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神戸からのデジタルヘルスレポート #90(ヘルスサービス開発支援)

『神戸からのデジタルヘルスレポート』は、神戸拠点のプロジェクト支援企業・Cobe Associeが提供する、海外のデジタルヘルススタートアップを紹介するマガジンシリーズです。

今回から15回ほど、2021年に創業したデジタルヘルススタートアップを取り上げていきます。毎週木曜日朝配信を予定しています!

2022年一発目の今回は、ヘルスケア企業のための組み込み系ツールなど、いわばヘルスケアサービス開発のためのサービスをテーマにご紹介します。

1. Butterfly Labs:在宅検査パッケージ・API

企業名:Butterfly Labs
URL:https://www.butterflylabs.co/
設立年・所在地:2021年・ロサンゼルス
直近ラウンド:Pre-Seed(2021年7月)
調達金額:N/A

Crunchbaseより

ヘルスケア企業向けにホワイトラベルの在宅検査キットを提供しているのがこちらのButterfly Labsという企業です。

ホワイトラベルというのはある企業(ここではButterfly Labs)が生産した製品を他の企業が自社ブランド製品として販売することを指すもので、厳密には違いますがコンビニのプライベートブランドやノベルティグッズの仕組みと近いものがあります。
↓パッケージのロゴなどそれぞれのブランド向けにカスタマイズして作成できるよう。

さらに、キットそのものだけでなくCLIA認定ラボのネットワークとAPI対応プラットフォームを持っているのでワンストップでサービス提供にこぎつけることができます。最小ロットは不明ですが、利用する企業からすれば手間や初期投資のリスクがかなり省けそう。

比較的カジュアルな栄養検査から肝機能や甲状腺の初期検査、ホルモン系の検査もできるようです。個人的に面白いと思ったのは臨床試験を在宅でできるようパッケージ化してしまうというもの。臨床研究はコロナ禍も手伝って在宅で行われるパターンが増えてきているので、このようなシンプルな検査パッケージは扱いやすくて向いているのではないでしょうか。HIPAA基準を満たしておりプライバシーの安全面もクリアできそうです。

2. Spot Health:在宅検査サービスの一括支援

企業名:Spot Health
URL:https://spotkits.com
設立年・所在地:2021年・オハイオ
直近ラウンド:N/A
調達金額:N/A

Crunchbaseより

Spot Healthは在宅検査の注文~検体回収までと結果の分析の支援を行うAPIを提供しています。こちらも他の企業やサービスによる利用を前提としているようです。

ユーザーの検査結果のトラッキングが可能なのが特徴で、利用する企業はこれに基づいてサプリメントやフィットネス、食事管理などパーソナライズされたプログラムを作成できるとのこと。がんや性感染症のスクリーニング検査での利用のほか、研究への活用にも言及しています。

血液、尿、唾液などを検体とした検査のカテゴリーは大きく以下の5つです。

  • 栄養:ビタミン、ミネラル、コレステロール値

  • フィットネス:持久力、炎症、回復

  • 妊娠:卵巣予備能(卵巣に残っている卵子数)検査、更年期のタイミング

  • ホルモン:テストステロン(男性ホルモン)、女性ホルモン(エストロゲン)、甲状腺ホルモンなど

  • ウェルネス:ストレス、睡眠障害

利用手順も
① APIを介して検体採取キットをユーザーに郵送する
② ユーザーが自己採取したサンプルをパートナーラボに送り返す
③ 結果はアプリに統合可能な形で返却

以上の簡単3ステップ。アメリカでは一部の州で検査キットの使用に医師の指示が必要ですがここらへんの処理もおまかせでいいそう。検査結果はアプリに統合可能なデータの形で返却されて、RAWデータや正常値、概要説明などもついてきます。

費用面も前払いなし・使用量ベースの価格設定とのことで、頼りがいがありそうです。

3. Sahha:行動データ収集・分析のためのツールキット

企業名:Sahha
URL:https://sahha.health
設立年・所在地:2021年・シドニー
直近ラウンド:Pre-Seed(2021年7月)
調達金額:$734.7K

Crunchbaseより

Sahhaは「バーチャルメンタルヘルスケアサービスのための行動データ分析プラットフォーム」です。なんだか長くなってしまいましたが、ユーザーの端末から集めたアクティビティ記録などのデータからインサイトを出してくれますよ、というサービスです。

メンタルヘルス系のサービスを始めるにあたって、予備調査や複雑なエンジニアリングいらずでパーソナライゼーションに取り組むことができます。

モバイル端末向けのSDK(ソフトウェア開発キット)で行動指標、いわゆるデジタルバイオマーカーの収集が簡単にできます。
新たにアプリを作るもよし、既存のアプリに統合するもよし。
こうして集めたユーザーデータを分析することで、より効果的な介入や治療のパーソナライゼーション、メンタル的な危機の予測が可能に。匿名化された集約データに基づく総観的なインサイトも込みなのでサービス全体の向上にも役立ちそうです。

