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復刊求む! 映画「ランボー」原作小説

 数日前こちらの記事で、「あらいぐまラスカル」の原作小説(自伝)『遥かなるわがラスカル』の絶版・復刊希望について述べた。
 絶大なる人気と知名度を誇る物語・キャラクターの原作が絶版だなんて、何とも意外かつ不思議な話だな…と感じたものだ。


 有名作品の原作が絶版となるのは、よくあるケースなのかもしれない。本稿で取り上げる映画「ランボー」の原作も、そんな本の一つである。




俺が最も敬愛する俳優兼作家:シルヴェスター・スタローン氏の代表作である「ランボー」シリーズ。
 この映画は一時期“おバカアクション”の扱いを受けていたらしい。娯楽アクション色の強い2・3の影響が大きいのだろう。しかし昨今は評論家の方々の啓蒙活動によって再評価が進み、ランボーそしてスタローンをバカにする言説を見ることは少なくなったように思われる。



 そんな「ランボー」第一作目(原題:「First Blood」 1982年 監督:テッド・コッチェフ)は、以下のような物語の映画である。

 主人公はかつてベトナム戦争に従軍したジョン・ランボー。ある日唯一の生き残りである戦友の家を訪ねるも、彼が戦争の後遺症で死んだことを知る。孤独を抱えたまま田舎街をさまようランボーは、不審なよそ者を嫌う警察署長:ティーズルに理不尽な因縁を付けられ、不当に逮捕されてしまった。

 警官たちから嫌がらせと暴力を受ける最中、戦争体験のトラウマに襲われたランボーは、とっさに彼らに反撃して山奥へと逃亡を計る。激怒した警官たちは執拗にランボーを追い詰め命を狙うが、ランボーが威嚇のために放った投石がきっかけとなり、ヘリコプターに乗る警官が転落死してしまう。

 こうして殺人犯の汚名を着せられ更に追われる身となったランボーは、多数の警官隊や州兵を相手取り“一人きりの戦争”を始める。いや、そもそも“彼にとっての戦争”は、ベトナム以来ずっと終わっていなかったのだった…。



 このように、ベトナム帰還兵:ランボーが抱える苦悩とPTSDを真っ正面から描き、暴力性ゆえに彼が追い詰められていく様を描いた悲劇的なアクション映画…それが「ランボー」一作目である。ちなみに脚本家としても活躍するスタローンは、本作の共同脚本にも名を連ねている。
 シュワちゃんの「コマンドー」のような筋肉男が軽快に大暴れする気楽なイメージを本作に対して持っている方は、きっと陰鬱さに面食らうのではないだろうか。俺も一切知識が無かった初見時には「確かに良い映画だけど、何て救われない話なんだ…」と暗い気分になった記憶がある。それ程までにこの物語、そしてランボーという男の人生は哀しい。




 さて、冒頭で述べたように、この一作目には原作小説がある。
 1972年にディヴィッド・マレル氏が著した『一人だけの軍隊』だ。


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 日本国内において、本作は残念ながら絶版となっている。確認する限り、中古でも安くて2500円。状態が良いものでは10000円近い価格で取引されている。原作が世界的に有名、かつ今でもシリーズが継続している作品であることを考慮すると、この扱いは非常に残念だ。



 amazonの読者レビューを参照したところ、「ランボー」は「一人だけの軍隊」を全て忠実に映画化した訳ではなく、複数の相違点がみられるらしい。以下に挙げるのは、その一例である。


・ランボーがラストシーン以外では感情をほぼ吐露しない映画版に対して、小説版ではモノローグが多い。(この構成をそのままなぞらえていたら、映画は説明台詞の多い駄作となっていたかもしれない)

・基本的に専守防衛に徹し敵の命を奪わない映画版のランボー※とは異なり、小説版のランボーは明確な殺戮の意思を持って戦闘行為を行っている。
 ※俺が確認した限り、映画内におけるランボーの殺人シーンはカーチェイス中のパトカー追突炎上事故のみ。「一人も殺害していない」という見解も多いため、炎上した車に乗る警官は助かっているのかもしれない。

・敵役のティーズル保安官は“朝鮮戦争の英雄”であり、仕事に没頭することで壮絶な戦時体験を忘れようと苦闘する人間として描写される。すなわちベトナム帰還兵であるランボーとの類似性・鏡像関係が強調されている。映画版にこの設定はない。

・結末が大きく異なる。ネタバレとなるので本稿では詳しく述べないが、映画とは別の悲劇が訪れてしまうそうだ。


 以上のように、原作には映画とは別のドラマ性があるようだ。刊行後すぐに映画化が決定していた(実際のところ企画は凍結され、スタローンの元にプロデューサーが映画化を持ちかけたのは刊行から10年近く経ってから)ほどなので、評価されて然るべき内容なのだろう。
 スタローン信者である俺としては無論、古本を買ってでも読むべきかもしれない。しかし綺麗な状態のものをコレクションしたい…という心情もある。紙質の劣化などを考慮すると、ハードカバーによる出版が理想的だ。
 どのような形であれ、もう一人のジョン・ランボーの物語を今日の世に是非蘇らせてほしい、と願うばかりである。




・余談
 俺は一作目に限らず、偽善と善の定義の曖昧さ・ミャンマー少数民族迫害問題・物語の主人公による暴力行使の是非に切り込んだ四作目「ランボー 最後の戦場」、過剰に娯楽暴力色が強くて賛否両論巻き起こった五作目「ランボー ラストブラッド」も好きだ。
 また、スタローンネタの映画感想文・考察文については、今後も定期的に書くつもりでいる。

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