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神戸からのデジタルヘルスレポート #55 (呼吸器)

『神戸からのデジタルヘルスレポート』は、神戸拠点のプロジェクト支援企業・Cobe Associeが提供する、海外のデジタルヘルススタートアップを紹介するマガジンシリーズです。

今回は第55回・呼吸器編!元気にデジタルヘルススタートアップを紹介していきます:-)

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1. Aluna:携帯型のデジタル肺活量計

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企業名:Aluna
URL:https://alunacare.com/
設立年・所在地:2013年・サンフランシスコ/アメリカ
直近ラウンド:Seed(2016年9月)
調達金額:N/A(Bolt, SOSV)

Alunaは、喘息などの呼吸器疾患を抱えた患者、主には子供の肺活量を管理する携帯型の肺活量計です。

肺活量の確認は、喘息の発作や重症化の初期兆候をキャッチする上で重要なアクションです。Alunaのように、肺活量チェックを外出時や自宅で気軽に利用できる環境を整えることは、救急搬送や想定外の受診を減らすことにもつながります。

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Alunaで測定されたデータはBluetooth経由でアプリケーションに送られます。服用した薬や24時間以内に経験した喘息関連症状の重症度をチェックする機能も盛り込まれていて、アプリのデザインも良い感じ。

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ユーザーである子供に最適化されたUXとして、Alunaに息を吹き込むとその息の強さによって宇宙船が打ちあがるようなギミックが導入されています。適切なチェックのためにはできる限りの力でAlunaに息を吹き込む必要がありますが、このギミックがあることで子供は自然に全力を出そうとするはず。説明書に「思いっきりやってください」と書くよりよっぽど効果的でしょう。

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病院施設に置かれているような機器と同程度の精度も達成されているとのことで、子供・大人への利用に関してFDA Approvalも取得しています。喘息は長期間うまく付き合いながら暮らしていく必要がある疾患。このプロダクトがあれば、親も子供自身も日々の生活での安心度が少しだけ上がるかもしれません。

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2. Strados:ワイヤレス電子聴診器

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企業名:Strados Labs Inc.
URL:http://stradoslabs.com/
設立年・所在地:2016年・フィラデルフィア/アメリカ
直近ラウンド:Seed(2019年5月)
調達金額:$3m(HAX, SOSV)

Stradosは、ワイヤレス電子聴診器を用いて肺音のモニタリングを行い、その分析を行うプラットフォームです。Remote E-Stethoscope Platform(リモート電子聴診器プラットフォーム)の略称、RESPで商標をとっているようで。

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電子聴診器には複数のセンサーとノイズキャンセリング機能が搭載されているため、肺音を高精度・高音質で測定することができます。測定した肺音はプラットフォームに統合され、既存のEHR情報に統合されていきます。

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さらに、独自のアルゴリズムは肺音と呼吸パターンの変化を検出して、喘鳴、咳、ラ音、気管支、肺音の減少などの偶発的なイベントを識別することができます。このアルゴリズムはまだ開発中でこれからFDA承認・認可を取りに行くフェーズ、取れれば面白いですね。うまく使えれば医療者の負担軽減に大きく前進しそう。

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ヘルスケア系のアクセラレーターやビジネスコンテストでの受賞経歴が豊富な同社。FDA承認取得が次の大きなマイルストンでしょうか。楽しみ。

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3. ArtiQ:呼吸器の診断支援プラットフォーム

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企業名:ArtiQ
URL:https://www.artiq.eu/
設立年・所在地:2019年・ルーヴェン/ベルギー
直近ラウンド:Seed(2019年7月)
調達金額:€1m(KBC, Gemma Frisius Fund)

次はベルギーのスタートアップ、ArtiQ。同社はPULMONARY FUNCTION TESTS(肺機能検査)に関わるチャレンジに挑んでいます。それは、

・そもそも時間がかかること:Medscape Pulmonologist Compenstation report of 2019によれば呼吸器内科医のうち76%が10時間以上をペーパーワークに費やしている。40%は20時間以上。
・診断を行う専門家のスキルセットに依存、かつ個々の内科医の間での診断のばらつきが相応にある

