見出し画像

社長通信vol.51 桜と共に、戦友逝く。

2021年3月末。ようやく桜が咲き始めたと思ったら、あいにく雨の週末。

「儚さこそが桜の良いところ」だと言うのはわかるけれど、それでも、もう少し長く綺麗な姿を見せてくれたら…と思うのも人情。

そんな日曜日の朝、休職中だった三星ケミカルの統括工場長Kさんが、闘病の末、昨晩亡くなったと訃報を受けました。

まだ50代半ば。あまりに早すぎる死。

最初の戦友

Kさんとの最初の記憶は、三星グループに入社してすぐの経営会議の場でした。

リーマンショックの直後で、Kさんが担当していた三星ケミカル第二工場が赤字に陥り、値上げできなければ撤退も…という死活問題がテーマ。

しかし、そんな重要な内容にも関わらず、当時の社長(私の父)以外は誰も意見を活発に出さず、遅々として進まない議論に業を煮やした私は、まだ入社間もないにも関わらず怒声を放ちました。

「経営メンバーがこんな意識で、会社を存続できると思っているのか!!」

Kさんの目からスゥーッと涙が落ち、

「これまで、自分の役割は物を作ることだけだと考えていました。改めます。」

と、話してくれました。

その後、文字通り二人三脚でゼロからロジックを考え、丁寧にデータを集め、全ての資料を作り直しました。結果、当初難航していた値上げ交渉は、最終的には満額OKとなりました。

思えばあれが、東京から帰ってきて早々に「変化!!」と息巻き、まだまだ社内に理解者が多くなかった私に、最初の戦友ができた瞬間でした。

画像1

経営者としての矜持を保ってくれた

その後、三星ケミカルはリーマン・ショックから順調に回復。そんな中、信頼していた第一工場長が退職することに。理由は「違う環境で自分を試したい」とのこと。こういう理由での転職は止めづらいもの…可能性を感じさせられなかった自分を責めるしかありませんでした。

しかし、そこで立ち止まることはできません。まずは新しい体制作り。Kさんに、第二工場に加えて第一工場も管理して欲しいと頼みました。でも、彼は固辞しました。なんなら辞めるくらいの勢いで。Kさんまで辞めたら泣き面に蜂。でも、彼以外に頼れる人間はいません。最後に根負けしたのはKさんの方でした。

新体制はそれなりに順調にスタートしたのですが、その後、三星ケミカルを揺るがす大問題が発覚したのです。信頼していた前工場長が、お客様からの信頼を損なうある問題を隠蔽していたのです!

これに気づいた私とKさん。会議室には一瞬、「自分たちさえ黙っていれば、この問題は誰も気づかず過ぎていくんじゃないか?」という空気が流れました。結局、その日は結論が出ないまま、会議は終了しました。

翌日、Kさんは突然休暇をとりました。私は、「この問題に真正面から向き合わなければ、Kさんはもう会社に来なくなるかもしれない。」と感じました。私はすぐにお客様に直接電話して問題を公表し、解決に向けて真摯に動くことを決めました。翌日、Kさんは出社し、また目に涙を浮かべながら「一緒に頑張りましょう。」と言ってくれました。

ギリギリのところで、私の経営者としての矜持を、彼が保ってくれたのです。

画像4

交通事故の時も共に

上記の問題も解決し、次のチャレンジに向けて慌ただしかった2019年の秋。久しぶりにKさんと二人で飲みに行きました。会社からほど近い居酒屋。Kさんは酒豪だけれど、飲むのはビールのみ。彼は車が好きで、若い頃はバイクで日本中を旅したそうです。三星に入社する前に、親の創業したカメラ屋を継いで、試行錯誤の末に廃業したことも話してくれました。これからは次の世代が重要だと、若手をどんな風に育成し、どんな風にチャンスを与えていくべきかを話し合いました。

楽しかった飲み会も終わり、お店に頼んだ運転代行がやってきました。代行ドライバーが思ったより年寄り(後から聞いたら70歳オーバー!)だったので、Kさんと「大丈夫かなぁ。」と笑いあったのを覚えています。Kさんは車が見えなくなるまで見送ってくれていた…ら、駐車場から出た瞬間に、私の車が直進する車にぶつかったのです。

Kさんは飛んできて、警察を呼んで、運転代行の社長も呼んで、最後まで共にいてくれました。「この人は、大事な人なんだぞ!」と怒ってくれました。

ここまで書いていたら、なんだか泣けてきました。そろそろ筆を置こうと思います。

画像2

自分が大変な時も、最後まで会社を心配してくれていた

2020年の夏、Kさんが病いに侵されていることが分かりました。

薬を使った治療で辛いだろうに、ずっと会社のことを心配して、メッセージをくれたり、調子の良い時は電話をくれることもありました。

最後までどのように復帰するかを考えてくれていました。今年の年始も「一日でも早く復帰出来る様頑張ります。社長には、感謝、お礼申し上げます。」とメッセージをくれました。改めて、会社は、一人ひとりの社員の想いでできているんだと思います。Kさんの想いを胸に、私たちは前を向いて頑張るしかありません。

Kさん、本当にお疲れ様でした。今はただ、満開の桜と共に安らかに眠ってください。

画像3








この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?