オレのウダツが上がるまで(第二十六話)

〜真っ白な空間で〜

ーーーヒロヨシが倒れてから
   十日が過ぎようとしていた。

   これまでの感覚と違い、
   どこかずっと彼方の
   なんにもない真っ白な空間

   そんな場所にいるような
   気持ちだった。

妻はソバにいるのか?

コウキは?マイは?

誰の気配も感じないぞ・・・。

ーーー延命処置により息はしているが
   長くても1〜2週間の命だろうと
   皆、医師から聞かされている。

   たとえ脳死と告げられようとも
   目の前で呼吸をしている
   ヒロヨシを見れば
   生きているという事実が
   錯覚を起こし
   なぜかまだ安心してしまう。

   本当は生かされているだけだとしても。

   残されていく者はどんな形であっても
   生きていてくれればただそれだけで
   いいと思うのかもしれない。

   しかしそれはやがて
   旅立つ者の気持ちを考えるようになる。
   
   ヒロヨシ自身はきっと
   痛みも苦しみもなく
   もう何も感じてはいない。

   この延命を本人ならどう思うのか。
   意味はあるのか。
   もうラクにしてあげたい・・・。

   そんな感情が家族に芽生え始める。

   真っ白な空間にいるヒロヨシも
   この現世とは違う感覚を
   なんとなく理解していた。


オレはいつも幸せを探していた。
うまくいかないコトが多いなぁって
そんなコトばっかり考えていたけど、
結局そうしていたのは
全部自分だったんだよな。


可愛がってくれたおばあちゃんと過ごした日々。

メッタに遊んでくれないオヤジが遊んでくれた時。

否定ばかりするそのオヤジがオレの考えを分かってくれたコト。

オフクロがよく相談に乗ってくれて嬉しかった気持ち。

気が合わない妹のカエデと好きな音楽の話を共有した瞬間。

一緒に暮らしていたワンコたちがくっついて離れようとしないもどかしさ。

妻と出会えて子供達が生まれた喜び。


ほら、幸せなんていくらでもその辺に転がっていたんだ。

もっともっと早く気付きたかったな・・・。


〈つづく〉

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?