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2021年 ベストアルバム 10

1位 Black Country, New Road ー For the first time

Black Country, New Roadの第一章がここに完結した。ボーカルが性的な問題を起こし解散を余儀なくされたNervous Conditionsから続く物語、失われた時間への後悔が滲み、こんな風にならざるを得なかったという苦悩が漏れる。残されたメンバーでバンドを続けることを決意してステージの隅っこでギターを弾いていたIsaac Woodの前にマイクがおかれる。「僕はなんにも学んじゃいない / 2018年に失った全てのことから」(Athens, France)シングルの時から変わった歌詞がその物語を強調する。自己憐憫と抑え込まれた衝動、この時期のBlack Country, New Roadにはこのまま破裂するんじゃないかってくらいのスリルがあって、どうなってしまうのかわからないような狂気があった。それはきっと本来のBlack Country, New Roadの姿ではなかったような気もするけれど、でもそうしなければならないという脅迫観念的な思いもあったんじゃないかって想像する。6曲しか入っていないけど、この中にたぶんここまでのBlack Country, New Roadの物語の全てがある。特別な時間の特別な覚悟、それにめちゃくちゃドキドキした。最初のその瞬間から、何かが起きているってわかるようなそんな空気が存在していて、だからきっとこんなにも興奮するんだろう。そして物語をちゃんと終わらせたってことに意味があると、2ndアルバムに入る曲たちを聞いた今では思う。

Nervous Conditionsから続く物語に関してはここに(もうちょっとだけ詳しく)。


2位  Drug Store Romeos ー The World within our bedrooms 

イングランド、ハンプシャー出身の3人組 Drug Store Romeos、夢見心地で曖昧で淡くて深いそんなアルバム。物語の始まりに引っ張りこまれるようなオープニングトラックからいつか出るはずだった幻のシングル曲Adult Glamourまで、フワフワと浮かんでいるかのような、それでいてしっかりと大地を掴んでいるかのようなそんな不思議な感覚を味合わせてくれる。その音楽性とは裏腹にDrug Store Romeos はめちゃくちゃパンクなんじゃないかってそんな気もしている。ポストパンクの波が押し寄せてくる中でそうなることをよしとせず、仲間ではあっても群れはしない、今は適切なタイミングではないと何回かあったデビューのチャンスを見送って、そうしてこんなに素晴らしいデビューアルバムを作り上げる。そういう部分があるからこそなんかちょっと違うぞとこんなにもドキドキするに違いない。Drug Store Romeosの姿勢に行動、3人の佇まいに雰囲気、もう本当に大好き。

そして結成当時のあれやこれやが語られたインタビューがここにある。


3位 N0V3L - NON​-​FICTION

カナダのコレクティヴN0V3L、1stアルバム。メンバーの大半を同じくするCrack Cloudのアルバム、そして2019年に出たセルフタイトルの12インチから時が進んで怒りからついには虚無に辿り着いた。腐敗する社会、権力者の行動、インターネット、人々はサイドに別れお互いにレッテルを貼り続ける。利益のために不都合は無視されてそうして新たな事実が作られる。ポスト・トゥルース時代のポストパンク、Josef KにThe Cureを混ぜてJames Chanceを添えた後期資本主義の不気味なディスコ。N0V3Lの1stアルバムは NON​-​FICTIONの世界への虚無を抱えながらそれでもわずかに残った希望を持って静かに抗うような感じで、それにこの上なく惹かれてしまう。シリアスでモノクロで、ときおりどこか色づくようなそんな世界の美しさがあるような、そんな気もする。


4位 black midi ー Cavalcade

 black midiの2ndはよりカオスになってそしてより自由になった。混ぜてはいけないジャンルはなくやってはいけないこともない、全ては楽しみの為に存在し突き抜けたその先に美しさが生まれていく。black midiの最大の特徴は実はユーモアなんじゃないかってこの2ndアルバムを聞いて思った。こんなにとんでもないことをやっているのにシリアスになりすぎることはなくヘンテコで遊び心が満載。そういう部分が好きなんだなと再確認。この先のどこかでギターを捨てることになってもそれはそれで絶対いいなってblack midiだと素直に思える。この2ndアルバムで信頼感がマシマシに。マジでこんなにもドキドキさせてくれるのにユーモアがあるってバンドは他にない。


5位 Alicia Breton Ferrer - Headache Sorbet 

オランダのインディシーンの伝説的バンド(他のバンドのインタビュー記事を読んだりしてもみんながその名前をあげる)Sweet Release of DeathとNeighbours Burning Neighbours、その両方の中心メンバーである女性Alicia Breton Ferrer。パンデミックのさなか、バンド活動の停止を余儀なくされて自宅で一人と一匹(愛猫イギー)で作り上げられたソロアルバム。打ち込みとギターが中心になって、二つのバンドに存在した素晴らしくも過剰であった装飾がはぎ取られ、生々しくソリッドな感情がむき出しになり、強烈な地下感と暗さがどうしよもなく胸に迫ってくる。一人の、頭の中の、小さな世界にしか存在できないものだってあって、それがもうたまらなく魅力的で愛おしく思えてくる。このアルバムは本当に良い。

