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2021年に観て印象深かった映画を振り返る⑨ 六月編


 今年の六月は“noteを始めよう!”と決意した時期。振り返ってみると、この頃の俺は活字からインスピレーションを得ようとしてエッセイ本を読み漁っていた。そんな風に余暇を使っていた影響で、六月はたったの二作品しか映画を観ていない。幸いなことに、そのどちらも魅力的な作品であったのでここに感想を記しておく。



「アウトサイダー」(1983年)


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 オクラホマ州タルサでは、貧困層の若者のグループ「グリース」と、富裕層のグループ「ソッシュ」が対立していた。 「グリース」のダラスは施設帰りで、常にタフガイとして振る舞っていた。ポニーボーイは両親を失い、兄2人と共に生活している。ジョニーは「ソッシュ」のメンバーに殴られた時の傷が残っている。
 3人はドライブインシアターに潜り込み、少女チェリーと出会う。彼女は「ソッシュ」の仲間だったが、ポニーボーイ達に興味を持つ。帰り道、「ソッシュ」のメンバーが現れて一触即発となるが、チェリーの仲裁で喧嘩にはならなかった。その後、ジョニーは両親の喧嘩が嫌で家に帰らず、ポニーボーイと一緒に空き地で過ごす。帰りが遅くなったポニーボーイは、長兄ダリーに叱られたため家を飛び出し、ジョニーと公園に行く。そこで二人は、悲劇的な事件を起こしてしまう──。

Amazonより引用。一部改変。


 本作は「地獄の黙示録」・「ゴッドファーザー」シリーズなどでお馴染みの巨匠:フランシス・フォード・コッポラ監督によって撮られた半グレ系青春映画である。1980年代を代表する若手俳優が集っていることから、一種のアイドル映画的な側面もあったらしい。ブラット・パック(或いはヤングアダルトスター)と呼ばれた彼ら若手俳優陣の多くは、今日でもスクリーン上で活躍をみることができる。




 サブキャラクターとして出演する若かりし日のトム・クルーズ氏を鑑賞するつもりで観たが、実際は主人公の一人:ジョニーと彼を演じたラルフ・マッチオ氏(「ベスト・キッド」(1984年)の主人公:ダニエル君役)に強い魅力を感じた。繊細で優しい性格なのに“半グレ”的な生き方をせざるを得ず、その現状に絶望するしかない…。マッチオ氏が演じたジョニーの生き方は、あまりにも悲しく切なすぎる。




 このようにマチズモ思考に囚われた、或いは囚われざるを得ない男たちのやるせなさが本作の見所。“社会的弱者(とされる人々)の苦悩”・“社会への対抗手段として濫用されるマチズモ”は、現代社会を舞台にしても成り立つ題材だと思われる。本作は約四十年前に撮られた古い青春映画ではあるが、この点において現代でも十分に通用する魅力を備えていると感じた。




 また、これは本作に限ったことではないが、一昔前の洋画を観ると当時の空気感に何気無く触れられるのが楽しい。ジャンクフードなどの食事や安っぽい建物の装飾は言わずもがな、昨年日本でも少し話題になった“ドライブインシアター”に俺は心惹かれた。完全なるペーパードライバーではあるものの、いつか一度は体験してみたいな…と憧れている。



「機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ」(2021年)


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 第二次ネオ・ジオン戦争(映画「逆襲のシャア」の時代)から12年後、宇宙世紀105年──。地球連邦政府の腐敗は地球の汚染を加速させ、強制的に民間人を宇宙へと連行する非人道的な政策も行っていた。

 そんな連邦政府高官を暗殺するという苛烈な行為で抵抗を開始したのが、反地球連邦政府運動:マフティー。リーダーの名は「マフティー・ナビーユ・エリン」。その正体は、アムロ・レイの戦友でもある連邦軍大佐ブライト・ノアの息子「ハサウェイ・ノア」であった。
 アムロとシャアの理念・理想・意志を宿した戦士として道を切り拓こうとするハサウェイだが、連邦軍大佐ケネス・スレッグと謎の少女ギギ・アンダルシアとの出会いがその運命を大きく変えていく。

Amazonより引用。一部改変。


 本作はガンダムの産みの親:富野由悠季氏が三十年ほど前に著した小説(全三巻)の上巻を原作にした、ガンダムシリーズの本流となる世界観宇宙世紀※の合間を埋める映画である。スクエニRPGファンとしては、監督の村瀬修功氏が「ファイナルファンタジー9」のキャラクターデザインに大きく関与していた点も一応言及しておきたい。




 本作は実写映画──特にアクション洋画を思わせる非常に写実的なドラマパート、そして後述する“巨大感表現”が素晴らしい傑作だった。過去のガンダムシリーズ(現状八割の作品を鑑賞済み)を卑下するつもりはないが、本作は過去作に対し明らかに予算が掛けられ、練られて製作され、群を抜いて高品質となったように思う。その結果、シリーズ史上初めて非ガンダムファン/洋画ファンの鑑賞にも耐えうる作品が誕生したのではないか?とさえ感じている。




 きめ細かい近未来描写。人間ドラマの濃密さと“かけ合い”の妙。主人公:ハサウェイの屈折したイデオロギー。澤野弘之氏が手掛けた劇伴の素晴らしさ。息を呑むアクションシーン。…こうした部分は、既に多くの方が語っているので本稿では触れない。しかし、過去の作品ではほとんど見られなかった演出“MSの怪獣風表現”の新鮮さ・素晴らしさについてはどうしても語っておきたい。
 主人公目線で描かれる市街地の徹底的な破壊描写。人がMSを見上げた際の圧倒的な巨大さ=暴力性。そして敵ガンダム:ペーネロペーが発する、怪鳥のき声を思わせる奇怪な駆動音…。上記のように本作は怪獣特撮映画(特に2014年版「ゴジラ」)を想起させる巨大感の演出が多く、スクリーン/画面越しにとてつもない迫力と臨場感を味わわせてくれる。
 ガンダムシリーズは単なる“ロボット戦争もの”にあらず、作品によって様々なジャンルをMIXさせて成立している。例えば「Gガンダム」ならば格闘アクション、「∀ガンダム」ならばポストアポカリプスSF+おとぎ話といった具合に。しかし今まで怪獣特撮映画要素が加えられたことはなく、そうすることで面白みが増すと想像すらしなかった。目から鱗だ。




 前作「逆襲のシャア」(1988)から本作に到るまでのハサウェイの思想の変化などの疑問点は多々あるが、この問題は以後の二作目・三作目にて回収されることだろう。また、大見せ場となるラストバトルの異常な暗さは勿体ない。ビームの光を際立たせる為のナイトシーンとはいえ、満を持して登場した異形の主人公機:Ξクスィーガンダムの怪獣的大暴れをもっとはっきり堪能したかった。




※ 有名な“アムロ”“シャア”などが登場する一連の作品群。本作は初代「機動戦士ガンダム」から数えると二十七年後の未来の話に当たる。一方、人気作「ガンダムSEED」や近年放送された「鉄血のオルフェンズ」などは、本作を含めた“宇宙世紀”とは全くの別世界を舞台にしたシリーズ。



● ⑩ 七月編に続きます!
なお、画像は全てAmazonより引用しました。

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