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2021年に観て印象深かった映画を振り返る 12 十月編



前書き

 前回の「九月編」を、note公式マガジン「映画記事 まとめ」「舞台マガジン 記事まとめ」に追加して頂けたようです。ありがとうございます。
 なぜか舞台関係のマガジンにも含まれているのは、恐らく舞台版が定期的に上演されている「リトル・ダンサー」(2000年)、ミュージカル要素を含む「竜とそばかすの姫」(2021年)の感想を書いたからかな?と想像しております。




 …そんな訳で、以下より“十月編”になります。関連記事についてはリンクを貼っておきますので、併せて読んでいただけたら幸いです。



「007 スカイフォール」(2012年)


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 MI6(英国情報局秘密情報部)のエージェント:007ことジェームズ・ボンドは、各地で潜入捜査をしているNATO諜報部員の情報を強奪した敵を追跡し、その組織をあと少しのところまで追い詰める。しかし、あと一歩まで迫ったところで、先に潜入していた同僚エージェント:ロンソンが傷を負ってしまう。そんな中、上司のMは非情にも敵の追跡を最優先にするよう指令を下す。後から駆け付けたアシスタントエージェント:イヴと共に、敵を追跡するボンドだったが……。

Amazonより引用。一部改変。



 007シリーズの二十三作目にして、ダニエル・クレイグ氏主演シリーズの三作目。九〜十月にかけて多くの007シリーズを鑑賞したが、約三分の二を鑑賞済みの007シリーズ中で「ゴールデンアイ」(1995年)「カジノ・ロワイヤル 」(2006年)と並び気に入っているのが本作「スカイフォール」。「ゴールデンアイ」と「カジノ・ロワイヤル」については過去の記事(以下参照)にて語っているため、本稿では「スカイフォール」のみ取り上げておきたい。






 現役引退を迫られるも再起を賭けるジェームズ・ボンドの矜持、親的存在でもあるMI6のボス:Mとの関係の掘り下げ等が描かれ「カジノ・ロワイヤル」的な硬派路線を走りながらも、旧作ボンドシリーズのような外連味あるアクションシーンもバランス良く織り交ぜられている。よって、芸術と娯楽の双方から見ても傑作と考えて良いのではないか。




 MVPは本作で007シリーズを引退したM役のジュディ・デンチ氏、もしくはボンドと鏡像関係にあり絶妙なネットリ感を見せる敵役:ハビエル・バルデム氏…と言いたいところだが、俺個人としては本作からMI6武器開発者:Q役を襲名したベン・ウィショー氏を推したい。長らくデスモンド・リュウェリン氏が演じたお茶目なお爺ちゃん的Qとは違う皮肉屋キャラの上、本領を発揮するのは次回作「スペクター」(2015年)となるが、たった数分間の登場で見事なまでのキャラ立ち。
 現行のクレイグボンドシリーズは「ノー・タイム・トゥ・ダイ」(2021)で終了してしまったが、次のシリーズに移行する前にベン・ウィショー版Q主役のスピンオフを見てみたい。結構需要あると思うんだけどな。



●Adeleが歌う主題歌「Skyfall」。楽曲そのものも、劇中で流れ出すタイミングと映像も美しく素晴らしい。




「ジェームズ・ボンドとして」(2021年)


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 ダニエル・クレイグがジェームズ・ボンドとしての15年間の軌跡を率直に振り返る。「007」のプロデューサーであるマイケル・G・ウィルソンとバーバラ・ブロッコリと対談し、未公開映像を交えつつ自身の思い出を語る。

Amazonより引用。一部改変。



 本作は六代目007:ジェームズ・ボンド役を襲名したダニエル・クレイグ氏と、そのシリーズの制作背景を追ったドキュメンタリー作品である。俺はAmazonプライムビデオにて鑑賞したが、元々はApple TVにて配信されていたらしい。





