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伝えるって難しいなあ

漫画を描いてて気を抜くとすぐにバストアップの正面顔と横顔ばっかりになる。もちろんそれでは場面が伝わらないので引きとか背景だけのコマとか増やすんですが、画角というのかどのカットを描けばいいのかが分からぬ。頭の中に映像を思い浮かべて違和感のないように絵を繋げていく作業のなんと難しいことでしょうか。漫画や小説を読んでいる時は全然気にしないのに、いざ自分がやるとなるとびっくりするほど考えることが沢山ある。

例えば人物をどのようなポーズで描けばいいのかとか、台詞が多くないか?とか、そもそもこの台詞で果たして伝わっているのか?とか、効果音はこれでいいのかな、とか…多分「演出」という部分に当たるのかと思うんですが、世の中に演出家というポジションがある訳だなあとスタッフロールに思いを馳せてしまいます。そもそも漫画にしろ小説にしろ物語を一人で描くということは、脚本・監督・演出・出演・美術・撮影・編集・その他諸々全部俺という事で、普通に考えてそんな事できる訳なかろう。なんならロケハンもロケ弁もプロモーションも全部俺!スポンサーも俺!裏を返せば全部自分の思い通りになるということでもありますが、それによってますます混迷を極めていくということでもあります。仕事であれば、完成しなかろうが出来に納得してなかろうが無慈悲に期日というものがやって来てすべてを刈り取っていくのですが、なまじ趣味でやっているといつまでも進まず気付いたら何も収穫できないまま悠久の時が過ぎてしまう。締め切りって大事なんですね。ひょっとしたら締め切りをつくるためにイベントに出ているという人もいるのかもしれないなあ。

ところで、自分の漫画の背景があまりに白いので途方に暮れて様々な商業漫画を見ていると、結構背景の絵がしっかり描いてあることに気づきます。というかほとんど全部のコマに背景が描いてある。ギャグとか登場人物の感情が大きく動くコマ以外は全部描いてあるんじゃないのこれ……普段全然意識してなかったけど…あんまり背景描きこんでる印象がなかった作品も普通に描いてある…!背景を描いたりするアシスタントという職業がある訳だなあと制作現場に思いを馳せてしまいます。でも背景て難しいんだよな…パース分からんし…どうやって描いたらいいのか分からないものばっかりあるし。家とか…道とか…。森とか……。あと、いざ描こうとすると世の中恐ろしく線が多い。壁とドアの境目は線一本ではないし…そもそも部屋って単純なようでかなり複雑な形をしています。全員ジャミロクワイみたいな家に住んでればいいのに。そうは言っても描かなければ自分の頭の中は他人には伝わらない訳で、線一本描いたところでそれが地平線なのか水平線なのかが分からないならなんにも描いてないのと同じなのである。背景を描かないということは伝える手段を一つ失ってるということなんだと観念…じゃなくて肝に銘じて背景を描こうと思います。

小説はパース考えて背景を描かなくていいし、数百万の兵士が入り乱れる戦場を一瞬で召喚できていいなあ…と羨ましく思うものの、小説は読者にひと目でたくさんの登場人物の見た目を把握させることはできないので絵も文字も一長一短ですね…。先日読んだ小説で、主人公(大学生)の親戚という人物を主人公と同じく10代だと思って読んでいたら後から奥さんと子供が出てきてびっくりしました。登場場面をもう一度読み返すと、外見描写に「主人公と似た雰囲気」という一文があり、そこで私は勝手に「主人公と同じくらいの年格好」と思い込んだようです。どれだけ描写をしても最終的に読者の読解力と想像力に委ねられるので小説の方が難しいのかもしれない。伝えるって難しいなあ。