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「きっかけは屋台との出会いでした」──SPBS本店店長が本屋の世界に入るまで

学生時代は他者の人生を追体験することに興味があったと話す、SPBS本店店長・黒澤雄大さん。子どもの頃に読んでいた本、本と街を軸としたコミュニティースペース・国立本店との出会い、本の世界に足を踏み込むきっかけを訊きました。今年、13周年を迎えたSPBS本店の店長インタビューシリーズ第1弾。

──初めて本を読んだ記憶を教えてください。
黒澤:能動的な読書体験は小学生の頃、伝記でした。小学校の図書館で読んだり、母に買ってもらったり。僕、当時発明家になりたかったんです。それでエジソンに興味を持って、伝記を読みはじめました。

──発明家になりたかったんですか?
黒澤:はい(笑)。エジソンの伝記を読んだことをきっかけに、アインシュタインやファーブルなど学者の伝記をはじめ、ウォルト・ディズニー、手塚治虫など、図書館の書棚に並んでいて惹かれた人物の伝記を読むようになりました。小学生の頃は発明家だけでなく、いろんなものになりたかったので、人の人生を追体験できる伝記を読むことが面白かったんだと思います。

──外に出て遊ぶより、本を読んだりすることが多かった?
黒澤:外に出てもスポーツではなく散歩をするのが好きでした。学校では人が少ない隅の方で友だちと静かに過ごすタイプ。用務員のおじさんとも仲が良くて、お昼を一緒に食べたことを覚えています。中学・高校は電車で通っていたので、通学の時間に本を読むようになりました。

──他にはどんな夢を持ちましたか?
黒澤:僕、夢が多くて。最初はカーレーサーでした。そのあと発明家、漫画家、宇宙飛行士……。地に足がつかなかったですね(笑)。でもとにかくいろんなものに憧れたんです。好奇心が強かったのかもしれません。

大学時代には、アルバイトもいくつか経験しました。塾の講師のアルバイトや、イタリア料理店のウェイター、留学体験を記事にするライター、地元の野菜を小売店に届ける運転手などなど。

そういえば塾の講師時代、塾長の息子さんに対して漫画の面白さを熱く語ったことがあったのですが、彼の家庭では「漫画は読んではいけない」という教育方針だったらしく、後々微妙に塾長さんが僕に冷たくなったのは、それが原因ではないかと思っています(笑)。

──本屋に興味を持ったのはいつ頃でしょうか?
黒澤:大学で文学部に所属してはいたのですが、本が好きだからというよりはなんとなくで決めました。4年間を過ごすうちに就職活動の期間がスタートして、特に明確な夢もなかったので、業種関係なくピンと来た企業を受けていました。

当然就職先はなかなか決まらず、結局、就職活動は途中で辞めて、そもそも自分は何がやりたいのだろうということを改めて考えてみることにしました。結果、「お店をやりたい」、「文章を書きたい」、それともうひとつ「本に関わる仕事につきたい」ということが浮かんできました。

──ここで本ですね。
黒澤:はい。自分の好きなことを突き詰めると、やはり「本」「言葉」ではないかと思ったんです。それで、自分なりに本に関わる仕事を探すなかで出会ったのが国立本店でした。国立本店は、“ほんとまち”が好きな人たちが集まって運営している有志のコミュニティスペースで、当時は年に1度だけメンバーを募集していました。

ある日偶然、Facebookのタイムラインに流れてきた「国立本店メンバー募集」という投稿が目に止まって。“本を読んだり、話をしたり、誰でも気軽に立ち寄れる街の居場所”という不思議なコンセプトが気になり、実際に行ってみて簡単な説明を受けたらますます興味が出てきたので、すぐに参加を決めました。参加してみると、本や街が好きな人たちが年齢も経歴も関係なく一緒になって、自分の好きなテーマでフリーペーパーをつくったり、イベントを開催していたり、想像していたよりもずっと自由で居心地のいい空間で、結局3年ほど参加していました。

僕が今やっている本屋YATAI BOOKS」も、国立本店で屋台を使って移動式の図書館をやっていたことがきっかけではじまったんです。

──屋台について詳しく聞かせてください。
黒澤:国立で組み立て式の屋台を使って、たい焼き屋さんを営んでいた方が譲ってくださった屋台が、国立本店に元々あって。すぐには使い道がなくバックヤードに眠ったままになっていたのですが、僕が参加して約1年経ってから、せっかくだから屋台を使って何かしようということで、僕を含めた国立本店のメンバー数人でその屋台に本を並べて、その場で本が読めるようにしたんです。

屋台を出していると通行人が興味を持ってくれて、自然と会話が生まれました。最初はただ単にいろいろな人と会話をすること自体が楽しかったのですが、徐々に本を売ることにも興味が出てきて。「あひるの家」という、国立で有機野菜を販売しているお店に相談して、軒先に屋台を出して本を売らせてもらうことになり、そこで初めて本を売るという経験をしました。

それが移動式本屋「YATAI BOOKS」のはじまりです。

(つづく)

SPBS本店店長 黒澤雄大(くろさわ・ゆうだい)さん
1993年生まれ。兵庫県出身。2016年に国立本店・ほんとまち編集室 6期のメンバーとして加入。2017 年にYATAI BOOKSをスタート。大学卒業後、SPBS本店にアルバイトスタッフとして入社。2020年より店長を務める。

▽第2弾はこちら



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