 「慰めの報酬」(2008年)の内容がガタガタになった気の毒な原因全米脚本家組合のストライキにより、脚本が存在しない状態で撮影を開始したらしい)、「スカイフォール」にて名匠:サム・メンデス監督を招聘したのがクレイグ氏であった件、「スペクター」でクレイグ氏が大怪我を負いながらも生身で大掛かりなアクションをこなしていた件など、ダニエルボンドファン必見の制作背景を数多く知ることができる。
 そして007云々は脇に置いても、本作はドキュメンタリー作品としての出来が非常に良い。インタビュー音声と劇中シーンの繋ぎ方があまりにも丁寧。007シリーズのビギナーにとっても十分楽しめるはずだ。




 それ以上に注目すべき描写は、007就任発表時=「カジノ・ロワイヤル」撮影前に各メディアから受けた言われなき誹謗中傷。ルックス(従来の007役者とは異なる金髪)への文句も酷ければ、イベントでライフジャケットを着用しボートに乗っただけで“臆病者”呼ばわり…。最低すぎる。公開前に相当叩かれたことは知っていたが、ここまで酷く低俗な言い掛かりだとは思わなかった(その後「カジノ・ロワイヤル」の完成度の高さとクレイグ氏の肉体の仕上げ方で、メディアは掌を返したそうだ)。
 俺たち一般人によってメディアによる誹謗中傷を止めることは不可能だとしても、それを安易に真に受けないリテラシーを身に付けることの重要性を思い知らされた。そして想像と先入観による“エアレビュー”は絶対にしてはならない恥ずべき行為であることも。




 次のボンド役がイドリス・エルバ氏であってもトム・ヒドルストン氏になろうとも、はたまたドウェイン・ジョンソン氏a.k.a.ロック様であったとしても。完成した作品を自分の目で鑑賞するまでは“ミスキャストだ!”等とは絶対に言わないようにしよう。




●過去に感想を挙げたこちらも、創作物の“エアレビュー問題”に切り込んだドキュメンタリー映画の傑作。映画「E.T.」やテレビゲームに興味がない方にもお勧め。


「アイの歌声を聴かせて」(2021年)





 本作については以前の記事で繰り返し述べた通り。観客が抱きうる共感性羞恥を逆手に取り、従来のミュージカル映画が内包する不思議なリアリティラインの設定(歌の伴奏はどこから流れてるの? そもそも突然歌い出すのっておかしくない?等)に鋭く切り込み、それらの疑問に説得力を持たせることに成功した画期的な大傑作である。
 現状では“興行収入◯十億円突破!”といった大ヒットには到っておらず、マイナー作品としての域を出ていないのかもしれない。しかし本作は老若男女に幅広く突き刺さり、十年後以降もずっと語り継がれているような名作なので絶対劇場で観ておくべきと断言しておきたい。




 口コミとリピーター効果のお陰か、上映一ヶ月以上が経過した今日でも上映が続いているのが有り難い。俺自身も既に複数回鑑賞しており、機会をみて立川シネマシティの“極音上映”にも行くことを検討している。主演:土屋太鳳氏の歌声の素晴らしさを、一度は素晴らしい音響環境で体験しておきたいものだ。




●「絶賛口コミ御礼!」が「大ヒット御礼!」になることを祈っております。
 予告編だけでは面白さ=ミュージカルシーンの画期的なアイデアの本質部分(上記に述べた“リアリティライン”問題)が伝わらず、単なる青春音楽ミュージカル+SF映画かな?といった程度にしか見えないのがもどかしい。とはいえ予告編でネタバレし過ぎてしまえば、初見時の感動は減ってしまう訳で…。なんとも難しい。
 ともかく松竹映画さん、公式noteでも「アイの歌声を聴かせて」を是非とも取り上げて下さい…!これは絶対埋もれさせたらいけない作品ですって。




●「十一月編 その1」に続きます!
なお、画像はAmazon商品ページより引用しました。

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