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挑戦し続ける力

作品を書いて公開するには自意識の壁を越える必要がありますが、越えるのは一度きりじゃありません。何らかの挑戦をするたびに越えていく必要があります。

ですが毎回大きな勇気を振り絞るのは大変です。そのため長く続けるには小さな勇気で、なおかつほぼ自動的に挑戦できるようにならないといけません。そうして自らを挑戦し続けるマシーンに変え、「挑戦して当たり前」の状況を獲得するための方法について書いていきます。

ただの精神論じゃ駄目

自意識の壁の話は精神の問題であるため、どこまでいっても精神論でしかありません。「気合いで乗り越えろ」が基本です。

とはいえ、そんなことは自意識の壁で躓いている人だってわかっています。それで解決できたら苦労しません。精神の問題ですが、ただの精神論では効果がないのです。もっと筋の通った、つまり論理的な精神論が必要です。

そこで頼るべきは科学です。人間の精神なんていうのは世界中で研究されているため、「心理学」という精神論の一大ジャンルがあるのです。だから自意識の壁を越え続ける力は、心理学という筋の通った精神論の力を借りましょう。第1章の他の記事でも心理学の力は借りていますが、今回はその比じゃないレベルで借りていきます。

行動の心理学

「挑戦を続ける」ということは、「特定の行動を繰り返す」ということです。ですから心理学の中でも、「行動」に焦点を当てた分野が役立ちます。そんな都合のいいものがあるのかというと、あります。「行動分析学」という分野です。行動分析学は端的に言うと、行動を繰り返すメカニズムを解明する学問です。ドンピシャですね。

しかも行動分析学で面白いのは、心理学なのに行動者の心理を根拠としない部分です。曖昧で観測できない内面ではなく、あくまで行動者の外にある明確なものを根拠とします。また、行動の内容にも踏み込みません。それにより、行動分析学の理論はすべての人間のすべての行動に当てはまります。それどころか、基本的な原則は高度な学習能力を持つすべての生き物に共通します。そのため、実験には動物が用いられています。

そんな行動分析学の実験装置として有名なのが、「スキナー箱」と呼ばれるものです。ボタンを押すと餌が出る仕掛けになっている箱のことで、ハト等の生き物を入れて使います。餌が出る条件を操作する実験を行い、行動に関する法則を探ります。

そのスキナー箱の中でもさらによく知られているのは、ボタンが押された際、餌がランダムに出るよう設定した実験です。ボタンを押したら必ず餌が出る設定だと、箱の中の生き物はボタンを押し続けるようになります。そして後からボタンを押しても餌が全く出ない設定に変えると、やがてボタンを押すのをやめます。しかし最初から餌が出るか出ないかがランダムの設定だと、後から餌が出ない設定に変えても、箱の中の生き物は延々とボタンを押し続けます。それもかなり長い間です。つまり、感情など関係なく行動を繰り返すマシーンと化すのです。

よくこの実験はパチンコ等のギャンブルに例えられたりします。行動分析学を知らなくても、「サルにランダムに餌の出るボタンを学ばせると、餌が出なくなってもボタンを押し続ける。その人間版がパチンコ」みたいな話は聞いたことがあるという人もいるかもしれません。ギャンブルのようなネガティブな行動をつい繰り返してしまう状態になることは、まさにスキナー箱の実験そのものです。

しかし行動分析学においては、行動の内容を問いません。スキナー箱と同じ状態になっていれば、ポジティブな行動を繰り返すようにもなります。だから箱の中の生き物が延々とボタンを押し続けるように、自らを挑戦し続けるマシーンに変えていくこともできるのです。

行動分析学の基本理論

行動分析学を実践するために、まずは基本理論を知る必要があります。「理論」というと難しい話に見えてしまうかもしれませんが、基本となる理論はシンプルです。

まず行動が変化する方向は以下の2種類だけです。

・強化
・弱化

強化というのは、特定の行動を繰り返す確率が高くなるということです。限界まで強化されたら、必ずまた特定の行動をすることになります。

弱化というのは、特定の行動を繰り返す確率が低くなるということです。限界まで弱化されたら、もう特定の行動をすることはありません。

次に、行動を繰り返すかどうかに影響を与える要素も以下の2種類だけです。

・好子(こうし)
・嫌子(けんし)

好子というのは、行動を強化する要素です。「好」という字が使われていますが、要素自体の良し悪しは関係なく、行動を強化する要素ならすべて好子です。

嫌子というのは、行動を弱化する要素です。これも「嫌」という字が使われていますが、要素自体の良し悪しは関係なく、行動を弱化する要素ならすべて好子です。

行動の直後にこれらが出現もしくは消失することで、行動は強化もしくは弱化されます。そのため、「特定の行動を繰り返す」という現象は以下の4つに分類されることになります。

・好子出現の強化
・嫌子消失の強化
・嫌子出現の弱化
・好子消失の弱化

この理論に則れば、「何かを続けたい」と思った場合は、好子となるものを出現させるか、嫌子となるものを消失させれば実現できます。逆に「何かをやめたい」と思った場合は、嫌子となるものを出現させるか、好子となるものを消失させれば実現できます。こうして整理されると行動のメカニズムはシンプルですね。

しかも、今回のテーマは挑戦を繰り返すことですから、考えるべきは強化だけです。2パターンなのでもっとシンプルになりました。

さらにここでは嫌子消失の強化についても除外します。なぜなら「書くことで自分を救う」という、一種のライティングセラピーの側面が強いタイプが嫌子消失の強化にあたるからです。そのタイプは自己完結しているので、ただ書きさえすればどんどん強化され、勝手に挑戦するマシーンに育つのです。ですから前回までの虚構を生み出す力公開する勇気さえ乗り越えていれば、今回の続ける力も自然に獲得できると思われます。

