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1日の重心は、仕事の始まりと終わりにある──『フルライフ』#4

人生100年時代が到来し、75歳頃まで一生懸命に働くだろう私たちに、いま必要な「戦略」はなんなのか? 予防医学・行動科学・計算創造学からビジネス・事業開発まで、縦横無尽に駆け巡る、 石川善樹さんの集大成『フルライフ』を、一部特別公開します。
私たちNewsPicksパブリッシングは新たな読書体験を通じて、「経済と文化の両利き」を増やし、世界の変革を担っていきます。

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2章 生産性の重心をとらえる3つの「時間軸」

 いよいよ、本章からは具体的な時間戦略について考えていきます。

 あらゆる仕事の時間軸の中で重心を見つけていくということは、「生産性」を劇的に上げることになります。

 まずはハードワーク期における時間戦略です。扱う時間のスケールは次の通りです。

 1日/1週間/3~10年

 本章ではこれら3つの時間軸に対して重心がどこにあるのか、私の考えを述べていきますが、先に結論だけ述べておきましょう。

Q.1日の重心は?
〉〉〉A.仕事の始め方、終え方

Q.1週間の重心は?
〉〉〉A.金曜日の夜8時以降

Q.3~10年の重心は?
〉〉〉A.3段階プランニングの2回目の目標設定

 繰り返しになりますが、重心とは言い換えると、自由と規律のバランスをとるということです。なので、私が考える時間戦略とは、別に「予定をガッチガチに固める」というわけではないです。基本的には自由に時間を使っていいのですが、少しの「規律」を取り入れることでフルライフを目指していこうという考え方です。

 それでは、さっそくいきましょう。まずは、1日を過ごす上での重心です。

1日の重心は、仕事の始まりと終わりにある

 まず、問いから始めたいと思います。

Q.よい1日とは何か?

 これについては、人それぞれ意見があると思います。ただ、重要な事実があります。それは次の通りです。

「日中に起こることの多くは、自分ではコントロール不能」

 私は現実主義者なので、自分でコントロールできないことについては、スッパリ諦めるたちです。それよりも、自分がコントロールできることに集中したほうがいい。

 すると「よい1日とは何か?」という問いは、次のように変換できます。

Q.コントロール可能な時間の中で、1日の評価に大きな影響を与えるのはいつか?

 私の場合、それは「仕事の始まりと終わり」でした。仕事の始まりと終わりはコントロール可能だし、それを素晴らしいものにできれば、たとえ日中にどんなアップダウンがあったとしても、それはよい1日だったと思えるのではないか、と。

 はい、ということで私の結論は以下の通りです。

〉〉〉A.「1日の重心は、仕事の始まりと終わりにある」

 とはいえ、これだけだと単なる思い込みにしか過ぎないので、実際に検証を行ってみました。2019年、ビジネスパーソン5000人を対象とした調査を行いました(電通バイタリティデザインプロジェクトとの共同研究)。具体的なリサーチ・クエッションは、次の通りです。

Q.バイタリティが高い人たち注は、どのように仕事を始め/終えているのか?
  注:よい1日を過ごしている人たちという意味合い

 まず、「仕事の始め方」からいきましょう。旧来の考え方だと、出社するや一目散にパソコンに向かう人が「元気よく仕事に取り組んでいるなぁ」と思われていたかもしれません。しかし、調査結果は意外なものでした。

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 バイタリティが高い人が、会社に来てまず何を行うのか。すぐに仕事を始めるのではなく、「同僚と挨拶を交わす」あるいは「ToDoリストの確認」だったのです。その反対に、会社に来てすぐ仕事に取り掛かる人は、バイタリティが低い傾向にありました。

 では、「仕事の終え方」についてはどんな結果が出たでしょうか。

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 まず最高に面白かった発見は、「時間になったから帰る」人は、バイタリティが低い傾向にありました。一方で、その日のタスクを振り返りながら翌日以降の仕事の計画を立てたり、身の回りを片づけ・整理整頓してから帰ったりする人は、バイタリティが高かったんです。

 仕事の始め方と終え方の図を見比べるとクリアになるのですが、機械的に仕事に「流されている」ような人はバイタリティが低いです。反対に、自分の仕事を俯瞰したうえで、主体的に取り組んでいる人はバイタリティが高いという結果が出ています。

