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Sports Team〜バンドとファンとコミュニティ〜

Blur VS Oasis、そして俺たちはOasisだったってわけだ

そんな風にして告げられる敗戦。UKアルバムチャート2位、フォロワー数7000対8千万の戦い、局地戦とはいえどう考えても無理だろって思ったけれど、しかし接戦でめちゃくちゃ盛り上がった。週半ばに首位ターンを決めて途端に色めきだってThe Wombatsみたいな先輩バンドからFEETをはじめとする後輩バンドまでギターミュージックの夢を乗せてSports Teamを1位にしようぜ運動が始まってマジでブリットポップの時ってこんな感じだったのかもみたいな雰囲気を味わえて面白かった(しかし大臣までバンドル買ったってツイートしててびっくりした。本当にブリットポップみたいじゃん)。

それにしてもSports Teamのアルバムこんなに売れるとは思わなかったな。ガツンと行って欲しいな、行きそうな感じもするけどな、なんて思ってはいたけどこんな風になるとはまったく想像していなかった。

まさにこんな感じのことを自分も思ってちょっと考えたんだけど、Sports Teamは野心もだけどそれらのバンドと比べて10代のファンが多そうな感じがするんだよね。WhatsApp(LINEみたいなチャットアプリ)のグループ作ってそこで確固たるファンベースを作っていたっていうのがたぶん他のバンドとの違いで、それが今回大きかったんじゃないかって。

その辺りは去年のSo Young Magazineのこの記事に詳しい。

Sports Team’s English-ness isn’t limited to their lyrics or social media wit, they understand the importance of community, and sometime last year they gave their fans, their community, a place to hang.

Sports Teamのイングリッシュネスは歌詞やソーシャルメディア上でのウィットに止まっていない、彼らはコミュニティの重要性を理解しており、昨年彼らはファンに対してたむろするためのコミュニティとしての場を与えた。

こんな文章から始まるSports TeamのWhatsAppグループの説明はまるでBBCのドキュメントを見ているかのよう。

バンドのインスタグラムの叫びとして始まった(たぶんジョークだったのかも)このグループは、今ではファンが興奮を分かち合ったり、お気に入りのリリースを共有したり、メンバーにニックネームをつけたり(ギタリストのHenry Youngは愛情をこめてPickle Boy’と呼ばれている)出会いの場を共有するための場所になっています。
私たちは何人かのメンバーと連絡を取り、グループが彼らにとってどんな意味があるのか、そしてSports Teamが彼らの世界にどのようにフィットしているのかを確認しました。
イースト・サセックス出身のDillonはSTC(Sports Teamのコミュニティ)はどこに行くべきか考えています。「ここは思いを同じにする人に出会う最適な場所なんだ。新しい友達を作るのにもいいし。ライブでコミュニティの人たちに会ったことがあるけどみんないい人達だったし本物なんだ」バルセロナから来たEduは付け加えます。「何かの一部になるってことさ。僕らはみんな何かの一部になろうとして人生を生きているんだ、何かに関わることでしか得られない感情を得るためにさ」

ですます調で訳したらNHKの吹き替えの声が聞こえて来そうなこの感じ、バンドじゃなくてファンに話を聞いたってところがまず凄い。

本を読むとその中でソーシャルメデイアの過度の使用と画面の見つめすぎは健康を損なうと教えられることでしょうが、Sports Teamコミュニティの通知を10分ごとに確認することでどんな効果を得られるのでしょうか?もっとも効果があるのは「共有の力」だと言われています。ラジオにおいての流行の発信が消え失せたといわれている昨今(特にギターミュージックにおいて)人々はお互いのヒントをたよりにしています。グループのなかで最もアクティヴなメンバーの一人であるNiallはそれが彼にとってどのような意味があったのかを教えてくれました。「STCのおかげで音楽的なセンスが磨かれたんだ、ここにいなきゃ絶対聞かなかったようなバンドも教えてもらったしね。それにこのグループを通して数えきれないくらいのギグの話を聞いたんだよ、それでロンドン中の新しいヴェニューに行ったりすることが出来たんだ

