【速報】バングラデシュ、ハシナ首相が辞任&国外脱出:今後の政局は−
8月5日、ハシナ首相が首相官邸を去り、事実上バングラデシュのアワミ政権が倒れました。
首相官邸を去った直後には、デモの集団が建物に流れ込んだと報道されています。(記事)また、その後にはハシナ首相が党首を務めるアワミ連盟の事務所が放火されるなど、街は一気に"市民の勝利宣言"に包まれました。
しかし、個人的には今後の展開に懸念を感じています。
おそらく、今後の歴史に残るであろう今回の一連の出来事。劇的な展開を迎えています。
今後の展開は誰にもわからないものの、現時点での経緯と考察をまとめました。
今日、何が起きたのか
きょう1日で一体何が起きたのか、振り返ります。
まず、昨日の段階では18時から再び戒厳令が発令され、無期限の外出禁止となっておりました。
「差別に抵抗する学生運動」が呼びかけた非協力運動は昨日から全国で行われ、衝突も至る所で発生しています。報道記事では、昨日だけで93名が死亡、うち14名は警察官とのことでした。
そして今日、インターネットが再び遮断されました。
しかし、しばらくは報道は続いておりました。YouTubeでは報道各社がライブ放送をしており、デモの様子も繰り返し伝えられておりました。
報道を見て一つだけ違和感だったことは、外出禁止令が出ているはずなのに、軍は何もせずその行進と運動を見守っていたことです。装甲車が道端に置かれ、武装した兵士が道に出ているにもかかわらず、人々はお構いなしに行進を続けています。確かなことはわかりませんが、軍はこの後起こることを既に見越しており、政権への見切りをつけていたと考えることもできます。
やがて午後には国内の新聞各社のサイトがエラーになり始め、いつも情報をチェックしている新聞社3社はサイトがダウン、残るは1社のみという状況となりました。徐々に、また闇に包まれていく感覚になりました。
しかし、13時半ごろ(日本時間16時半ごろ)に突如ネットが再開しました。
それと同時に、「まもなく軍が会見」という記事が入りました。(記事) ここから察するに、おそらく軍がネットを戻したのでしょう。
最初は、現地時間14時(日本時間17時)から陸軍司令官が会見を行うということでした。しかし、14時をすぎても何も始まらず、やがて会見は15時からと記事の内容が変わっていました。
いよいよ政変か…クーデターか?という不安と緊張で待っていると、現地時間15時ごろ(日本時間18時ごろ)、ハシナ首相が辞任と共に”安全な場所へ”移動したという記事が飛び込んできました。(記事)
続報により、ハシナ首相は空軍ヘリでインドのトリプラ州、アガルタラに逃れたことが明らかになりました。(記事)
これにて、首相の辞任が確実になり、事実上政権が倒れたことになります。
その後、18時ごろにインドの首都デリーに向かっているとの報道がなされました。(記事)
このように事態が次々と変わっていく中、ついに16時ごろに陸軍が会見を行いました。
会見では、「政権移譲が行われており、暫定政権を立ち上げる予定」と発表されました。まだ直近の出来事であり、政党トップ層と話をしているとのことでした。会見では野党や市民を中心とした政権を検討中であるということでした。(記事)
また軍は、今夜には学生や教員の代表とのディスカッションを行うと表明しています。(記事)
歓喜の電話、しかし不安は拭えず
次々と入るニュースを見ていたところ、現地のバングラデシュ人から電話が入りました。彼は「政権を倒したぞ!」と歓喜の電話をくれました。聞いてみると、街も勝利を祝うお祭り状態のようです。スローガンを叫びながら、街を歩いている人たちが大勢いるということでした。
またFacebookには数々のお祝いの投稿が上がっており、まるで毎年4月のベンガル暦のお正月をお祝いしているかのような雰囲気です。
確かにハシナ首相の辞任要求を掲げて運動が行われたと言う点では、目標を達成できたということになります。過去1ヶ月で政権が行った対応は確かに非人道的であり、超法規的な殺人が行われていたことは事実です。