そういうわけで、考えるべきことは「好子出現の強化」だけです。しかも行動が強化されるかは行動そのものや意志力ではなく、好子と嫌子の有無で決まります。そのため、もっと言えば考えるのは「好子出現」これ一点であり、行動者の視点に置き換えた表現にするなら「好子獲得」です。これこそが挑戦し続けられるかを決める要素なのです。

ちなみに余談ですが、マシュマロというサービスを行動分析学的に説明すると、「匿名制で好子をより出現させつつ、AIのフィルタリングで嫌子をより消失させ、創作という行動を強化するスキナー箱」です。「質問箱」じゃありません。

何が好子になるか

小説を書いたり公開する行動において好子となるのは、主に以下の2つです。

・セルフフィードバック
・他者からの称賛

そのため、通常は挑戦した後にこの2の好子を獲得する習慣をいかに身に付けるかが、いかに挑戦を続けられるかを決定づけることになります。

セルフフィードバックの習慣

挑戦した直後にまず獲得したいのは、セルフフィードバックです。前回も書きましたが、セルフフィードバック、つまり自分なりの気付きを得ることは、大きな成長に繋がります。たとえネガティブな気付きでも、それは改善点であり成長への招待状です。そのことさえしっかり理解できていれば、セルフフィードバックは好子となり、再度挑戦をする確率を高めてくれるでしょう。

ですからあらゆる挑戦の直後には、必ずセルフフィードバックを行い、好子をしっかりと認識する習慣を付けましょう。行動分析学で言う「直後」とは、1分以内です。ですから執筆に取りかかれたら1分以内に「今日のこの手順だとスムーズに取りかかれた」とか、「今日の手順だと取りかかるまでに時間がかかってしまったな」とかを認識してください。作業がある程度進んだら、「こうすることでよく進んだ」とか、「こうしてみたら全然進まなかったな」とかを認識してください。作品が完成したときも、1分以内にセルフフィードバックを行ってください。スピート勝負なので雑でいいですしデタラメでも構いません。行動分析学的には好子の内容なんて関係ないのです。

ただし、セルフフィードバックが得意ではない人もいるでしょう。そういう人は、セルフフィードバックの代わりに心の中で「天才」と10回唱えてください。取りかかれたとき、進んだとき、完成したとき、それらすべてのタイミングでやるのです。慣れてきたら言い方にこだわってみたり、他人に「天才」と10回言われるような想像に変えてみたり、「えらい!」に変えてみたり、自分なりに工夫してみてください。とにかく1分以内で好子っぽく働くものを出現させられれば、何だっていいのです。

他者からの称賛を獲得する習慣

次に獲得したいのは、他者からの称賛です。これは行動後1分以内じゃなくても強烈に好子として働きます。しかも毎回得られることは稀なので、ランダム性も高くなります。つまり単に挑戦を何度か繰り返すだけじゃなく、自らを挑戦し続けるマシーンにまで変えられるかは、ここにかかっていると言ってもいいでしょう。だから何らかの挑戦をした後には、必ず他者からの称賛を探す習慣を身に付けてください。

とはいえ、他者からの称賛を獲得するのは簡単ではありません。なにせ「承認」じゃなく「称賛」です。存在を認めてもらえるだけでは好子として弱いため、言葉で明確に褒めてもらわないと駄目なんです。そのため、書いて公開さえすれば簡単に他者からの称賛が手に入るという人は多くないでしょう。

したがって他者からの称賛を目的としていなくても、多くの人は挑戦を続けるために他者からの称賛を積極的に求めていく必要があります。「創作の楽しさだけあれば他はいらない」なんて高潔な建前を真に受けている場合でもなければ、他人から褒められようとすることに卑しさを感じている場合でもないのです。物事の貴賤などどうでもよく、行動分析学的に強くてランダム性のある好子が必要なのです。それが多くの人にとっては他者からの称賛というだけです。どんな目的を持っていようと、それとは別に他者からの称賛も追い求めていいし、むしろ追い求めることこそ合理的なのです。

だから書いて公開しても称賛を得られない場合は、マシュマロ等で募集してみたり、自ら求めにいくようにしましょう。有料で感想を書いてくれる人もちらほらいるようですが、そういう人達に頼ってもいいでしょう。

ただし、称賛を積極的に求める行為だけはやっぱり気合いで乗り越える必要があります。完全に勇気を不要とするのは難しいのです。しかし書いて公開するという挑戦に何度も何度も大きな勇気を振り絞っていたら消耗してしまいます。それよりも好子の獲得に勇気を振り絞ることで行動を強化し、だんだん挑戦に必要な勇気を少なくしていくほうが合理的です。しかも好子獲得を続ければ自動的に挑戦し続けるマシーンになり、さらに人より経験も積めて成長できるわけですから、他者からの称賛も自然に得られるようになります。つまり、行動にも好子獲得にも勇気がほぼ不要の状態になるのです。ですからそこに至るまでの、特に最初の好子の獲得だけは気合いでどうにか頑張りましょう。気合いだ気合い!

というわけで結局「気合いで乗り越えろ」ですし、どこまでいっても精神論でしかありません。しかし行動分析学の力を借りたことで、どこに気合いを入れるべきかが明確になったかと思います。そのため、あなたが挑戦し続ける力を得たいと願うなら、行動分析学に則った上でのこの精神論は、大いに役立つはずです。

さぁ、好子獲得の習慣で挑戦マシーンになりましょう!

そもそも他者からフィードバックをもらえない場合

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