また、データを自動で収集してくれるので、ユーザー側が毎日なにかを手入力したり記録をつけたりする必要がないUXがいいところです。ユーザーがリタイアしてしまわないようエンゲージメントや定着率を高めることにもなると謳っています。

中心となる分析エンジンはオタゴ大学とオタゴ・ポリテクニック(いずれもニュージーランドの公立大学)の研究協力のもと数百人規模の試験で統計モデルを検証して作られたもので、エビデンスの強さが売りです。

イチから統計モデリングや機械学習を駆使してデータサイエンスをやるのはものすごく大変なことですが、そこは外注してしまおうという発想でいいサービスがどんどん産まれてくればいいな、と思うのです。

4. Sethealth:医療ソフト開発者向けツールキット

企業名:Sethealth
URL:https://set.health/
設立年・所在地:2020年・ベルリン
直近ラウンド:N/A
調達金額:N/A

Crunchbaseより

Sethealthはヘルスケアサービスやアプリケーション開発者のための開発ツールキットを提供している企業です。特に医療系のプロダクトに特化していて、iOS / Android / Webアプリに専門的な医療画像やストレージを統合することができます。

ひとつ目の特徴は最先端の医療画像APIです。

医療画像データは各メーカーごとにさまざまなフォーマットが入り乱れているせいで非常に扱いにくいところがあるそうで、これをSethelathは一元的に標準化してくれます。超めんどくさいライセンス問題もこれでクリアできるとのこと。

CT、MRI、拡散強調MRIをはじめとした、さまざまな診断画像に使われるレンダリング機能やノイズ除去機能、MIP、MPR画像、CPR画像(用語が専門的すぎて後半になるにつれどんどんわからなくなっていく...)などが備わっています。これらのワードにピンときた開発者の方はぜひチェックしてみてください。

ふたつ目の特徴は高度なセキュリティの医療用データストレージです。

オリジナルのデータセット/データベースを構築して、最大10年間データを保持することができます。
秘匿性の高いデータを扱うためセキュリティは万全の仕様で、米国の健康情報に関する取扱い基準のHIPAAやGDPR(EU一般データ保護規則)に準拠。データが損失や破損からどれほど守られているかを表すデータ耐久性も99.99999999999999999999%(22ナイン)と業界最高を謳っています。加えてエンドツーエンド暗号化、データ転送時と保存時もそれぞれ暗号化、読み取り/書き込み制限、コード書き換えの追跡機能、パスワードハッシュ化などこれでもかというほどセキュリティが強化されているので書ききれなかった分はWebサイトで確認してみてください。

最後にSethealthが使われているユースケースをご紹介しておきます。

  • OpenView Health:医療データを視覚化して共有するオープンソースアプリ

  • Custom Implants:インプラント器具の設計ソフト

5. aigecko:AI画像検出ソリューション

企業名:aigecko
URL:https://www.aigecko.com/
設立年・所在地:2020年・バルセロナ(スペイン)
直近ラウンド:N/A
調達金額:N/A

Crunchbaseより

aigeckoは、画像からAIを用いて様々な情報を取得し分析する、AI画像検出APIソリューションを開発・提供しています。バルセロナ大学の8年以上に渡る深層学習アルゴリズムの研究開発からうまれた、大学発スタートアップです。

http://www.neurociencies.ub.edu/aigecko-technologies-is-born-artificial-intelligence-at-the-service-of-image-recognition/

CEOのEricもバルセロナ大学卒、R&D責任者のPetiaは現役の数学コンピュータサイエンス学科の教授です。メンバーもバルセロナ大学の関係者で構成されています。

サービスは2種類、以下詳細です。

LogMeal API

"LogMeal API"は、写真を撮るだけで、食事の種類、成分、栄養群等を認識し識別や分類、記録します。記録されていく画像データを収集し、エンドユーザーの食事傾向も分析することができます。これらのデータを医師や栄養士等のユーザーに提供し、治療方針や栄養計画に役立ててもらうことができます。食事記録は、残す側も記述が面倒ですし、解析する側も作業が面倒ですもんね…。写真を撮るだけでOKなのは、記録する側にも見る側にとっても、双方が便利になります。詳しくは動画をどうぞ。

セルフサービスレストラン向けに、セルフチェックアウトが可能な"LogMeal KIOSK"も提供しています。タッチレスでOKなので、コロナ禍に適した機能といえそうです。

LOG MASK

このAI画像検出技術を活かして、マスクやヘルメットを装着しているかどうかの検出する"LOG MASK"も提供しています。コロナ禍でもマスクをしている人かどうか出入口でチェックができます。また、ヘルメットやベスト等の装着が必要なエリアでの検出にも役立ちます。建設現場や工場の安全管理がターゲットでしょうか。


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いかがでしたでしょうか?マガジン内の他のデジタルヘルス記事も、ぜひお手すきで見てみてください。

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