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画一性から脱却し、学びのオーナーシップを学習者に。元教員が目指す「あなたがいるから学びが生まれた」を感じられる学び合い
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画一性から脱却し、学びのオーナーシップを学習者に。元教員が目指す「あなたがいるから学びが生まれた」を感じられる学び合い

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2022年4月、東京都世田谷区に開校予定のオルタナティブ・スクール「HILLOCK(ヒロック)初等部」。元教員と教育起業家が創るオルタナティブスクールとあって注目を集めている。そんなヒロックでカリキュラムデザイナーを務めるのが、塾講師を経て、2020年度まで私立開智望小学校で学校設立に関わり、国際バカロレア理論(IB)やICTを取り入れた探究学習の推進に携わった五木田洋平さんだ。五木田さんがなぜ今、オルタナティブスクールの設立に参画することを決めたのか、実現したい学びについて話を聞いた。

プロフィール
五木田洋平(ごきた・ようへい)  10年間小学校の教員として勤務し、現在は2022年開校予定のHILLOCK初等部の設立に参画。ICTを用いながら学習者同士の気付きを促す学びの場を構築する活動を行っている。また、シンガポール日本人学校の研修講師や、大学の特別講座の担当、勉強会の企画運営も行うなど幅広く活動している。 HPはこちら。2022年2月11日に初の単著「ICT主任の仕事術 仕事を最適化し、学びを深めるコツ」を刊行。

多様な世界に日常的にアクセスすることで、自信を育むオルタナティブスクール

ーー元々私立小学校で教員をされていた五木田さんが、オルタナティブスクールの設立に参画されることを決めた理由から伺えますか?

そもそも教育にはロマンがあり、人の可能性を拡張することができる素晴らしいものですよね。でも、その教育を取り巻く環境は、既存の制度や仕組みの影響で窮屈なものになってしまっていると感じています。

例えば、ZOOMを使って授業がしたくても、クリック一つで繋がれる世界があるのに、活用の許可が必要だったり、セキュリティの問題が問われたりする教育現場がたくさんある。誰のための制度や仕組みなのか、モヤモヤしていました。だったら、「仕組みをつくる側になろう」というのが大きなきっかけでした。また教育観の合う仲間と挑戦できるという環境にも背中を押されました。

ーー具体的に、どのような教育観でしょうか?

まず僕と現場を担うスクールディレクター(校長)の蓑手章吾は、元公立教員なんですよ。彼とは、「子どもたちは一人ひとり違っていて、学びのオーナーシップは学習者にある」という共通の教育観を持っていて、彼となら良い教育ができるという自負がありました。そして、ファウンダーである堺谷武志がスクールの立ち上げに誘ってくれたんですが、そのとき見せてくれた資料に「人生はFである」と書かれていて。さらに続けて、「人生は何が起こるかわからないから、一瞬一瞬をより良く生きるために、大人が子どもに寄り添って、必要があれば教える。自由は未来のためではなく、今を美しく生きるためにある」そんなことが書かれていました。その言葉に、ずっと感じていたモヤモヤが晴れて、この価値観を大切にしている堺谷となら、手法がずれたとしても理解し合えると思い、参画を決めました。

ーーまもなく開校を迎えますが、ヒロックの特徴を教えてください。

ヒロックは「いろいろな世界に触れることを通して、自分に自信を持てる場所」です。世界と自分が連関している場所というのが、大きな特徴です。ヒロックはマイクロスクールと分類される少人数のスクールなので、児童数は最大でも40名ほどの規模です。場所としても、いくつも教室があるような普通の学校とは異なり、ビルの一角で運営していきます。でも少人数だからこそ、すぐに移動ができて、学ぶフィールドは無限大です。自然について学びたいとなったら「近くの山に行こう」「公園に行こう」「川に行こう」ということができる。それを100人規模で実現しようとすると、気軽にはできないですよね。いろんな世界に日常的にアクセスできる環境だからこそ、「自分はこの場所では、こんなふうに感じるんだな」と思えるチャンスが圧倒的に多くなります。ヒロックを、自分と世界がつながっていくような場所にしていきたいです。

「子どもたちには、教えないと分からない」という思い込み

ーーもともと五木田さんのファーストキャリアは塾講師だそうですが、成績を上げることに重点をおく塾と、今目指されている学習者主体の学びでは、目指していることが異なると思います。どのようにご自身の心境が変化していったのでしょうか?

もともと教員を目指すきっかけになったのが、高校のハンドボールの監督の影響が大きくて、今も監督のような先生になりたいという気持ちがあります。「全員が同じプレーじゃなくても良い」と、一人ひとりに合ったプレーを提示してくれたり、最新の戦術を韓国まで行って学んでくるとか、学びにストイックな先生でもありました。そのハンドボールの影響で、一人ひとりを伸ばすことに興味がありました。いわゆる子どもが好きだから先生になったタイプではなく、成長するときに起こる「きらめき」が好きだったこともあり、塾であっても、学力を伸ばす、成長に貢献するという点では同義だったので、仕事として好きでした。むしろ塾で子どもたちの学力を伸ばしていくことは、性に合っていたと思います。

ただ、前職の私立の小学校で、国際バカロレア理論(IB)をベースにした学校づくりに関わったことで、教育観が変化しました。

ーー私立開智望小学校でのご経験ですね。

入職4年目の頃に、日本語版の国際バカロレア理論を取り入れた探究学習を推し進める話があり、携わらせていただくことになりました。学力を伸ばすスタイルでゴリゴリやっていた身としては、最初はやはり苦労しました。学力という物差しが唯一、みたいな環境で自分自身も教育を受けてきていたこともあり、他の物差しを見落としていたんですよね。バカロレアとの出会いで、教育観が変化しました。