ということ。診断をする方も大変、それを受ける方も大変と。

ArtiQ.PFTは、人工知能を用いて肺機能検査の解釈を自動化、肺疾患の診断・治療を支援するプラットフォームです。これにより、医師はAIのサポートを得ながら、治療方針の決定など最重要意思決定と患者との会話・診察に集中することができます。

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様々な肺機能検査の結果は自動的にArtiQに取り込まれ診断が行われます。また、人工知能を使用して診断プロセスの早い段階で疾患パターンを検出するため、不必要なテストを省くことが可能に。

そして、ArtiQの一番の特徴は診断の正確性。実際に、120名の呼吸器専門医が50例に対して44.6%の確率で正しい診断を下したのに対し、ArtiQは82%という高い確率で正確な診断を下したというデータがあります。この結果は論文としてEuropean Respiratory Journalに掲載されています。立派...!!

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現在、CEクラスIの医療機器として市場投入がされており、同社のコア技術の開発元である研究室があるルーベン大学、その傘下病院で、2018年2月の実装以降、4.5万人を超える患者に使用されてきました。今後は、ヨーロッパ市場を構築するだけでなく、米国など他の市場への拡大に向けて準備を始めていくそうです。

4. Optellum:人工知能を用いた肺がんの診断支援

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企業名:Optellum Ltd
URL:http://www.optellum.com/
設立年・所在地:2016年・オックスフォード/イギリス
直近ラウンド:Seed(2019年7月)
調達金額:$1.3m(St. John's College, Luminous Ventures)

Optellumは、AIにより肺がんをより早期に検出する技術を開発しています。対象となるデータは胸部CTスキャン画像であるため汎用性が高く、オクスフォード大学の著名なコンピュータービジョン系研究室発のスタートアップということもあり、注目を浴びています。

同社は、様々な病院や研究機関と連携してOptellumの成果や効果を学会発表や論文として公表しています。2018年にカナダのトロントで開催されたIASLC World Conference on Lung Cancerでは、3つの異なる患者集団全てについて高い予測精度を発揮したことを発表しました。AIとしてのロバストネスが高いことの表明ですね。

リサーチサイエンティストや米国での事業開発人材を募集しており、もし自分が英国/米国でCSを学んでいたらぜひ働いてみたい環境...!!

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5. Ventfree:呼吸筋の電気刺激装置

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企業名:Liberate Medical, LLC
URL:https://liberatemedical.com/
設立年・所在地:2013年・クリストウッド/アメリカ
直近ラウンド:Debt Financing(2019年3月)
調達金額:$3.1m(CIT Healthcare Finance)

ちょっとデジタルヘルス文脈からは離れてしまうんですが、人工呼吸器利用を支援するプロダクトを開発するスタートアップを。

Pulmonxは、非侵襲的な神経筋電気刺激を使用して腹部の筋を収縮させ、人工呼吸器装着中に起きやすい腹部の呼吸補助筋の萎縮を防ぐプロダクトを開発・提供しています。

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使い方は、対象となる患者の腹部に電極をはりつけるだけ。人工呼吸器による呼吸と同期して筋収縮を行うため、患者に負担がかかることはありません。また、人口呼吸器装着の初日から使用することができ、導入の手軽さを含めた患者負担を減らす工夫が素晴らしい。

臨床試験では、Ventfreeを使用した群は、プラセボ群(下の画像のcontrol群)と比較して人工呼吸期間とICU滞在期間が短いことが証明されました。人工呼吸の日数が減ると、死亡率の低下、生活の質の改善、医療提供者の時間的コストの削減につながります。この臨床試験結果はパワフル。

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2019年にCEマークを取得、2020年5月にはFDA緊急使用許可(EUA)を取得したことを発表しました。コロナウイルスに罹患した患者に対する治療における使用を検討してのことだそうです。

呼吸器は診断、治療、モニタリング、支援と、ペイシェントジャーニー全般でどんどん進化が生まれていっていますね。

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こんな感じで、第55回でした。
過去分もたっぷり厚くなってきました。マガジンのほうもぜひ見てみてください:-)



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