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新刊発売‼︎「いそがばまわれ」

障がい福祉NPO法人「ブラフアート」と一緒に『いそがばまわれ』という本を作りました。もう、タイトルそのまんまの一冊です。
初っ端から小社の新刊を卑下するつもりはないのですが、もしかしたら、最初は何を読まされているのかわからないかも…。でも、ぜひそこから読み解いてほしいのです。この一冊がある意味を。
今回は、私自身がその意味を理解するのに随分遠回りをしました、という話をします。いそがばまわれ、風に。

まちづくり×障がい福祉法人の本??

制作のきっかけは、ブラフアート理事長の岩原さんが「ブラフアートと関わりのあるたくさんのまちの人たちを紹介する本を作りたい」と相談に訪れてくれたことでした。
企画を聞き取った時のノートを見返すと「まちづくりの本×ブラフアートの作り方」とメモを残しています。浅はかな私は短絡的に、ブラフアートを利用する障がいのある人たちが、まちの人たちとどんなふうに関わっているのか。その活動がまちの中でどれだけ多様に在るのか、地域の中で活動する障がい福祉の実践を紹介する本になるのかな、と勝手に納得して趣旨に賛同し(←まったく趣旨を理解していなかった!)プロジェクトを進めることにしました。

「黒子的存在でいたい」という著者の真意

ところが、大体の原稿が出揃ったと聞いて読みかけると、想像とは違うものでした。本当に普通の、まちの人たちの話が文字に起こされていたのです。立派な賞を取ったことがある、とか、全国的にも注目されてて、とかでもなくて、普通のまち人たちが生活の悩みや生きがい、暮らしを語っていました。
しかも、そのなかにブラフアートの影がまったく出てこないんです。
正直私はひるみました。一体なんの本を作っているんだっけ? なんのためにこの本を作るんだろう?
たしかにそれぞれ興味を引くお話だけど、大津という田舎都市の一般人の語りを、全国に流通させることにどんな意味があるんだろう…
販売できるものになるのだろうかという不安がよぎりました。
その不安を飲み込んで、私は岩原さんに「このままでは、なぜブラフアートがこの人たちを紹介したいのかわからない。読者が置いてきぼりになってしまう」「そもそも著者であるブラフアートは何者なのか」「この人たちとブラフアートはどんなつながりがあるのか」
もっと明確にわかりやすく、言葉を補ってほしいと伝えました。
すると、岩原さんは「あまりブラフアートを前に出したくない。黒子的存在でいたい」と言います。私はますます混乱しました。
ではなぜ本をつくるの?
真意が測りかねず、見えない出口を探すような気持ちでした。
必死にもがく私の意思を尊重してくれた岩原さんは、ブラフアートとまちの人たちの繋がりを必要最低限で明らかにしながら、ブラフアートが何者なのかを書き加えてくれました。


究極の「わからない」との遭遇

制作終盤を迎え、形は見えてきたものの、「なぜブラフアートがこの本を作っているのか」という要の部分が腑に落ちない私は、とうとう究極の「わからない」に遭遇したのです。
それは、『まともがゆれる』(朝日出版)著者で、京都の障がい福祉法人「スウィング」理事長の木ノ戸昌幸さんの章(最終章)でした。
(この紹介の仕方も木ノ戸さんはきっと納得しないだろうなあ)
とにかく、木ノ戸さんのインタビューの初稿は、この人が何者で、何をやっているのか、初見の人間にはまったくわからないんです。
こりゃだめだ、読者はついていけないぞ、と頭を抱えた私は、岩原さんと3人で聞き取りをする機会を設けてもらうことにしました。(本書で私が直接話をお伺いしたのは木ノ戸さんだけでした)
そこで「スウィングってどんな団体でなにをしているところですか」と尋ねます。でも、その答えが返ってこないんです。質問の仕方を変えて尋ねてみても返ってこない。
私があちらからこちらから聞くのに、木ノ戸さんは「説明ができない。そうであることを大事にしている」「無理矢理言葉をこしらえて、通じる言葉に変換して伝えることはできるけど、しないで済むならしたくない」と言います。話を聞いている岩原さんは何度も深く頷いています。
一方、私は???ばっかり。
「説明したくないのはなぜでしょう?」と正直に聞いてみました。
すると、木ノ戸さんが持つ「あらゆることをカテゴライズして、簡単にしていく風潮に対する違和感」をとても丁寧に、例をあげながら、わかりやすい言葉で教えてくれました。カテゴライズして簡単にすることが差別や偏見を助長してきたこと……。
木ノ戸さんの話を聞きながら、私が岩原さんやブラフアートとこの本を、正にどうカテゴライズしようかと企て、どれだけわかりやすく(簡単に)伝えようと心血を注いでいるかということの罪、に気づかせられてしまいました。木ノ戸さんは、「普通」であることの素晴らしさも語ります。
話を聞きながら、私は自分の浅はかさが恥ずかしくて、どんどん小さくなりました。そうして、ようやくブラフアートがこの本を通して伝えたかったことにたどり着いたのです。本当に、いそがばまわれ。
理解が追い付かずに好き勝手いう私を、責めることも、問いただすこともなく「待って」くださった岩原さんはじめ、ブラフアートの皆さんに心から感謝申し上げます。

ブラフアートが本書で成し遂げた糸賀思想の実践

滋賀県の福祉法人には、障がい児や戦争孤児を支援し「この子らを世の光に」と掲げた日本社会福祉の父と言われる糸賀一雄の思想が脈々と息づいています。そこにあるだけで輝くいのち。

この本にはその精神がしっかりと受け継がれています。
ひとりひとりの人生はとても魅力的で、愛おしい。
そんなひとりの魅力が輝けば、またひとつ、そのまちは輝きが増す。
ブラフアートは、まさに福祉の実践をこの本でやり遂げました。
「まちをつくるのはだれだ?」
ぜひ、みなさんもこのナゾとじっくり向き合ってみてください。


能美舎の新刊
「いそがばまわれ〜社会を楽しくするのが福祉のミッションだろ?〜」
6月発売です!

https://noubisha.thebase.in/items/44348807

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