たぶんポイントは価値観が共有されているってことなんだろうな。ピントのズレた話を何度も聞かされることなく、自分の言いたいことや聞きたいことをキチンと理解してもらえるように思える場所があるっていうのはなんとも魅力的。情報の精度にしたって、自分の知りたかった情報やあるいは知りたくなるであろう情報がピンポイントで手に入るし、議論をするにしてもある程度の前提条件が共有されているから煩わしい説明なしに本題に入っていける、そんな場所はどう考えたって居心地がいい。

こういう場所は今に始まったことではなくてきっと昔からあって、たとえば学校のサークルだったり、あるいはサロン的な喫茶店だったりレコード屋だったり服屋だったりするんだろうけど(そういう映画や漫画をいくつか見た)それが手のひらの中にあってしかもバンドが先導しているっていうのが新しいし面白い。コミュニティのメンバーはみんなSports Teamのことが好きだけどSports Teamの事だけが好きなわけじゃないから、色んな話題を話すことでお互いの理解を深めることができるのは凄く健全だと思うし何より自由を感じるんだろうな。ネット上でよく見かける意見を述べる前の前置き「私は〜に必ずしも賛同しているわけではありませんが」「〜をしてくれという意見も多く」「まずはっきりさせておきたいのは〜」それらは全て不特定多数の人たちに向けられ発せられたもので、誤解をされることを恐れそれを避ける為の言葉でしかない。意識していてもしていなくとも叩かれることを恐れる心、そういう煩わしい世界から解放されて自分の言葉を正しく受けとってくれるように思える世界に惹かれるのは当然のこと。何より楽しいし。

でもコミュニティが大きくなっていくうちにかってそうであったものから変わっていったり、外の世界の価値観を極端に無視したり否定に走ったりしないように居心地の良い場所を作る努力もまた必要で……と記事を読んでコミュニティのあり方についてちょっと考えてしまったけどでもこういう場所があるって超いいよね。最初にこんな感じのを始めるっていうSports Teamのポストを見たときにはまたいつものジョークだろうなって思っていたんだけど、アルバムのレビューに必ずと言っていいほどライブについてとこのWhatsAppのコミュニティについて書かれていたから本当にびっくりした。

何にせよSports Teamはなんか俺らの代表感があるんだよね。前のnoteにプレイリストのことを書いたけど、Sports Teamにはこのバンドのこの曲最高だよなっていうリスナー感覚が常にあってそれが共感を呼んでいるんだと思う。それこそWhatsAppのコミュニティみたいなのもあって、Twitterやインスタを使っての交流を通して俺たちの仲間がバンドをやっている感が生まれたんじゃないかってそんな気がする。

だってさ、Potteryの新曲最高だよね?ってツイートに即座にハートマークを飛ばすバンドが他にいる?自分が関わっているバンドでもないのに。Sports Teamはこういう共感の示しかたが本当にうまくてだから俺たちのバンドだって感じになるんだよね(誠実だって言ってもいいのかもしれない)。いわゆるウインドミル系のバンドとは違うんだけど音源が出る前から「black midiのライブ見に行ったんだけどドラムヤバいよな?」とか「Sorryは本当に最高、わかってる」とかそんな感じのことをつぶやいていたりしていて、距離間がファンのそれと同じだったから共感を生んだんじゃないかって。Shame, Goat Girl, Sorry, HMLTD 上記の引用したツイートでto’morrow musicさんがあげてたバンドが形成していたシーン(ウインドミルのシーン)からは少し距離があってファン目線で色々意見を言えたからこそ、俺らのバンドたりえたみたいな。HMLTDとはちょっとした対立もあったりしてそういうのがまたアクセントになっているのかもしれない。

かといって完全な友達感覚かと言ったらそうでもなくてそこにはキチンと憧れが存在していて……こうやって考えてみると理想的なインディ・ファンベースが出来ていたんじゃないかって思う。So Young Magazineやウインドミルという場所がバンドとバンド、バンドとファンを結びつけて、Sports Teamはそこから一歩進んでバンドとファン、そしてファンとファンとを結びつけるコミュニティを作ることを目指してそれに成功したんじゃないかと思う。

