#小説 記事まとめ

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【掌編】雨宿り

 快晴とまでは言えないものの、ほんの一時間前まで空は明るく、夏の陽気を湛えていたというのに、なにが気に食わなかったのか、重々しい雲を呼びこんで不機嫌になり始めた。海岸と山々に挟まれたその町は、なにより天候が崩れやすいことで知られていた。  間もなく最初の一滴が落ちてくると、少年は…

夢を食らいそして与える

「あれがバクか。まるで白いパンツをはいているみたいだな」  海陽は優奈を連れて動物園に来ていた。目の前にはマレーバクがいる。ふたりがバクの前にきたのは、動物園の入り口にこう書いてあったから。 『本日4月27日は、世界バクの日(world tapir day)です。絶滅の恐れがあるバクの保護を、世…

短編小説『君の若さに嫉妬する』

私がその騒いでいるグループの方を見ていて、気にしているのに気付いたのか、マスターが近くに来た。 「お騒がせしてすいません。この前、貴島さんに絡んでいた若者がいましたでしょう。あれから、何回かやってきて、貴島さんに会いたがっていましたよ。彼、東京に行くみたいです」 マスターと私の視…

山路を登る『草枕』は全クリエイターに読んでほしい作品だった @derami_no

おはようございます。今週、弊社ラブソルでは「私を変えた一冊」と題して、noteテーマウィークを実施中です。 わたくしデザイナーの小野寺は夏目漱石の名作『草枕』をご紹介します。 出会いは、書店ではなくPC上 それも、とあるツールの上で「山路を登りながら、こう考えた。」 皆さん、この一文、…

ショートショート「流れ星の願い」

 虹色の若草が果てしなく広がる草原で、星々の母は微笑みを浮かべつつ遠く美しい空を見上げていた。そこには幾つもの流れ星が舞い降りて来て、止めどなく光の雨を降らせている。ある流れ星の一団が星々の母の前に降り立つと、彼らは小さな子供達に姿を変えて一斉に「ただいま!」と母の胸に飛び込んで…

【連載】わたれない #1 | 彩瀬まる

雑誌「その境界を越えてゆけ」にて掲載された、彩瀬まるさんの「わたれない」を特別に一挙公開! 毎週月曜日更新の予定です。 会社を辞め、育児をメインで担当することになった暁彦。 “ママじゃない”ことに悩むが、あるブログに出会い……。  ドアを開けて外に出ると、ひとすじの涼しさを含んだ…

『本日は、お日柄もよく』言葉の力を借りて、小さなことでくよくよしなくなった話 @saay…

おはようございます。コンテンツ事業部のさよです。 今週はラブソルnoteテーマウィーク!「私を変えた一冊」として、こちらの本をご紹介します。 原田マハさんの小説、『本日は、お日柄もよく』。 出会ったのは今から6年前の2014年でした。 当時、28歳。アパレル業界で働いていた私が、この本を通…

【祝】はんぺんチーズフライって、とってもエモーショナルな味がするんだね【編集部のお…

 掲示板に「210」の文字はなかった。  つまり僕は、受験に失敗したらしい。  同世代らの麗らかな声が響き渡る県立A高校玄関前。不合格なる酷な現実を前に、しかしそれでいて己が心はまるで鏡よろしく凪いでいた。  何せ十五歳当時の僕ときたら分厚い参考書よりも電撃文庫や富士見ファンタジ…

ショートショート「消えないもの」

 静かな教室に、国語の教科書を音読する声が染み渡っていた。  私は教科書なんて引き出しの奥に仕舞って、夢中でノートに絵を描いていた。小さい頃から絵を描くのが好きで、退屈な授業の時はいつも絵を描いてやり過ごしていた。でも、その日はどうしても自分の納得いく絵が上手く描けなくて、何度も…

【ショートショート】夏祭りの日しか開かない喫茶店

夏祭りが終わり、わたしは自宅へと歩いて帰っていた。 夜の9時とはいえ、まだまだ暑さは厳しい。 Tシャツは汗を吸っていて、少し重みを感じる。 喉が渇いたので自動販売機を探したが、なかなか見当たらない。 身体は水分を欲しがっていた。 このままでは脱水症状になってしまう。 と、そのとき、…