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読者が犯人のミステリー。書評ブログ〜最後のトリック〜

こんにちは。

梅雨に入る前のこんな感じの季節は空気が薄く感じるのは僕だけでしょうか。どうも、片頭痛に苦しんでる海斗です。

このご時世ですから、家にいることが多く、必然と趣味に手が伸びるというわけで今回も読んだ本のお話をしたいと思います。

今回読んだのは

「最後のトリック」 深見黎一郎

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この小説の魅力は「読者が犯人」というトリックを成立させるためのフリの部分だと感じています。

このトリックを成立させるには2つの重要な要素があります。その2つとその2つだけ話してもいまいち掴みづらいと思うので、全体の内容。この3つを中心に話してきます。

どういうトリックだったのか、お話するので、正直、読んでいない人で読んでみたいと思っている人は読まない方がいいかもです(笑)

読んだけど、よくわからない。

すごかったけど何がすごいんだろう。

読者が犯人ってどういうこと?、トリックだけでも知りたい

こんな人達向けにネタバレありで進んでいきます。

では入っていきます。


あらすじ

「読者が犯人」というミステリー界最後の不可能トリックのアイディアを、二億円で買ってほしいースランプ中の作家のもとに、香坂誠一なる人物から届いた手紙。不信感を拭えない作家に男は、これは「命と引き換えにしても惜しくない」ほどのものだと切々と訴えるのだが・・・ラストは驚愕必死!この本を閉じたときあなたは必ず「犯人は自分だ」と思うはず!?    

(文庫裏表紙より引用)


全体的な内容

この小説は大きく分けて、二つに分かれて構成されている。

1、香坂誠一から手紙で始まり、その手紙に関係ある描写

2、超能力研究をしている博士に超能力の実在性について取材している描写

この2つが基本的に章ごと交互に繰り返される。

実際にどういう展開か話していく。

1、香坂誠一から手紙で始まり、その手紙に関係ある描写

最初の手紙はあらすじであるように「読者が犯人」というトリックを二億で売るという内容だ。

主人公は小説家で、新聞連載を控えた状態であった。

この手紙に関して、主人公が実際に香坂誠一にリアクションをとることはないのだが、次々と手紙が届く。

本当にこのトリックが革新的なものであるということ、2億円という額は引けないということ、自分がどういう人間か知らせるための私小説がその手紙には書かれている。

この私小説は5通くる手紙の中で最初以外のすべてに含まれている

2通目を受け取ったごろ、主人公のもとに捜査一課の刑事が来る。内容は香坂誠一に殺人の容疑がかかっており、現在、失踪中であるという。ひょんなことから主人公と香坂のつながりを疑われる。

ここから物語は加速していく。

2、超能力研究をしている博士に超能力の実在性について取材している描写

こちらは本当にシンプルな内容。

超能力とは超心理学といい、れっきとした学問であるという説明から始まり、超能力を持っていると思われる双子の少女で実験していくというものを切り取って、描写していくのが続いていく。

ここで作者が伝えたいのは、超能力という能力の実在性。何かを操るサイコキネシスなどは超能力ではない。そういう類は物理的に無理で、それは超能力でない。

テレパシーなどは実際に伝播や音で自分たちの考えを伝え合う動物がいるという事実から可能であり、このような物理的に可能な、実現性のあるものが超能力であり、それは実際に実在するということを実験や論説でここでは紹介している。


少しまとめきれてない感は否めないけど、これで全体的な話は終わりにして、トリックの説明に入っていきます。

ここからが完全ネタバレなのでご注意を。


読者を物語に強引に引き込むトリック

「読者が犯人」とは、普通はありえません。

なぜなら、読者は不特定多数の性別、生まれ、性格が違う人々だからです。

一部の人にしか当てはまらない、また、この時代に生きる人にしか成り立たないようなトリックはトリックとして成立してるとは言い難いです。

読んだ読者が誰であろうと、最終的に「自分が犯人だ!」と思わせなければなりません。

そのためには読者全員が物語に登場させる必要があります。物語に登場しないと殺人はできないですからね。

では、そのトリックについてお話しします。


簡潔に答えから言うと、








この小説自体がこの小説内に登場する主人公が新聞連載している小説なんです!!!!


???と思った方。

もう一度全体の内容を見てみてください。

この小説の主人公が小説家で、現在新聞連載をしているとさらっと書いていると思います。

その新聞連載がこの「最後のトリック」という小説なんです。

つまり、主人公は作者である深見黎一郎(※話はフィクションです)


これが何を意味するか、考えてみましょう。

この本を読むということは、小説の中の新聞連載を読む読者という登場人物として強引に物語に介入させられるということです。

これでこの本を読む人は小説の登場人物になることができ、かつ、性別、年齢、生まれなどを超えて、この小説を読む人は全員もれなく登場人物という共通項を強制的に作られるのです。

1番難しいとされた、誰でも「自分が犯人だ!」と思わせられる環境をこのトリックで可能にしているのです。

これはうなりますね(笑)

でも、ここからどう読者を犯人にするのか、それはここから話していきたいと思います。


最後のトリック


まず、先に言い忘れたことを言いますが、読者が殺すのは香坂誠一です。

読者が香坂誠一を殺すトリック。これは至ってシンプルでした。

ずっとヒントが出ていました。香坂誠一の手紙と同時進行で進んだ超能力の話。これが大きなヒントだったのです

この物語とは関係ないように思えた超能力の話がここでつながります。

香坂誠一は超能力者だったのです。


香坂誠一の超能力は、精神的感応力です。

一種のテレパシーのようなもので、離れていても自分に向けられている感情が分かるというものです。

この能力の影響で、香坂誠一は対人恐怖症でした。そして、この対人恐怖症の原因をつくったある出来事を引き起こしたのが自分の作った文章でした。それ以来、自分の文章を読まれるということに敏感になっていました。

人に文章を読まれると、不整脈を起こすのです。

それが多くの人の目に留まれば止まるほどそれは香坂誠一は苦しみます。

これがどういうことかわかりますか?


香坂誠一は手紙と一緒に私小説のようなものを書いていました。

そして、これは新聞連載、つまり、この小説に載っている。

※上のトリックで説明した通り、この小説はこの小説内に出てくる新聞連載の小説だから

私を含めこの本を読んでいる人が多く見た。何が起きるのか、心臓麻痺です。

私たち読者がこの小説のなかで手紙を読んだから死んだ。

つまり、読者が犯人というわけです。


いきなりぶっ飛んだ話のように思えますが、このトリックに至るまでに多くの超能力の実在性についての描写があります。これで超能力への読者への理解を少しずつ深めていき、このラストに繋げることで、ありえないような展開もさも当たり前であるかのように錯覚させる。

このフリの部分があったからこそ、感じられるのです。

自分が犯人だ!と。


まとめ


解説どうだったでしょうか。拙い面も多々あったと思いますが、少しでもこの作品に興味を持っていただけたらと思います。

この小説は今までにない新鮮な感覚を味わえる小説です。

読書好きにこそ読んでほしい。そんな一冊です。

最後まで読んでくれた方、ありがとうございます。

Twitter(benefit1604sea)もやっていますので、よろしくお願いします。

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