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美容室、いつトイレに行くべきか。

三度の飯よりトイレが近い。美容室でカラーとカットをすると90〜120分。パーマでもしようものなら3時間コースになる。そんな時一番困るのが、トイレ問題。

何を隠そう、私はトイレが近い。自他共に認める、おトイレレディーなのだ。

「「おしっこの悩みに!」っていうCMの商品あるじゃん、試したら?」と、家族には言われるし、友人5人で富士山に登山した時なんか、「あなたが度々トイレ休憩したおかげで、私たちも無理なく休憩できたよ!」と、褒められた(皮肉だったかも)。
外出すれば、潜入スパイが習慣的に退路を確保する如く「トイレはどこにあるかな」と無意識に確認するし、子供と公園に行く予定があるときは食後のコーヒーを我慢する。都会へ行く際には、並ぶ事も計算に入れてトイレのタイミングをはかる。転職活動した時は「行きたいときに自分のタイミングでトイレに行ける職種」を第一に探した。この辺、もしかしたら愛煙家の喫煙所問題と近いところがあるかもしれない。

大人用おむつのCMなどでは「トイレが気になって外出や旅行に行けない…」というお悩みはあるあるのようだが、わかる、めっちゃわかる。自分のタイミングでトイレに行けなくて、失敗してしまうということは大人にとっては行動が制限されてしまうほど大ごとである。

ここで私の頻尿自慢を披露しても仕方ないので、美容室の話に戻りたいと思う。

美容室のトイレはタイミングが難しい。
カラー剤を塗っている際にトイレに立つことは難しいし、シャンプー台に乗ってしまったら頭の水をタオルドライするまでしばらくトイレに行けない。カットしてる間も同じく。

以前は、美容師の姉が私の専属スタイリストだった。サロン到着時、シャンプーが終わった時、帰る前に、姉は「あ、トイレ行くよね?」と聞いてくれた。頻尿の妹に対する配慮のかたまり。お姉ちゃん愛してる。
もちろん私は、カット&カラー2時間のコースの場合、平均2回ほどトイレに行ってた。

しかし姉は、結婚相手が転勤するからと、100キロも離れた遠方へ行ってしまった。悲しいことだ。
私は、これからどの美容室を利用したらいいんだ。と、途方に暮れることになる。

そして私の美容室ジプシーは始まり、それは「トイレに行ってもいいですか問題」と向き合うことを意味したのだ。

美容室探しは楽しかった。インスタグラムで素敵なヘアスタイルを探し、その美容師さんを指名しに行った。ワクワクウキウキの美容室だ。

ところが。
インスタに強い美容師、男性が多いのなんで。
もう少し言い直すと、私が好みのヘアスタイルを投稿してるスタイリストさんは、「ロン毛の30代男性スタイリスト」が多かった。
数回の経験だけで語るが、正直、私は男性のスタイリストさんとなんとなく合わない。だって「おキレイですよ!お子さんいらっしゃるように見えないですね!わぁー旦那様、本当に羨ましい!」こういうお世辞方向のトークがまず苦手。変に気を遣ってしまったり、謙遜しなきゃいけない気持ちに、私が勝手になってしまう。もちろん向こうはただの仕事なんだけど。
まあそれもそれだし、本音としては男性スタイリストに対し、「先生!トイレ行きたいです!」ってなんとなく言いにくい気まずい。いや、ヒトとしての生理現象なんだし別に言ったってもちろん良いのだけど「あのお客様、3回もトイレ行くのか」と思わせてしまうのもなんだか。
そして私自身、「相手が異性だからって…言いたい事も言えない、こんな気弱な私じゃ!?」とちょっと自分にがっかりしてみたり。

だいたい、美容室に行く時ってなぜか生理もかぶってしまったりするんだ。ほんとこれ、なぜよりによって生理、今。

もしもパーマで予約したら3時間も、ずーーーっと座りっぱなしの美容室。
「お荷物全て預かりま〜す!あ、携帯は持ってていいですよ♡」という、生理ポーチすらも持ち込めないノーガードな状態で、美容室で生理きついなほんと。
しかも、シャンプーの際は背もたれを倒し、寝る状態になるのだが、その時に後ろから経血が漏れたりしたら…!もっ…!切腹したいくらい恥ずかしいではないか…!

こんな非常事態が、もし起こってしまったとしたら、女性のスタイリストさんのほうがまだマシだな…ととある生理の日に思った。見られてしまったら、切腹したいほど恥ずかしい。それは相手が男性でも女性でも同じではあるのだが。
最後にフォローしておくと、男性の美容師さんがイヤ!というわけではなく、なんとなく女性だとホッとする、くらいの感覚です。あくまで私は。そのくらいは許して頂きたい。

美容室のトイレ問題について、話をもう一度戻したい。

おトイレレディーな私。結構な大人になってから一度、大変な思いをした事があるのだ。

あれは、はじめて行く美容室だった。カラー中に、ちょっとトイレに行きたくなってきた。

(でもカラー中は離席するのは難しいよな…シャンプー終わったらトイレに行きたいと言おうかな…)と思い、「絶対に気を抜いてはいけない数十分」がスタート。

なんということでしょう。

カラーって、染まるまでに少し時間を置くのであった。

放置時間にもトイレにどんどん行きたくなってくる。

スタイリストさんの「そろそろ時間いいかな。じゃあシャンプーいきまーす」の声に私は(や、やった!もうすぐトイレに行ける…!シャンプーが終われば…!)と迫りくる尿意を必死で抑えた。

シャンプー台へ歩きながら、(もう少し、もう少しで夜が明けるからな!)と膀胱に言い聞かせた。というか、なんで、私の膀胱はこんなに溜める気がないんだ、困った子だよ。

シャンプーは別のアシスタントの方が担当してくれ、それはそれは丁寧にシャンプーしてくれた。楽しいトークもしてくれるのだが、私の頭はトイレでいっぱい。(いつ、トイレのこと言い出そう…というか、シャンプー長くね?これは、もしかしたらもしかするぞ?)