多様性への理解と尊重を通じて、いろんな人を伸ばしていくという前提が国際バカロレア理論にはあります。バカロレアを学び始めた当初、「すごく理にかなった理論だな」という印象を持ちました。理論の中に「The IB Learner Profile」という考え方があって、10の学習者像が定められているんですね。知識のある人だけではなく、思いやりのある人や探究する人など、いろんな学習者像があるんです。それまでの僕は、「知識のある人」という学習者像しか知らなかった。人は多様であるということに気付けたのが大きかったです。「あの子はいつも話を聞いてくれる」など、テストでは測れないような部分で、お互いを認められるようになるところがバカロレアの良さだと思います。

ーー学力を伸ばすスタイルからの転換に最初は苦労されたという話がありましたが、どのようなご苦労があったのでしょうか?

それまで、「子どもたちには、教えないと分からない」という思い込みがあって、僕が一方的にしゃべり倒しちゃうような授業をしてしまっていました。そのスタイルからの脱却に最初は悩みましたね。そしてバカロレアでは、いかに子どもたちが授業の中で自分の考えをアウトプットするかに重点を置いていますが、それも当初は、子どもたちがしゃべってはいるけど一人ひとりの強みを伸ばすことには繋がっていない気がして、葛藤しました。

ーーその悩みや葛藤は、どのように乗り越えられたのでしょうか?

ビジネスや脳科学、発達心理学など、教育とは異なる領域から知識をむさぼった時期がありましたね。そこにヒントがたくさんあって参考にしたのは、僕が何かを言って話が広がる場づくりではなく、クラスが勝手に学び合う文化や癖、風土をつくっていくという視点でした。例えば、思考の表現方法の一つであるマインドマップをみんなで描いて、自分の考えをまとめる癖をつけていくと、だんだんと子どもたちから「先生、マインドマップでまとめてもいい?」とか、「考える時間が欲しいんだけど」という発信が生まれて、実際にクラスの風土みたいなものも変化していきました。だから5年生とか高学年では、教室の後ろにマインドマップ用のシートやいわゆるシンキングツールを置いておいて、「今日の授業のゴールは〇〇です。はい、どうぞ」みたいな授業をしていました。子どもたちは、好きなシンキングツールを使って、自分で考えをまとめて、それをみんなに共有していました。

「あなたがいるから学びが生まれた」という学び合い

ーー今後、どのような学びの世界を創っていきたいと考えられていますか?

ヒロックとしてもそうですし、僕個人としても重点を置きたい考えが2つあります。一つは、学びのオーナーシップが学習者にある状態を当たり前にすることです。日本の風土として根強い「画一性」はなくし、自分で学ぶ内容から学び方、スピードに至るまで、選択できる状態を当たり前にしたいです。教え込まれるのではなく、「自分のスピードで着実なステップアップをしていけばいいんだよ」という世界観を大切にしたいですね。

そしてもう一つ重視したいのは、「私の学びに、あなたが必要です」と実感できる学び場、学校をつくることです。今は、学ぶ内容自体は、本でもウェブでもたくさん転がっていて、無料でも学ぶことができます。だとしたときに、学校は要らないのではないか?という話がありますが、僕は絶対に学校が必要だと考えています。

学校って、友達や先生や部活動などを通して、自分の世界が思わず広がってしまう場所だと思っています。僕自身も、学校という場所がなければハンドボールなんて知らなかったし、夢中になっていなかった。自分の意識や世界だけではアクセスできない学びが学校にはあって、たまたまそこに集まった人たちと学び合うおもしろさも学校にはあると思います。そういったワクワクするものと出会える学び場をつくっていきたいです。

ーーそれは、五木田さんが大切にされている「学び合い」にもつながるお話ですね。

世の中の流れとして、1人の先生が30人教えるには限界があるから、誰一人取り残さないために学び合いましょうみたいな文脈で「学び合い」が語られることがあります。その他にも、クラスの自治として自分たちで決めることが大事だから、みんなで学び合いましょうとか。ですが、僕が大切にしたい「学び合い」は、対話を通して気付く「そういった考えもあるのか。では、次はこうしてみよう!」といった気付きや、違う考えを掛け合わせるからこそ生まれるひらめきなど、「あなたがいるから学びが生まれた」という学び合いです。そういった学び合いの形は、これからも大切にしていきたいと思っています。

ーー最後に、教育のフィールドで奮闘されている方、キャリアに悩んでいる読者の方へ、メッセージをお願いします。

抽象的な表現になってしまいますが、教育に関わる人、携わる人に幸せになってほしい。そんな思いを持っています。それは教員をされている方に対してもそうですし、子どもに対してもそうですし、保護者であるお父さんやお母さんにも、です。教育は、関わる人の幸福や自己選択に大きな影響を与えるものだからこそ、僕自身も貢献していけたらと思っています。そして読者の皆さんには、ぜひいろんな世界を体験してほしいです。僕は趣味で作曲をすることがありますが、いろんな世界から得た刺激が自分のためだけではなく、誰かのためになることがあります。逆に誰かのやっていることが、自分の刺激にもなります。そういった新しいものとの出会いの循環が、風通しの良さ、心地良さにつながると思うので、世界を広げることを大切にしてほしいですね。


取材・文 : 三原菜央
撮影 : 小野 瑞希


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