディスラプト(破壊)された姿に似ている。

 D2C が登場して以降、その震源地アメリカでは、衣料品や生活消費財などの業界でいくつかの企業が存続の危機に立たされた。2 兆円の規模があるマットレス業界では、業界首位の座から引きずり下ろされ、倒産する企業まで現れている。

 いったい、D2C は既存のビジネスと何が違うのか? D2C の辞書的な定義は、以下のようなものだ。

“ 新しい消費の価値観を持つミレニアル世代以下のターゲットに対し、 ユニークな世界観を下敷きにしたプロダクトとカスタマーエクスペリエ ンス、SNS や店舗を通じた顧客とのダイレクトな対話、垂直統合したサ プライチェーンを武器に、VC から資金調達を行い、短期間に急成長を 目指すデジタル&データドリブンなライフスタイルブランド ”

 伝統的なブランドと対比すると、よりイメージしやすいかもしれない(図 0-1。それぞれの要素については、第 1 章で詳しく述べる)。

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 D2C は 2007 年頃にその原型が生まれ、2013 ~ 2014 年以降、急速に成長を遂げた。VC は 2012 年以降、D2C マーケットに合計 3,000 億円超を投じている。

 また、未上場でありながら企業価値が 1,000 億円を超えるユニコーンと呼ばれる企業も、D2C 業界だけで 7 社も登場している(2019 年 7 月現在)。

 化粧品、スーツケース、マットレス、メガネなど、テクノロジーと程遠い場所にあった商材を扱う新興企業が、AI やデータ分析などの高い技術力を武器に SNS を使ったマーケティングを行い、「世界観」のつくり込みと巧みなストーリーテリングによって、シェアを伸ばしている。

「リテール・アポカリプス(小売の終焉)」に逆行する D2C ブランドの 出店攻勢

 「世界の終わり」を描いたとされる新約聖書の「アポカリプス(ヨハネの黙示録)」。2015 年頃から、これに倣い「リテール・アポカリプス(小売の終焉)」という言葉がメディアを賑わせるようになっている。

 Amazon をはじめとする E コマースが生活に浸透する中、伝統的な小売店舗は瀕死の危機にある。

 日本ではまだ地方を中心にショッピングモールが根付いているが、アメリカでははるか前にそのフェーズは終わった。現在、全米のショッピングモールの約 3 分の 1 がテナントの撤退で閉鎖の危機にあるとも言われている。 

1980 年代初頭まで全米第 1 位の小売業者であり、アメリカを代表する百貨 店であった Sears(シアーズ)は、2018 年に破産法の適用を申請。2016 年には傘下に約 1,600もの店舗を持っていたが、現在は約 200 にまで減ってい る。他の百貨店の Macy’s(メイシーズ)、JCPenney( JC ペニー)、その他に も、アメリカの代表的なドラッグストア Walgreens(ウォルグリーン)、玩具大手のToys“R”Us(トイザらス)、衣料品大手のGap(ギャップ)なども多くの店舗を閉鎖。2017 年だけで約 1 億平方フィート(東京ドーム 200 個 分)、2018 年は 50%増の約 1.5 億平方フィートもの店舗面積が消え去った。

 そんな小売業界の衰退を横目に、D2Cブランドは次々とリアル店舗を開店している。GUCCIやPRADA、Apple Storeなどの高級ブティックが並ぶニューヨークのソーホー地区は、数え切れないほどの D2C 店舗が並び、毎週のように新しい店が作られている。今やその一帯を、「D2C 通り」と呼ぶ人もいるほどだ。

 マットレスを取り扱う Casper(キャスパー)や、メガネを扱う Warby Parker(ウォービーパーカー)などの D2C ブランドは、今後数年で 100店舗単位で新規のリアル店舗を開いていくという。

ルールはすでに書き換えられている

 D2C という言葉は、日本国内でも 2018 年以降メディアを賑わせている。

 アメリカでは同分野への巨額のスタートアップ投資が盛んだが、日本でも D2C は、もっとも勢いのある投資分野の 1 つになっている。2019 年には FABRIC TOKYO(ファブリックトウキョウ)というオーダースーツを展開する日本のD2Cスタートアップによる 10 億円規模の巨額調達が大きなニュースになった。

 一方で、非常に勢いがあるだけに、「D2C はただのバズワード」との誹り
を受けることも多い。

 しかしすでに見たように、D2C はデジタルと、ブランディングやカルチ
ャー創出という、今までは遠いところに存在していた強力な力が合わさった 業態であり、単なる一過性の「ブーム」ではない。D2C という言葉の裏で、 大きな地殻変動が起きていることは間違いない。また、D2C が起こした、 顧客とブランドの関係の質的変化は不可逆であり、今後、多くの業態に影響 を与えていくだろう。

 筆者は、Takram というクリエイティブ・イノベーション・ファームで、 デザインやクリエイティブを起点に新規事業の立ち上げのコンサルティング やブランディングを行っている。詳しくは後で触れるが、D2C はクリエイティブの活用や顧客体験の差別化、デジタルを活用した事業のグロースが大 きな特徴だ。これらは Takram が得意とすることと重なる部分も多いため、これまでスタートアップの D2C ブランドの立ち上げや、大企業のビジネスモデルの D2C 化を多くサポートしてきた。

加えて、D2C の震源地ニョーヨークにも何度も赴き、現地でそのインパクトを体感してきた。また、ビジネス誌の D2C 特集の監修や寄稿も多数行っている。

 将来的に、小売の歴史は、「D2C 以前」「D2C 以降」と分類されて語られ ることになるだろう。D2C というモデルは、

-顧客との関係
-ものづくりのプロセス
-ブランディング人材・組織
-プロダクトの売り方

 など様々な側面で不可逆の変化をもたらした。

 この本で提示するのは、単にいくつかの企業の成功譚ではない。

 長い小売の歴史の中で、顧客とブランドの関係にどんなパラダイムシフト が芽吹いているかの解説書としたい。この芽吹きはこれから様々な方法で花 を咲かせ、自動車、不動産のようなより大きな消費にも向かっていくはず だ。今後、B2B の世界に影響を与える可能性もある。

 小売やブランドの成功法則や生存のためのルールはもう書き換えられてい
る。この本では、これまでのルールブックを作り直し、どう価値のあるブラ
ンドを作っていけばいいのかについての考えを紹介していこうと思う。

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はじめに
1章 D2C が生んだパラダイムシフト
2章 「機能」ではなく「世界観」を売る
3章 「他人」ではなく「友人」に売る
4章 D2Cの戦略論
5章 D2Cを立ち上げる(スタートアップ・ 大手ブランド・大手小売)
6章 D2Cの先にあるもの
おわりに





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