ただ一方で、この先の臨時政権や政情がどうなっていくかは全く予測がつかず、一定期間は事実上の軍事政権になる可能性も否定できません。
私は電話を聞きながら、どう答えたら良いかわかりませんでした。
軍の存在をどう見るか
いずれにせよ、最後までこうした形でデモが行われ、首相を退陣まで追い込むこととなった背景には、軍の市民側への協力があったと考えられます。
もし、本気で政権を守るという態度に出たとしたら、ある一定の臨界点を超えたときに実力行使に出ていても全くおかしくなかったはずです。
そういう意味では、沈黙という名の協力と言うべきかもしれません。
ここから考えられることとして、(穿った見方かもしれませんが)軍にとっても好都合なタイミングが巡ってきていた、と見ることもできます。
現時点の個人的考察
ここからは、あくまで私見としての考察になります。また普段チッタゴン丘陵の状況を見ていることから、軍が実質的に政治の中枢にいる現在の状況には悲観的な見方が強いものになりますが、考えたことを書かせていただこうと思います。
まず今回の件に関して、これはハシナ首相をはじめとしたアワミ政権の降伏なのか、軍の事実上クーデターとなるのかは、現状の情報だけでは判断ができません。
しかし、軍としては絶妙なタイミングで政治の表舞台に躍り出たということはあるでしょう。もし軍が先週の時点で政治を握っていたら、アワミ政権を力で転覆させようとする存在だと国際社会は判断したでしょう。しかし、今であれば国際社会は国家の秩序を守るための行動だと認識される可能性があると読んだと考えることもできます。
少なくともここ1ヶ月の流れの中では、皮肉ですが”適切なタイミング”だったと私は感じます。
また軍の視点を想像するならば、「アワミ連盟は国内の信頼を失っているだけでなく、状況を落ち着かせられない現状に対する国際社会の批判も高まっている。もはや統治能力はない。しかし、他にその椅子に座れる人もいない。だから軍が一定期間、臨時政権を仕切るのだ」という方向に舵を切る可能性も捨てきれません。
もちろん発表の通りに野党や市民を中心とした暫定政権の設立に尽力することが一番ではありますが、軍にとっては機会が巡ってきていると捉えることもでき、今後どのような展開となっていくかは注視する必要があります。
たった1ヶ月で激変した街
ここまで最新の状況をお伝えしてきました。私自身、先月24日まで現地にいたこともあり、異常事態を肌で感じていました。これまで1年間の在住経験を含め何度もバングラデシュを訪れておりますが、ここまで深刻な事態には遭遇したことはありませんでした。
7月の上旬にデモが始まり、約1ヶ月が経とうとしています。最初は学生の”いつもの"デモだったはずが、教員や野党が加わり、暴力の応酬へと転じていきました。そして本日のハシナ首相の退陣に関しては、もはや学生も社会人も関係なく歓喜しています。
この1ヶ月で政情だけでなく、街の景色も一変しました。政府機関は焼き討ちにあい、日本政府が拠出して開通したメトロ駅も破壊されました。今この時も、首相官邸や警察署などが破壊されています。
これだけの短期間で一挙に全国的な非常事態と化しているバングラデシュ。
燃え盛る火はあらゆるものを飲み込み、さらに大きな炎となっています。
追記(8/6現在)
本日、「差別に反対する学生運動」は新政権のトップにムハマド・ユヌス氏を据えることを要求しました。(記事)
ムハマド・ユヌス氏は経済学者であり、グラミン銀行の創始者です。
また同日、彼は学生運動からの要求を受け、承諾したと報道されています。(記事)
現在はオリンピックに招待されてパリにいるようですが、やがてバングラデシュへ帰国すると伝えられています。
この要求が通り、各種政党からも民主的に政権が選ばれるとすれば、これまでにない新たな時代の幕開けになることも想像されます。また不明確な情報ではありますが、チッタゴン丘陵に関連する人物も名を連ねるよう要求しているとのことでした。
バングラデシュの未来を占うサイコロが、今まさに振られようとしています。
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