描写の改善例① 虚構を伝える力
以下のような例文付きメッセージをもらったので、今回は描写の改善例について書いていきます。
まず、もらったメッセージは以下です。
それに対し、こう回答しました。
で、実例を考えてみる記事がこれです。
何が問題なのか
改めて例文を読んでみて、何が問題なのかをしっかりと考えてみます。
まず素晴らしいのは、やはり作者が作品世界をしっかりイメージできているように見える点です。作者は作品世界を解像度の高いVR空間として自由に動き回れているでしょう。おそらく「虚構を生みだす力」が優れているのだと思います。この点は絶対に無視できないポイントですね。
ただ、「イメージできているように見える」なんですよね。これだけでは読み手の頭の中には作者のような作品世界が形成されていません。
だからと言って駄目なわけではありません。これも小説としてはよくある文章で、妥当ではあります。それに高い解像度で伝える意図がない場所で無駄に描写しても、それは蛇足でしかありません。
問題は作者がこの文章を「情報が多い」と考えていることです。しかしマシュマロちゃんはそう感じません。むしろ「作品世界を味わうための情報が少ない」と感じます。
そう感じる一番の要因は、描写が少なく説明に偏っているからです。説明と描写の違いについては以前書きましたが、そこで言う「説明」に偏っているということです。描写と言えるのは「店内には一面天正から床まである棚がひしめきあい、そこに置いてある全てが人形サイズ」くらいで、それも人によっては描写ではないと考えるかもしれません。
作品世界を読者に伝える一番の手段は描写です。その描写が弱いため、「虚構を生みだす力」は強いのに「虚構を伝える力」が弱い状態になってしまっていると考えます。これだと持ち味を発揮できていないのでもったいないですね。これで駄目なわけではありませんが、この作者ならもっともっと上を期待できます。
さらにここからは以下について考えてみます。
時間の流れに注目
文章の書き方を分類する切り口はいくつかあります。先ほどは描写と説明という観点でしたが、次は時間の流れという切り口で注目してみます。
時間の流れの分類は「時間の流れ」に書きましたので割愛しますが、例文は休止法に偏っています。「味のある木製のドアを潜ると」「イヴァンは辺りに意識をめぐらせていた」で情景法の始まりを感じさせる程度で、他はほぼ休止法と見ていいでしょう。
休止法であるということは、時間の流れが伴わない文章だということです。小説は読者を追体験させることで作品世界のイメージを読者と共有します。そのため、時間の流れが伴う情景法は描写に次ぐ「虚構を伝える力」の肝です。
というわけで、例文は説明&休止法偏重で書かれていることが問題だと考えます。そしてそこを解決すれば豊かな作品世界を読者に伝えられるんじゃないかと思います。
次回は「どんな改善パターンがあるのか」を考えていきます。
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