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神戸からのデジタルヘルスレポート #101(イメージング・画像診断系/音分析ソリューション)

『神戸からのデジタルヘルスレポート』は、神戸拠点のプロジェクト支援企業・Cobe Associeが提供する、海外のデジタルヘルススタートアップを紹介するマガジンシリーズです。

2022年は、昨年2021年に創業したデジタルヘルススタートアップを取り上げていきます。毎週木曜日朝配信を予定しています!

今回はイメージングや画像診断技術と音分析ソリューションについて紹介します。

1. Reti Health:網膜画像で心血管疾患スクリーニング

企業名:Reti Health
URL:https://www.retihealth.com/
設立年・所在地:2020年・ロンドン
直近ラウンド:Pre-Seed(2021年1月)
調達金額:$110K

Reti Healthは網膜画像を用いた心血管疾患のスクリーニング技術を開発している企業です。

同社によると、
・毎年1790万人が心血管疾患で亡くなっており、世界中の全死亡者の31%を占める
・イギリスでは心血管疾患のリスク因子である高血圧(未診断)の人が推定560万人ほどいる
とのこと。そこで、眼科検診を受けに眼科にやってくる人の網膜画像をAIを使って分析・リスク評価をし、血管系の病気を早期発見するというのが同社の取組みです。
(おそらくイギリスの)統計上、みんな2年に1回検査など何らかの理由で眼科にかかるそう。ここで患者さんにリスクを警告することができれば、結果的に早期診断・治療につながって数百万人の心臓発作や脳卒中を防げるポテンシャルがあるということになります。

英国を中心に180店舗をもつ眼科サービスの企業Hakim Groupと提携していて、そこが保有しているデータをもとにアルゴリズムを構築しているようです。

さらに、将来的に心疾患だけでなく貧血、多発性硬化症、アルツハイマーなど他のさまざまな病気にも応用できる可能性もあるとのこと。眼科検診のオプションサービスとして入り込めれば巨大な市場になるかもしれません。眼科の既存の顧客ネットワークに乗っかる形、しかもハード面が最初からほぼ完成しているのは強い...!

CEOが投資家向けに会社について説明している動画もよろしければどうぞ。

2. Chipiron:次世代型のリーズナブルなMRI開発

企業名:Chipiron
URL:https://www.chipiron.co/
設立年・所在地:2020年・パリ
直近ラウンド:N/A
調達金額:N/A

"MRIの民主化”を掲げ、軽量かつ安価な次世代型MRIの開発に取り組んでいるのがこちらのChipironという企業、現在鋭意研究中です。

MRIは非侵襲的で優れた検査技術であることは間違いないんですが、世界的に見ても数が圧倒的に足りてないんだとか。フランスではMRIの検査待ちに平均34日かかるそうです。もっとバンバンMRIを撮れるようになれば何百万という患者さんが救えるかもしれないのに!

というわけで開発中のこのMRI、SQUIDと呼ばれる最先端の量子検出器でシステムを一新して、低ノイズシステム・高度磁気シールド・超高感度の低磁場高速シーケンスの実現を目指しているとのこと。なんだかかっこいいワードが並んでおります。Webサイトの雰囲気も相まって宇宙船っぽさすら感じます。

上記の技術が完成すると、自動化され人の操作が減るほか防護室いらずに。価格は現在の5分の1、サイズは10分の1程度にまで抑えられるため移動も可能になるそうです。そんな夢のような話があるんだろうか、でも何とか頑張ってほしいです。

ホワイトペーパーが近日公開予定、2024年末までのリリースを目指しているとのこと。今は根本的な検出技術を設計している段階みたいです。

CEOが投資家向けに説明している動画はこちら↓

3. 3D-Shaper Medical:骨密度の3D解析ソフト

企業名:3D-Shaper Medical
URL:https://www.3d-shaper.com/en/index.html
設立年・所在地:2020年・バルセロナ(スペイン)
直近ラウンド:Pre-Seed(2020年10月)
調達金額:N/A

3D-Shaper MedicalはスペインのGalgo Medical社の子会社で、臨床研究向けに骨粗しょう症検査の結果をもとに3Dモデル化する技術を開発・提供しています。

骨粗しょう症の検査では骨密度を測定するわけなのですが、その検査にも何種類か手法があって、中でも二重エネルギーX線吸収測定法(DXA)がド定番の検査なんだそう。ただしこのDXAで得られるのは2Dデータ(面密度)のみ、より詳細な3Dスキャンが可能なQCTという検査が行われるのはわずか5%ほどのケースだけ*だといいます。

