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読書記録 「死の言葉」

「死の言葉」 佐藤優著 新星出版

 「死の言葉」というタイトルのインパクトに驚く。
 しかし、真摯な内容だ。古今東西の哲学者、作家、宗教家など、多様な人びとの死生観を表した言葉と、それに対する著者の考えが端的にまとめられている。
 ひとつの「死の言葉」に6ページほどの短い章立てで、文字も大きく、かみ砕いた解説で、わかりやすい。
 著者の知見の広さと思考の深さに「なるほど」と思わされる。言葉の裏にある時代、場所、言葉の主の思想が形成された背景や過程、人生観なども読み解かれている。

“なかには私の死生観と相いれないものも含まれていますが、多面的に死の本質を読者の方々に紹介するために、あえてそのような言葉も取り上げています。(*1)”と著者がいうように、中には「死の言葉」に対する著者の反論が述べられている章もある。
 例えばスティーブ・ジョブズの「死は生命最大の発明である」という言葉は、”終わりがあるからこそ、生きるための目標が生まれ、それに向かって前進できる(*2)”ことを”イノベーターであるジョブズらしい「発明」という語を使って巧みに言い表して(*3)”いるという。けれども、“ジョブズが語っている成功は拡大再生産によってどんどん肥え太っていこうとする資本主義の枠内での成功(*3)”として、格差拡大や環境問題は無視していると、この言葉が考慮しなかった21世紀に向けての問題を投げかける。

 本書で取り上げられた34の「死の言葉」は、確かに生と死について考えさせられる。だが、「死の言葉」にのめり込むことなく、一歩ひいたところで思考を巡らす著者の姿勢の方が、言葉自体よりも勉強になった。

*1 「死の言葉」P3より引用
*2 「死の言葉」 P198より引用
*3 「死の言葉」 P198より引用
*4 「死の言葉」P199より引用

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