内心焦る私をよそに、「得意な料理とかあります〜?自分は角煮とか。お客さんに教えていただいたのもあるんです〜超簡単ですよ!」と軽快で無難でアシスタントらしい素晴らしいトーク!

しかし私は!クライマックスをむかえようとするゴールドスプラッシュをもう、無視できるレベルではなくなっていた。(頼む!骨盤底筋!私の膀胱!尿を通しては、絶対にならぬ!!)という心の声に集中しており、角煮に関してはへらへらとした相槌をうっていた。そしてなかなかシャンプーは終わる気配がない。


もうダメだ。

そう思った私は、シャンプーの真っ最中に勇気を出して「あのぅ…トイレに…行きたいんですけど…」と声を絞る。
「えっ!あっ、ハイ!わかりました!トリートメントだけやっちゃいますね!」

ウソだろ…?

(終わった…伝わらなかった…トリートメントやるのか、これから…)

私は「尊厳を保てないかもしれない」という覚悟をしつつ、無言でアシスタント氏の丁寧なトリートメントを受けた。
もう、無心だった。心は宇宙に飛んでいった。角煮はブラックホールに吸い込ませた。
空想の宇宙を漂いつつ、私は考えた。

(もしシャンプー台で私が粗相したとして、誰が拭くのか。私は一体、何を着て帰り、どんなツラを下げて支払いするのか…。水洗いだけ、させてもらってそのまま着るか…?シャンプー台、きっと防水仕様だから弁償請求されないといいなぁ。
ハッ!そうだ!生き恥を晒しながらシャンプー台を汚してあらゆるご迷惑をおかけするよりは…。
トリートメント中でも飛び起きて、トイレに駆け込んだ方がいいのでは?)

(トイレに今行くのは一瞬の恥、行かぬは一生の恥。じゃあいつ行くの?今でしょ!?!?)

と、そこまで考えたところで、ゆすぎがはじまり、無事トリートメントが終わり、トイレに行けた。

尿よ、もう通ってよいぞ。良かった。
わが尊厳を守れた。
ただ、角煮アシスタントの得意料理は、生涯忘れることないでしょう。辞書によると、その気持ちは、逆恨みというそうです。アシスタントさん、何も悪くない。

そしてこの事件があってから、私は決めた。
「美容室では、必ず1回以上トイレに行く」と。
決めておけば、なんてことはないのだ。
美容室に着いた時点で、必ずお手洗いをお借りする。
もう、儀式みたいなもんだ。
むしろ、「え?こちらのサロンでは施術前にトイレ行かないザマスの?アタクシは行かせていただくザマス」という気概で。
もし尿意を感じてから、カラーが長かったら命取りだ。宇宙までトリップした、あの過ちを繰り返すわけには行かない。角煮め。
トリートメントが終わるまでトイレをガマンなどしたら、下半身の堤防が決壊してしまう恐れがある。

そうして私は、美容室到着時に必ずお手洗いをお借りして、生理の時はシャンプー後もお借りして、カラー中にお茶やコーヒーをいただいた時は、お会計前にもトイレをお借りすることを、自分に課した。

たまに悪魔が心でささやく。

「駅のトイレまで、我慢できるだろう」

ダメ、絶対。

自分の膀胱を過信してはいけないのだ。

当然、美容室側もトイレは快く貸してくださる。あるサロンでシャンプー後に、「お化粧室お借りしてもいいですか?」と聞いたときに「もちろんです♡」と笑顔のアシスタントさんは天使のように感じた。

また別のサロンにはじめて行った際、席へ案内する前に「お手洗い行かれますか〜?」と聞いてくれる美容室があり、(キ、キミに決めたーー!)と、ヘアの仕上がりを見るよりも前に、トイレへの行きやすさだけでリピートを決めた事もあった。
ちなみに「お手洗い大丈夫ですか?」ではなく、「行かれますか?」という聞き方に配慮を感じ、おトイレレディー的高ポイントをひそかに付与。もし「大丈夫ですか?」と聞かれようものなら人は「大丈夫です!キリッ」と言ってしまうものなのだ。全然大丈夫じゃないのに。

と、ここまで書いたところで遠くへ行ってしまった姉に、美容室でのトイレの振る舞いについて、聞いてみた。


姉曰く、「カラーとシャンプー中は、トイレはちょっと難しいかな。生理の時は、美容室ついてすぐ、もしくはお会計が終わってから行く人は多いよ。お会計後なら荷物持って行けるしね。なんにしても、美容室でトイレって言いにくいよね」とのことだった。

そう、美容室に行くときは「必ずトイレにいくぞ!」という気合が必要で、私にとっては結構大ごとなのだ。

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