 


6位  Squid ー Bright Green Field

Squid1号、ブライトン発ロンドン乗り換えドイツ経由宇宙行き。エネルギーと勢いの中に緻密な計算と湧き上がってくる快感が潜んでいて、繰り返されるフレーズを追いかけているうちに宇宙に行ける。ポストパンク、ポストパンクと一括りにされながらもSquidはずっとドープでミニマル。NEU!とCANとHarmoniaをLCD Soundsystemで鳴らしてそれを尻目にコントローラーを握ってゲームをしているみたいな(Tennis for Twoとかそういうやつ)。Dan Careyはサウス・ロンドンのシーンのバンドを色々とプロデュースしているけれど、一番相性がいいのはたぶんSquidだなとそう思わせるくらいに良かった。Martha Skye Murphyとコラボするって驚きもあったしNarratorのビデオも最高だったし、Squidはマジでどこまでも行けるって気分にさせてくれる。

 

7位 PACKS ー Take the Cake

センスが良いと、よくそんなあいまいな言葉を使ってしまうけど、でもセンスが良いとしか言えないようなそんなものだって存在する。つまりカナダのバンド PACKSはとてもセンスが良いって言いたいわけで、それは少しSorryのセンスにも似ている。Pavementに影響されたような90年代的な音楽をやりながらもそのまま突き抜けるなんてことはせずに、ここで終わりにするのかという絶妙なところでおしまいにする。ちょっと物足りなく、でも満足感はあって、気持ちよさがずっと持続する。どう考えてもこれはセンスで、もうちょっと考えを進めても、革新的なことではないけれどでも他の誰かがこんな風に出来るとは思えないってところに着地する。PACKSのというかMadeline Linksのこのセンスは最高で、24分しかないアルバムの中で甘さと苦み、曇りと晴れ、暖かさと冷たさがサラッと調和する。だから最高、センスが良い。


8位  jonatan leandoer96 ー Blodhundar & Lullabies

ラッパーYung Leanの別プロジェクトjonatan leandoer96、その3枚目のアルバム。フォークを基調とした一貫した雰囲気の前作『Nectar』の方がきっと完成度は高かったんじゃないかって思うけど、未完成の断片を集めたみたいなこのアルバムもそれだけでは量れないようななんとも言えない魅力がある。色んなアイデアを試そうとしながらもよりラフで、だからこそその中心にある感情が生々しく出ている気がして。漂う寂しさに喪失感、街や人、何かを愛していて、愛があるからこそそれが失われていく未来のことを考えて憂鬱になる。最後にはひとりになるんだから……わかっていたけど見ないようにしていたものが頭をよぎるかのような、Yung Leanはやっぱり特別だって感じさせてくれるメランコリックな思いのかけら。でも欠けているから特別で……とまたそんな眠れなくなるようなことを考える。

 

9位 bar italia ー bedhead

強烈に香るDean Blutの匂い、悪夢が見せる美しさ。それは寂れたリゾート地を舞台にした短編映画のような趣で頭の中に強烈なイメージを残す。ホテルの部屋のブラウン管のTVは不鮮明で白黒の映画の中の女性の顔もはっきり見えない。2015年頃にDean Blutと一緒にコペンハーゲンで展覧会を行っていたイタリア人女性 Nina Cristante のプロジェクトbar italia、この2ndアルバムは短い曲がシーンとしてつなぎ合わされて作られた映画みたいでその雰囲気にどっぷり浸れてなんと言えない気分になる。謎が謎を呼ぶbar italia、下のリンクのレビューでもうちょっと詳しく書いたけど、わからないから楽しくて、謎が音楽をさらに魅力的にするってことも間違いなくあると思う。


10位 Hand Habits - Fun House

SASAMIのプロデュース大正解だったっていうのがこの3rdアルバムを聞いて思ったこと。前二作はKevin Morbyのバンドに参加していたりPerfume Geniusのツアーでギターを弾いていたりするギタリストMeg Duffyの魅力を活かしたアルバムって感じだったけど、今作ではその枠組みを外してシンガー・ソングライター Meg Duffyのアルバムになったんじゃないかってそんな気がする。幼い頃に死別した母親、残されたアクアマリン、自分にとって彼女はどんな存在だったんだろう?自らの記憶のページをめくっていくようなそんなパーソナルな作品に信頼できる他人の手を入れる、それはきっとカメラをどこに向けるかみたいなもので、ホーンやエレクトロニクスを使ったこのアルバムのアレンジは過度にドラマチックにすることなく優しく静かにMeg Duffyのギターと唄に寄り添う。それは平熱のドラマで、しみじみと味わい深くて素晴らしい。


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