 以上の議論をまとめると……うかつに仕事を始めない、そして、うかつに仕事を終えない。この2つの重心を意識することが、1日を過ごす上での時間戦略になりそうです。

「To Do」ではなく「To Feel」の振り返りを

 もっとオススメの「仕事の終え方」があります。それは「To Feelの振り返り」です。

 なぜ「仕事の終え方」が大事か。人はすべての体験を平等に考慮して、その日1日を評価するわけではないからです。昔から「終わりよければすべてよし」という慣用表現がありますが、本当にその通りなんです。

 心理学者で2002年にノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマン教授が提唱する、「ピーク・エンドの法則」はご存じでしょうか。

 人は偏った体験をベースに評価を下す傾向があります。例えば、恋人と楽しくデートをするとします。一個一個の思い出を取り出せば、すごく楽しい「体験」だった。でも、最後の3分間に恋人と大喧嘩して別れたら、その日1日は最悪だったという「評価」になります。つまり、人はすべての「体験」を等しく「評価」しているわけではありません。ピーク時の経験とエンドの経験、特に最後の経験の記憶で全体を評価してしまいがちです。

Q.では、「To Feelの振り返り」とは何か? 

〉〉〉A.1日の終わりに印象に残ったことを振り返ること

 やり方はシンプルです。仕事の終わりに「今日1日、何が印象に残っただろうか?」という問いを、自分にするんです。毎日1分でもいいので、オフィスを出る前に「何が印象に残ったのか?」と振り返ってください。

 いい印象でも悪い印象でもいいから、「今日感じたこと」を見つめ返してみる。ToDoリストのように明日からの計画も立てなくていいんです。何が印象に残ったかを考えるだけで、自然と評価がよい方向へ上向いていきます。

 これは「計るだけダイエット」みたいなものです。単に体重を計っているだけですが、その過程において意識・無意識レベルのさまざまな振り返りを行うので、行動の改善につながっていくのです。

 1日を終えるときは、今日印象に残ったことを振り返る。

 そうすることで、今日という日は人生において、特別ではなかったかもしれないけれど、かけがえのない1日であることを実感できるようになる。その結果、人生の評価を高めることができます。

 副次的な機能も期待できます。もしも「うれしい」「楽しい」というポジティブな感情が月曜から金曜まで何もなかったら、それは何かを変えたほうがいいんだというシグナルです。

 逆に、ポジティブな感情ばかり続くときも注意が必要です。何か難しいことにチャレンジしていれば、必ず壁にぶつかります。そこで、「悔しい」とか「悲しい」といった感情が起こるはずですから、そういった感情を久しく体験していないというのであれば、最近自分はチャレンジしていないのかなと気づけるはずです。

 さらにもう一点、「怒り」の感情にも大切な意味があります。「怒り」は自分が大切にしていたものが脅かされた状況において湧きあがる感情です。ゆえに怒らないというのは、大切にしているものを守るためにチャレンジしていないと言えますし、そもそもその仕事には、自分にとって大切なものがないのではないかという疑問にもつながります。

 このように毎日、自分の感情を振り返っていくことで、今の自分に足りないものは何かを客観的に見つめることができます。

 この際にもう一つの重要なポイントは、具体的にアウトプットすること。「ひとりで自分の頭のなかで振り返る・整理する」よりも、誰かと話しながら、業務的ならば日誌や日報、個人的ならば手帳や日記、メモに書き出すことです。それによって、脳に情報を刷り込ませることにつながります。

 ときには周囲の人も「To Feelの振り返り」に巻き込んでしまいましょう。ひとりで自分の頭のなかで振り返る・整理するよりは、誰かと話しながらやったほうが、より効果が高いです。リーダーやマネジメントの人は、職場のメンバーを助けるつもりでぜひ。

 始まりも大事ですが、評価に大きな影響を与えるのは、最後の体験なんです。「To Feelの振り返り」をする時間を作ることで、1日の記憶をいい印象に上書き保存する術は、ビジネスパーソンが今すぐ気をつけたい「重心」になると言えるでしょう。

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はじめに どうしたら一度きりの人生がフルになるのか
1章 仕事人生の重心は、すべて「信頼」にある
2章 生産性の重心をとらえる3つの「時間軸」
3章 創造性の重心は「大局観」にある
4章 人生100年時代の重心は「実りの秋」にある
5章 真のWell-Beingとは「自分らしさ」の先にある
おわりに 新しい時代の重心は「私たち」である