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東京カレンダー創刊物語 cover story編

誌面を形成する全て

 雑誌のロゴはアイデンティティーとしてとても重要で表紙を顔に例えると目だと言う人もいます。私は目力が強く、ビジュアルが洗練された今までにない飲食情報誌にしたいと思っており、そのためにはどうしても良いロゴを作る必要がありました。

 大分話は遡りますが、エディトリアルデザイナーとして駆け出しの頃に憧れた海外のアートディレクター、アレクセイ・ブロドヴィッチやファビアン・バロン。彼らは違う時期のHarper's Bazaarのアートディレクターでした。どちらも違うアプローチですが、大胆な文字組みと写真の構成が秀逸でした。

 私が某出版社の編集室で徹夜で色校正をしていた時の待ち時間に、編集部にあったブロドヴィッチの作品集を眺めていました。(因みに毎月色校正は編集部に徹夜で詰めていた)
 編集長がそれを見て「彼は有名だし美しいデザインをするのは知っているけど、一体何がいいんだろうね?」と聞いてきましたが、当時の私はうまく答えられませんでした。それからずっと私の中で、その問いが続いていました。何がいいんだろうとはどういう思いや、どういう価値観や、どういう技術かなど、その誌面を形成する全てに対してのことです。

引き算のデザイン


 それから10年以上が経ち、少し見つけられたように思います。足すより引く、それを大胆かつ潔く行うこと。引き算のデザイン!私はデザイナーとして今もそれを大事にしています。
 そしてそのHarper's Bazaarのロゴや表紙で使用されていたBodoniというフォントが明朝系で品があり、シンプルだが強く、とても気に入って使っていました。それはまさに引き算の書体。だから東京カレンダーのロゴはBodoniでいくことにしました。とは言っても、日本語にはBodoni書体は当然ないので、英語の書体見本を見ながら思考錯誤を繰り返しました。
 英語は日本語に比べてシンプルにカッコよく見えます。何故なら大文字、小文字のみで構成されているからです。それに対して日本語は漢字、カタカナ、ひらがながあり、要素が多い分、雑多に見えやすいのです。英語と日本語は構成する要素がそもそも違います。


 東京カレンダーもまさに漢字とカタカナでしたので、作字が難しかったです。また日本語の明朝体も美しい書体も幾つかありますが、ロゴには強さが必要なので太さがあるものが良かったのですが、太さがあり美しい書体はありませんでした。また、はねが強すぎるものが多く、Bodoniの様なシンプルで品がある書体もありませんでした。CIやBIなどロゴ開発はコミュニケーションとしての優先順位のイメージから入るのが一般的です。
 今回のように書体から開発するのは珍しく、雑誌のロゴデザインにおいても画期的な試みでした。そうして苦労の末、ロゴを完成させました。

血と汗の結晶


 だが、今回の話にはちょっとしたオチというか、別の話があります。docomoのiモードなどの事業をしていた株式会社アクセスが出資して、ぴあ出身者でアクセスパブリッシングと言う出版社を創業し、第一弾の雑誌が東京カレンダーでした。前段のように私がロゴを完成させた後、なんと!なんと!某大御所のアートディレクターがロゴをデザインしていたのです。信じられない後出しじゃんけん。なんでもアクセスパブリッシング社長のご友人である大御所の方が創業御祝儀でデザインしてくれたそうです。編集長も私も聞いていなかったので、驚いたし、全く失礼な話でした。

 私は一応そのロゴを拝見しましたが、それからは大人感も全く感じなかったのでこの雑誌にそのロゴを使用して、考えてきたコンセプトでディレクションが出来ないと思いました。当然、作ったロゴは血と汗の結晶であり、自信作でもあったという思いもあったので、編集長に創刊前ではあったが理由も含めてアートディレクターを辞任する意向を伝えました。

 その後、社長と私の板挟みに合った編集長はなんとか交渉し、調整して創刊準備号だけはその方のロゴとなるが、創刊号からは私のロゴでいけるように取り計らってくれました。加えて一応大御所の方のデザインを擁護させていただくと、コンセプトの説明は受けていなかったのだと思います。実は私も好きな某方なので、本当にそう思いました。

信頼関係


 ロゴ以外にも表紙のビジュアルや誌面のフォーマット、イラストレーター、ライター、フォトグラファーのキャスティングなど、雑誌の創刊ディレクションは沢山やる事があります。以前お世話になった会社のボスに、雑誌創刊は子供を産んで育てるくらい大変ですが、人生で何度もない貴重な機会だし、やりがいもあると言っていたのを思い出しました。

 私がロゴの次にこだわったのは表紙のビジュアルです。タレントを起用するのは編集長が決めていました。撮る場所はスタジオかロケにするのか、フォトグラファーは誰にお願いするのかを決める必要があります。
 タレントを起用した雑誌の表紙は珍しくないです。アイドル系雑誌はもちろんだしファッション誌も。昔の明星のアイドルのスマイル表紙はどストレートなコンセプトですが、雑誌は篠山紀信さんであったことが大きいです。

 何が違うのか?もちろん確かな技術もですが、1番はタレントとフォトグラファーとの信頼関係なのです。タレントさんも知らない方に撮ってもらうより、緊張感を持って、真剣に臨むからです。被写体がどれだけ写真に向き合っているかで仕上がりに、エネルギーみたいなものが宿ります。私は力のある写真が必要だと考えていました。そしてビジュアルコンセプトは明星的タレント主体ではなく、大人感と非日常感でクールにしたいと考えていました。実現出来れば今までにない飲食情報誌になると思いました。


 ビジュアルコンセプトから考えるとファッションも撮れて、多くのタレントに認知されているフォトグラファーは何人かに限られます。それは恩田義則さんしかいませんでした。アルマーニのグローバル広告から、数々のタレントを撮影し、多くの雑誌で活躍されている大御所です。私は直接お会いして、編集長と共に雑誌のコンセプトを丁寧にご説明して依頼をしました。
 結果引き受けていただき、私が東京カレンダーのアートディレクションをしていた約10年、長きにわたりご一緒させて頂きました。私はオリーブなど恩田さんの写真を見て育ってきたので、ご一緒出来たことはとても嬉しく光栄でした。
 創刊号は全ページのラフを引き、ロケハンもできる限りこなし、全ページ雑誌に立ち会い、発売日には法被を着て販売の方と書店に立ちました。この雑誌がより多くの読書に届き、今までにない飲食情報誌のムーブメントが起こるようにと願いながら。

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