それに加えてバンドと一緒に成長してきたって達成感がどこかにあるのかもしれない。Sports Teamを語るエピソードで必ず出てくるのがTwitterのフォロワー数が300かそこらの時にキャパが800のScalaでのライブをやるって発表した時のこれ。この規模の会場でライブをやるのはバンドにとって大きな賭けで、悲壮感とか必死さが漂ってしまいそうなところを「Sports TeamのフォロワーはScalaより少ないよ」ってジョークのツイートに乗っかってバンドの挑戦をユーモアにあふれるファンと一緒のイベントにしてしまった。

で、3ヶ月後にキャパを上回って見事にScalaをソールドアウトさせた。そりゃ達成感あるし連帯感みたいなものも生まれるよね。実際自分もなんにもしてなくてもやったぜ!って感じになったもん。TVとか雑誌の企画を見ているみたいな感じで。

そしてその年の年末にはキャパ1500人のElectric Ballroomで第二弾をやった 笑

こういうところがSports Teamのうまさであって良さでもある。自分たちの活動を人ごとにさせないでファンや周りを巻き込んだユーモアあふれるイベントにしてしまいみんなで楽しもうぜってそういう空気を作りだす。

今回のチャートバトルもまさにそうで、今にして思えばリリースを急遽1週早めたのもプレオーダーとかである程度の手応えを掴んでこれは勝負になるなと判断したからだって感じもするし。そうやって戦略をきちんと立てて臨んだ結果が今回の盛り上がりとチャート2位なんだから本当に凄いよ。よく考えなくてもレディ・ガガは何にも関係ないってわかるのにいつの間にか良きライバルみたいな雰囲気になっているし 笑 こういうのを自覚的にやれるっていうのがSports Teamの凄さ。

こういうインディ的、草の根運動的なやり方をしておきながらメジャーから出すっていうのがまた凄いよね。普通に考えたら裏切り行為だって思われたりするわけじゃん。HMLTDディスってたけど一緒じゃん、ソニーはダメでユニバーサルならOKなのかよ?みたいな。でもそんな感じにはなってない。

こういう部分を考えるとやっぱり自分たちでレーベルを運営しているっていうのが大きいんだろうなって答えに辿り着く。そのレーベル、Holm FrontでUglyやWalt DiscoみたいなバンドをリリースすることがSports Teamの立ち位置や姿勢を示すこの上ないステイトメントになっている。なぜならUglyもWalt Discoも本当に最高だから。

Oliはいつでもいい笑顔。

レーベルを始めたのはギターミュージックを再びクールなものにするためだって上のツイートのDIYのインタビューで言っていたんだけど、こんな感じで後輩バンドを引っ張り上げてシーンを形成しようとしているのを見るとマジで言っているんだなっていうのがわかるから、だからメジャーから出すことが裏切り行為だなんて思わない。「OK、それならメジャーでリリースしてどんどん売れるべき。そしてHolm Frontで自分たちがいいと思ったバンドをどんどんリリースするべき」そんな感じの気分にだってなる。それはたぶんHolm FrontがいままでリリースしてきたバンドやSports Teamが毎週更新しているプレイリストから来る信頼でそうなっているんだろうな。なんか地域を活性化させる地元企業のありかたみたいな話になっているけど(世界を目指す地域密着型バンド)、Sports Teamに対する信頼と共感は確かにあって、それがやっぱりSports Teamを「俺たちのバンド」たらしめているような感じがするんだよね。

で、そうして出たのがこのアルバム Deep Down Happy。セールス的な話にもう一回戻ると、こういう共感を軸にしたファンベースに加えてアルバムのブリットポップを彷彿させるサウンドがリアルにブリットポップを経験した世代にも届いたんじゃないかってそんな気もしている。盛り上がっているから聞いてみたけどいいじゃんこれってそういう相乗効果も出たんじゃないかって。

何にせよこのSports Teamの成功はめっちゃ嬉しい。




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