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イマーシブシアターの構造比較

コロナ禍でなかなかイベントができなかった反動もあって、昨年から数々の名作イマーシブシアターが生まれました。特にこの夏上演された「RANDOM18」はとても評価も高く、その原因のひとつに、この作品の構造面がある、と僕は考えました。

この構造面を、昨年に上演された各作品をサンプルに比較すると、面白いのでは、そして、この界隈はなかなかネタバレもありこういった情報が蓄積されないので、今のうちにまとめて残しておこうと思った、というのがこのnoteの主旨です。

ただ、この比較分析はあくまで構造面の分析、特にどう物語を進行し観客に理解してもらうか、の仕組みの話でしかないので、これでイマーシブシアターとしての優劣や面白さが決定されるわけではありません。物語の面白さ、演出などとは別軸の話です。ただ、今後こういったものを作ろうとするときに、どういう手法がどう選ばれているのか、というサマリーは有益な情報になるかと思います。

そして、以下の4作品の構造の説明比較を行います。ひとまず公演は終了した作品ですが、それでも見たくない!という作品がある場合は飛ばすなりしてくださいませ。

リメンバー・ユー

リメンバー・ユー

昨年行われたego:pression第8回公演 リメンバー・ユーは日本家屋を舞台に繰り広げられた物語。個人的に、イマーシブシアターに限らず、過去の演劇体験すべてを思い出しても、最も泣いた作品です。理屈抜きの感情や郷愁がそこにはありました。

さて、リメンバー・ユーの物語にはかなり大きな仕掛けがあるのですが、それを話すと長くなるので置いておいて、進行構造自体はいたってシンプルです。基本形態といっていいでしょう。

あまり図にする意味もないのですが、今後の比較のために。

基本形態

基本形態、と書きましたが、バラバラで始まり、バラバラのまま最後まで自由に歩き回り、そして一部集合シーンがあるものの、そこで劇的な進展があるわけではなく、エンディングだけ一同が集う形式。メリットとしては自由度が高いことがあげられるでしょう。一方、デメリットとして、観客の立ち会うシーンによってはストーリーが一回では理解できない、という問題もあります。

リメンバー・ユーはノンバーバルの公演であること、物語の仕掛けが複雑、といったこともあり、かなり1回で理解するのは難しい公演になっていたのは事実かと思います。(僕自身、終わった後他の方と情報交換してやっと理解しました) おそらく、このわかりにくさ、を改善しようとして作られたのがRANDOM18だと思っていますが、それはまた最後に。

藍色飯店

藍色飯店

泊まれる演劇の新作として昨年上演された、藍色飯店。
独特の世界観、ホテル全体を包む空間演出など、また藍色飯店に戻りたい、と思った宿泊客多数。

もちろん僕自身もイマーシブシアターの中でも最も好きな作品です。難解というより、解釈が人によって分かれるところがこの作品の魅力ではないか、と思っています。

さて、その構造ですが、「ループ」形式が用いられていました。

ループあり形式

急にややこしくなりましたが、これは、序盤に観客の方々にストーリーの大枠を理解してもらうために、何度も同じ場所で同じシーンがループして演じられます。藍色飯店の場合は、それが部屋の中になっていて、中に客が入るとイベントが起き、もう一度入れば、もう一度同じイベントを見ることもできます。

これは決して藍色飯店だけの手法ではなく、意外と昔から他作品にも使われることは多い手法です。

ただ、現実的にループしてるシステムが果たしてどういうことなのか、同じシーンを2度見なければいいだけなのですが、なかなか腹に落ちにくい面があるのも確かです。

しかし、実は藍色飯店はそこを見事な設定で回避しています。この藍色飯店は、時が止まったホテルなのです。なので、時間が進まず、同じ時間を漂っている、という設定と見事に合致したシステムになっています。そして、だからこそ物語がループから離れ、そこから動き出した時、わくわくするものになっています。

Venus of TOKYO

Venus of Tokyo

説明不要な大ヒットイマーシブシアター。場所の力、DAZZLEの培ってきたダンス、演出力を活かし、数々のリピーター客を生んだ公演。
僕も2回目に参加して、なるほど、と気づいた部分がたくさんありました。

その形式はチュートリアルツアーというものです。

チュートリアルツアー形式

Venus of TOKYO はチュートリアル(ツアー)を導入し、序盤部分、ループにしながらも、そこで観客をチームにわけ、時間差でまわらせることによって、ループに気づかせず、スムーズに導入で見せたいシーンを体験させることに成功しています。

正直1回目参加した時は、これはどこのグループかで物語違うのかなー、と思っていたのですが、2回目別グループになったのに同じシーンを見たことに驚きました。とても自然にこのツアーで他のグループと会わないようにデザインされています。

藍色飯店は物語でループの問題を解決し、Venus of TOKYOはシステムでループを気づかせないようにスマートに解決。全く違うベクトルでの解決が対照的だな、と感じました。

RANDOM18

さて、本題のRANDOM18 ego:pression の第9回公演になります。ストーリーとしても舞台は違えどリメンバー・ユー同様、人の想い、その温もりの伝わる物語でした。そしてリメンバー・ユーと同様に物語には仕掛けも。

さて、その構造を見ていきましょう。
一番のポイントは、みんなに見せたいストーリー転換シーンを、分割した、というところになります。

分割共通イベント方式

分割共通イベント方式、とイケてないネーミングですがご容赦ください。基本的な流れは、リメンバー・ユー同様、基本形態、なのです。

ただし何が違うのか。区切り区切りで、「同じタイミング」かつ「別の場所」で物語の進行がそれぞれ語られるシーンがあるのです。(上記で共通1Aとか書いてあるのがそれ)

たとえば。途中で感染症が発症するシーン、これは全員が集まってなくても、それぞれの場所で異変にきづく。これが複数の場所で同時多発的に起きるので、必ず誰かのところで全観客がその「あ、感染症が発症したんだな」と理解できるように気づける。

また、他のシェルターと連絡を取れるシーン。実はこれも分割されており、あるグループは海外のシェルターと、あるグループは国内のシェルターと連絡をとります。それによって、「外部のシェルターと連絡がつながった!」という事実だけは全員の共通認識になった上でエンディングに向かいます。

なので、全員を一か所に集めて1つのイベントを見せるのでなく、複数の場所で同時多発で同じ事実を伝えるための別のイベントを見せる。これは本当にお見事な手法でした。

これによって、RANDOM18は難解なイマーシブシアターの中でも「1回目でもなんとなく何が起きたか理解できる」という条件を達成できています。これは簡単なようで自由回遊のイマーシブシアターでは難しいことです。

以上が、この4作品の比較、特にRANDOM18の構造の特徴を述べたものにな
ります。おそらく、2年以上前にイマーシブシアターを見た人は、一回ではよくわからん、という感想をもった方が多いのでは、と思っています。ただ、ここ1年で、劇的にイマーシブシアターは、1回でおおよそを理解してもらいつつ、そして2回目も見たくなる、仕掛けを手に入れました。

これからもまだまだイマーシブシアターは面白くなると思っています。その時に、こういった構造の考察が、少しでも楽しみ方や、もしくは作る側の一助になれば、そう願っています。

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