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ひとの心を動かすリリースとは━━かつや鈴木さんと東京たらこスパゲティ小林さんに聞く、ファンとつながるプレスリリース活用法 #等身大の企業広報

従来はメディアやプレス向けだった「プレスリリース」が、インターネットやSNSの普及によって顧客やファンに直接届く時代になりました。だからこそ、どんな内容のプレスリリースにするか、どのタイミングでどう届けるかは、とても重要です。

見たひとの心を動かしたり、「だれかに伝えたい」と感じさせるプレスリリースにするにはどうすればよいのでしょうか。

今回の等身大の企業広報では、アークランドサービスホールディングス株式会社のブランドである「かつや」担当の鈴木恵美さんと、「東京たらこスパゲティ」担当の小林流海さんをゲストにお招きし、SNS時代のプレスリリースの在り方についてうかがいました。

プレスリリースで大事にしているのは
「WHY」と「つっこみどころ」

━━まずは鈴木さんから、アークランドサービスホールディングスの広報として目指していることについてお聞かせください。

鈴木さん アークランドサービスホールディングスは17のブランドを抱えています。私が入社した2019年当時は私1人ですべての広報業務を回していましたが、現在は私と小林さんともう1人の3人で担当しています。

私たちが取り組んでいる広報の役割は、「選ばれる企業・店にする」こと。選んでもらい、ファンになってもらうためには、まず私たちのことを知ってもらわないといけません。知らないひとにとっては私たちは存在していないのと同じなので、まずは認知度を引き上げることを重視して活動しています。その上で、知ってくれたひとがツイートしてくれたり、口頭でだれかに伝えたりというように、ひとからひとに伝わることで共感や安心感が生まれ、よりそのひとにとって身近になっていくというところを目指しています。

鈴木 恵美さん 
アークランドサービスホールディングス株式会社
社長室 広報担当マネージャー(かつや担当)

━━アークランドサービスホールディングスは「PR TIMES」を使用してプレスリリースを配信しています。月に10本程度も出されていますが、鈴木さんがプレスリリースを引き継いでから大きく変えたことはなんですか?

モデレーター:noteプロデューサー 徳力基彦さん

鈴木さん 「かつや」もからあげ専門店「からやま」も、月に1度程度新商品が出ているので、そのことを確実に出していこうということからはじめました。2019年当時は、からやまが100店舗を目指して出店が進んでいるタイミングだったこともあり、出店するたびにリリースを出していましたね。

それまではPR TIMESでプレスリリースを配信してはいたのですが、それを見てもらう入口がPR TIMESのなかと配信先のメディアのみという活用方法でした。しかし、プレスリリースを配信したらそれで終わりではなく、多くのひとに見ていただかないと出している意味がありません。そこで、まず自社サイトのお知らせのなかに文章を書くのをやめて、自社サイトからPR TIMESのプレスリリースにリンクするようにしました。その結果、弊社のPR TIMESのフォロワー数もじわじわ上がってきています。

プレスリリースで大事にしているのは、「WHY」と「つっこみどころ」。単におもしろいことを書くのではなく、それを見たひとがだれかに伝えたくなるようなリリースにすることを心がけています。

━━小林さんは鈴木さんより早く入社されていますが、広報としては鈴木さんのほうが先輩になるんですね。

小林さん そうですね。私は2018年に入社して店舗業務と商品開発を担当し、2021年に広報担当となりました。

商品部にいたころ、プレスリリースのメイン画像にあたる画像をつくる業務があったのですが、その画像がなんのために必要なのかがあまりわかっていなかったんです。でも広報担当になって、画像があるからこそ多くのひとに見てもらえるんだという発見がありました。

いまは各ブランドの広報のほか、素材集めも担当しています。商品部にいたころの経験も生きていると思います。

小林 流海さん
アークランドサービスホールディングス株式会社
社長室 広報担当(東京たらこスパゲティ担当)

どうすればひとの心を動かせるかを考える

━━鈴木さんが入社後すぐに担当されたプレスリリース「生姜からあげのタレ?」は、タイトルに「「生姜からあげだれ」かけちゃいました〜」と入っていて、目を引きます。

鈴木さん 見たひとが「何言ってるの?」と二度見するような違和感を持たせたくて。変なタイトルですけど、会社としても「まず出してみよう」ということになったんです。このリリースを配信したあと、すぐにWebメディアの方から取材の電話があり、記事になりました。

━━小林さんが担当されている東京たらこスパゲティのプレスリリース「大葉1.2倍」は、見た目のインパクトがすごいです。

小林さん 大葉を10枚つかった期間限定メニュー「大葉と南高梅のたらこスパゲティ」が想定を2倍以上も上回る販売数だったため、販売期間を延長し、南池袋店でも販売することになりました。その2点をリリースに書いていたところ、事業会社の社長がリリースの下書きを見て、「これはだれにとって何の情報になるんだろう」と。PR的な観点から、「じゃあ大葉を1.2倍にしよう」となったんです。「追いパクチー」をする方がいるように、大葉も増やしたほうが喜ぶ方もいるのではないかと。

社長はこのようにPR的な視点を持っていて、期間限定のメニューをつくる際も、おいしいだけでなくニュース性があるポイントを意識しています。

各ブランドや商品開発ともフロアが一緒なので、密にコミュニケーションをとれ、こういった変更にもすぐに対応してくれます。

━━大葉ファンのひとに向けたメニューがうまくいったから、大葉を1.2倍にしてリリースを出したらそれがまたうまくいったんですね。

一方、新しくメニューをつくった事例もあります。「大人様ランチ」はメディアにも取り上げられ、Twitterでも話題になりました。

鈴木さん かつやのメニューは、かつやの事業会社の社長と営業部長、商品本部の開発者、商品本部長とで週に1度開催している試作会の場で検討しています。大人様ランチに関しては、こういうものを盛り合わせたら喜んでもらえるんじゃないかという切り口からはじまって、見た目の彩りも大事だろうという話になり、最終的にここに行き着きました。

