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おかえりモネ -よいドラマだったとは思うけど、視聴率が奮わなかったのも理解できる-

欲しいものは欲しいと云え

「おかえりモネ」が、無事最終回を迎えました。
でも視聴率は苦戦したようですね?
基本、オリジナル(モデルとなる人物がいない)で現代を舞台にすると、
・若い女性が主人公
だけども、
・メイン視聴者は、必ずしも若い女性ではない
ということで、ある程度年齢が上の人からは、「共感できる孫キャラ」が求められるのだけれども、若い層からすると、「朝ドラ的良い子ちゃん」が、どうにもリアリティを感じられず、馴染めない、嘘くさいとなって、うまーく世間に向かってウネリのようなものが生み出せない気がします。

ここ最近、オリジナル現代モノで話題になったのは、「半分、青い。」と「あまちゃん」かな?
どっちとも、ぶっ飛んだ展開がウリで、特に「半分、青い。」の豪快な起伏は、個人的には「笑える」という感じでしたが・・・・・。

対して、「おかえりモネ」ですが、派手さのない主人公。
震災時、島におらず、無力だった自分を許せない。

彼女の行動原理、
・過去と結びついた島を出たい
・気象予報士になって、人を助けたい
といった背景には、「無力だった自分」がいるのだけれども、非常に分かり易く「私、傷ついているんです!」といった表現があるわけじゃなくて(かと言って対象が幅広い朝ドラなので、分かり難いわけでもないですが)、あくまでも、物語の進展に合わせて、主人公の内面が徐々に理解できていくという流れでした。

が、しかし。
こういうまどろっこしい展開は、ご年配の方(私の個人的な範囲での見聞ですが)には、どうも「ウケ」が、よくない。

欲しいものは欲しいと云え
総てかなぐり捨てても惚れた彼女を落とせ
(一世風靡セピア 魁!男塾OP「汚れちまった悲しみに・・・」)

繊細な心の動きをなんてものよりも、もっとド直球な表現の方が、「ウケ」はいいですよね・・・・。

そもそも朝ドラは、主婦が家事をしながらでも(音声だけでも)理解できる物語が目指されていたわけで(最近は、そうでもないでしょうが、それでも根底にはあるような気がします)、仕方ないんでしょうけど。

努力のあと

「地方が舞台のドラマだから」ということで、これ見よがしに特産物やら方言やらを押し付けてくるのが朝ドラであり、「おかえりモネ」にしても、祖父は漁師で、カキの養殖に打ち込んでいるというあたりは、「いかにも」なんですが、でも、脚本家が、ちゃんと勉強したんだろうなぁという努力のあとが見えて、そもそも、「カキの養殖である家業をどうするか?」というのは、ちゃんと話の筋に取り込まれており、そして、得てして、こういう田舎の一次産業を都会の人は、美しく描いてしまいがちだけど、現実問題として、多くのケースで、どうして後継者がいなんだ? と問われれば、やっぱり「厳しい」からで、そこらへんにも触れつつも、一応、最後には光明も差し込んでいるあたりは、バランスとしては、ちょうど良かったです。

この「努力のあと」は、島の風習や気象、林業、気象予報士、パラアスリートなどなど、随所に見られて、今作の脚本家の真摯な姿勢が垣間見えて、私個人としては、とても好印象だったのですが、しかし、その丁寧さが視聴率に結びつかないのは、こればっかりは仕方ない。

構図

物語の骨格としては、「薄幸なイケメンの幼馴染」と、「悲しい過去を抱えたイケメンの新顔」が、一人の女性(少女)を奪い合うという三角関係、さらに絡んでくる姉妹の確執という、「THE少女漫画」で、ウケる要素はてんこ盛り。

でも、「この泥棒猫が!」と髪を引っ張り合うようなことはなく、主役と医者の関係がなかなか進まなかったように、三角関係も確執も静かに静かに進んでいき、ある時、たまりにたまった感情が一気に噴き出てくるという感じで、「正しいんだけど(好きだけど)、地味だなー」という感じ。

もっと派手にしたら、視聴率も稼げたのでしょうけど、製作者側(脚本家)は、それはしたくはなかったんでしょうね。

しかし、地味な展開が、ちゃんと積み重ねっていき、家族を中心とした、いくつかの問題・課題が、ラストに向かって収束。
主役が「震災時のトラウマから島を出て、それを乗り越えて戻って来た」のとは対照的に、妹は、「実は震災時のトラウマで島に縛られており、最終的には、それを乗り越えて島を出て行く(外へ学びに行く)」というオチは、とてもキレイでした。

また、旦那(パートナー)は医者で、しかも現代が舞台ですから、「コロナ、どうするんだろう?」と思っていました。
完成していたであろう(または構想していただろう)脚本に、世界的なパンデミックを組み込むのは大変だろうなぁ、でも、触れないわけにもいかないだろうけど、「とってつけた」感が出ると蛇足だろうし、と危ぶんでいましたが、二年半、会えなかった二人が会えたというラスト。

女性の生き様を描く朝ドラでは、「就職(自己実現)」「結婚」「出産」のトリニティで大団円だったりすることも多いですが、今回は、「就職」と「結婚」まで。
そんな、ぶっちゃけ保守的な傾向もある中で、ちょっとだけ新味だったのは、結婚はするけれども、一緒に暮らすわけではないという二人の決断で、おそらくは、これは、当初から製作者側は織り込んでいたと思われます。

そこに「コロナで会えない(旦那は呼吸器系の医者だしね)」という状況は、「自立した二つの個が結びついた」だから、「一緒に暮らすことだけが結婚ではない」という「新味」が、ちょうどマッチしているわけで、それは、妹と「薄幸なイケメンの幼馴染」との関係にもかぶるわけで、お見事でした。

みんな〜やってるか!

とても丁寧で好印象のドラマではあったんですが、しかし、「今作に限らず」というか、「今作はさらに」というか、主役たちは、いつごろセックスしたんだろう~と、思っちゃうよ。

最後、「おぁキレイに終わった」と感心したけど、「2年半会えなかった若い2人なのに、淡泊だなぁ」と、ちょっと思ったり。

薄幸な幼馴染から迫られるシーンは、この作品にしては珍しく、ちょっとだけ性欲の臭いがしたけど、それくらいだよね。

薄幸な幼馴染と妹にしても、「若い二人が、こんなに一緒にいたら、間違いもあるだろうに、というか妹は、待ってくるっポイぞ、だいたい、陸で女も釣れないような男が、海で魚を釣れるか?」とまでは思いませんでしたが、こんだけの美人で、性格も嫌いじゃないなら、現実なら、なるようになってしまいそうだけど、そうならないのが、「おかえりモネ」でした。

もっとも、朝ドラでは全体的にある傾向でしょうけど。(昔の少女漫画みたいに性欲を極力描かない)

「おかえりモネ」の主役と医者は、肉体を持った二人の若者が結ばれたというよりも、同じ志を持った二人の連帯という風にも見えて、そういう「頭でっかち」なところが、視聴率に反映してしまったのかなぁ~とも思ったりしますが、でも、総合的には、震災10年を経て、インフラは直っても、未だいろいろな人に残る心の傷と、その癒しを真摯に描いた良作でした。

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