*アメリカにおいて(メディケアのデータに基づく)https://www.medscape.com/answers/330598-83060/how-does-dual-energy-x-ray-absorptiometry-dxa-scanning-compare-to-quantitative-ct-qct-in-the-diagnosis-of-osteoporosis

3D-SHAPERはQCTのデータをもとに構築された統計モデルで、通常二次元データのDXAの結果からQCTでスキャンしたかのような3Dモデルを生成できるソフトです。分析の結果、精度のほうもQCTと同等と確認されています。

ほとんどのDXAマシンと互換性があるので臨床ワークフローに組み込みやすい点もグッドです。結果の分析では、基本的な3Dモデル化に加えてグループ間の比較結果を三次元で視覚化したり、専用アプリ向けにAR化したりするサービスがあります。また、過去のDXA検査の結果を遡って使用できるのも強み。

日本では医療メーカーの東洋メディック社が製品販売しています。

4. PONS:ポータブル超音波検査デバイス&プラットフォーム

企業名:PONS
URL:https://www.ponstech.co/
設立年・所在地:2020年・ニュージャージー(アメリカ)
直近ラウンド:Grant(2021年9月)
調達金額:$30K

PONSは家庭用のモバイル超音波検査デバイスとAIによる診断テクノロジーを提供しています。このデバイスを利用すれば病院まで足を運ばなくともいつでも超音波検査ができるようになります。

同社はヘルスケアにおける診断エコシステムの民主化と分散を掲げ、スクリーニング検査をいきわたらせることで診断の遅れや病院の過密化を防ぐことを目指すとしています。
病院に来なくていい人が来ちゃったり、すぐに診察が必要な人が来院をためらって治療が遅れたりする問題は世界でもあるあるなのかもしれません。

PONSは患者さんの在宅検査として使用したり、救急車に搭載しておくことで病院までの道中に待機している医者と接続して像を共有するなど医療現場での使用も想定されています。また、スポーツの現場においてもけがをした時の予備診断としての使い道も。介護施設や薬局なんかに設置するのもよさそうです。

非侵襲型・コンパクトで、モバイル端末との接続もできるようです。AIで診断サポートやリスク判定まで自動でやってくれます。AIは画像処理にも使われていて、よりきれいな画像を短時間で出力することにも一役買っています。サードパーティーのEHRなど他のシステムに統合可能なのも使いやすそうなポイントです。そして病院で設備を導入するのに比べてはるかに安価。

また、UNICEF・国境なき医師団・赤十字と協働してナイジェリアの妊婦さんの診察に同社のデバイスとシステムを使うプロジェクトも行っています。経済的理由や病院へのアクセスが悪い場所にいることで診断が遅れれば命にかかわります。創業者の方はトルコ出身、脳出血の診断遅れで父親を亡くされたそうで、最終的には頭蓋スキャンも機能に組み込みたいんだとか。

いつでもどこでも高クオリティ・低コストの画像診断が受けられる時代がすぐそこに。

5. Acoustery:音による呼吸器疾患分析ソリューション

企業名:Acoustery
URL:https://acoustery.com/
設立年・所在地:2020年・ロシア(都市不明)
直近ラウンド:N/A
調達金額:N/A

Acousteryは、呼吸器疾患の音響分析ソリューションを開発しています。呼吸音を分析することで感染していると考えられる人の声、呼吸、咳の音響の兆候をキャッチすることができるそうです。

元々はロケットエンジンや原子力発電所の診断に使用されていた音響分析技術が、転用されたものだそうです。ロシアの科学者たちで開発され、最初の録音サンプルは中国からだとか。

利用方法はシンプルです。スマホアプリでユーザーは席と呼吸を5秒間記録するだけ。音の記録はAIアルゴリズムで分析され、即座にユーザーは結果を受け取ることができます。何千ものデータサンプルを収集し分析、健康診断で95.6%という精度の高さも確認できているようです。

音だけなので非接触、医療従事者による検体採取の手間も不要です。Covid-19のパンデミック下でかなり有用といえますね。

ロシアやウズベキスタンで認証が進み、利用拡大が進んでいます。

Covid-19をはじめとした呼吸器疾患への有用性について、本アプリを利用した研究も進んでいます。

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