試作会には販促物をつくる役割の方も参加しているので、こういうメニューならこういうキャッチがいいなどとその場で出し合っています。

リリースを書いたりツイートをする上では、何が心をくすぐるのかを考えています。どうしたらこの商品のことをひとに言いたいと思うだろう、どうしたら心を動かして行動に移してもらえるだろう、と。

いい商品をつくって食べてもらいたいという想いは社内共通で持っていますね。そのためにはちゃんとひとに知ってもらわなければならないので、知ってもらうためにどうするかということをみなさん非常に大事に考えてくれています。

適切なタイミングでリリースを出すことが大事

━━効果測定はどのようにされていますか?

鈴木さん メディアに掲載された数などを重視すると目的を見失ってしまうことがあるので、会社にとって適切なタイミングできちんとリリースを出すことを大事にしています。そのための準備や計画、行動の目標を達成することが評価の基準にもなっています。具体的には、以下の5つのステップを回しています。

リリースを配信したあとはTwitterでエゴサをかけ、かつやに言及してくれているツイートがあればどんどんいいねをつけますね。

また、リリースした情報に1人が触れる回数の目標を5回以上に設定しています。プレスリリースや公式Twitter、ほかのひとの口コミ、Webメディアの記事など、さまざまな媒体をきっかけに1つの情報に5回以上触れてもらうことで、なんとか知ってもらいたいと考えています。

━━大人様ランチは、リリース配信後にWebメディアで記事化され、その後テレビでも取材されました。

鈴木さん 取材をいただいて露出する機会があったおかげでどんどん話題になり、最終的には想定の3倍以上の売上を達成しました。しかし、テレビに取り上げてもらうことを目的にリリースを出しているわけではありません。つけないと見られないテレビと比べると、生活者にとっては日頃から触れているスマホで見られるWebメディアのほうが身近だと思うんです。Webメディアがあってからのテレビだなと。

━━知ってもらうための施策をして、Webで話題になったからテレビに取り上げられて売上にもつながったんですね。

小林さんは、リリースを出す際にはどんなことを意識されていますか?

小林さん 数字を追うのではなく、届けたいひとの心が動くかどうかを起点に考えています。たとえば先ほどの大葉と南高梅のたらこスパゲティだったら、大葉好きのひとに興味を持ってもらうためにはどうすればいいかということを一生懸命考えました。

リツイート数やメディア露出数という数を追ってしまうと、どうしても話題先行になってしまいます。話題になったとしても、本来のターゲットのひとの心は動いていないかもしれないですよね。だからこそ、この商品を好きになってくれるひとの心を動かすにはどうするかを大切にしています。

聞き役になって相手との関係性をつくる

━━KPIというと通常は数字の設定ですが、おふたりはメディア露出数やリツイート数、リリースのページビュー数などのわかりやすい目標設定はあえてせず、定性的なほうに目を向けています。社内の理解を得るにはどうしていますか?

鈴木さん 社内の期待値調整は難しいですが、きちんとやっています。たとえば、SNSアカウントの運用で大切な指標はフォロワー数ではなくインプレッション数なので、フォロワー数は追いかけないということを最初から握っています。

小林さん 私は社内の他部署のひととコミュニケーションをとることを大切にしています。商品がどんなふうに出るのか、どんな想いでこのメニューをつくったのかということは、聞かないとわかりません。聞くところからコミュニケーションが生まれます。聞き続けていたら、次第に相手のほうから「次こんな商品が出るよ」と教えてくれるようになりました。

鈴木さん 相手の話を聞くことをメインにコミュニケーションをとることで、相手に協力してもらえるようになりますよね。「お願いします」とプッシュするほうから入るのではなく、まずは聞き役になることによって協力してもらえるような関係性をつくれればいいかなと思います。

━━なるほど。今日のメインタイトルはプレスリリースの活用法ですが、やっぱりひとの心を動かすためには、最終的には社内のひとを仲間にするというところがポイントなんだなと納得しました。

おふたりとも、本日は貴重なお話をありがとうございました。

▼イベントのアーカイブ動画はこちらからご覧いただけます。

登壇者プロフィール

鈴木 恵美さん 
アークランドサービスホールディングス株式会社
社長室 広報担当マネージャー(かつや担当)

1983年生まれ。食べることが好きで、学生時代に栄養士免許を取得。 新卒で入社した弁当・惣菜チェーンでは、店舗運営をはじめ能動的な広報の立ち上げと社長秘書を担う。2019年8月アークランドサービスホールディングス株式会社へ社長室・ 広報担当マネジャーとして入社。ブランドロイヤルティを高める役割として奮闘中。

小林 流海さん
アークランドサービスホールディングス株式会社
社長室 広報担当(東京たらこスパゲティ担当)

1995年生まれ。新卒でアークランドサービスホールディングス株式会社に入社。店舗業務や商品開発を経て2021年7月より広報担当に。東京たらこスパゲティやチェントペルチェント、ごちとんのブランド広報として奮闘中。2022年のテーマは、人とのつながりづくり。

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10月27日(木)13時より、オウンドメディアの「現在地」と「未来」を考える、「オウンドメディアカンファレンス」を開催いたします。企業の担当者や専門家の方々にご参加いただき、過去の課題、現在における成功のポイント、そして未来の理想像について議論します。ぜひ、オウンドメディアを前進させる一歩を一緒に踏み出しましょう。

text by 渡邊敏恵


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