見出し画像

「エシカル」の第一歩は生産の現場に近づくこと | エシカルフードインタビュー 河口眞理子さん

こんにちは。「Tカードみんなのエシカルフードラボ」公式note担当の東樹です。

今回は、ラボの活動に有識者として参画されている、立教大学21世紀社会デザイン研究科特任教授・不二製油グループ本社株式会社の河口眞理子さんへのインタビューをお届けします。証券系シンクタンクにて20年以上にわたりCSR、ESG投資についての調査研究および企業や投資家向けのアドバイスを行い、10年前よりエシカル消費についての調査研究をされている河口さんに、私たちがどのように「エシカルフード」に向き合うべきか、お話を伺いました。

・・・

画像3

河口眞理子さん(立教大学21世紀社会デザイン研究科特任教授/不二製油グループ本社CEO補佐)
一橋大学大学院修士課程修了(環境経済)後大和証券入社。大和証券グループ本社CSR室長、大和総研研究主幹など歴任。2020年4月より現職。企業の立場(CSR)、投資家の立場(ESG投資)、生活者の立場(エシカル消費)のサステナビリティ全般に関し20年以上調査研究、提言活動に従事。現職では、サステナビリティ学についての教育と、エシカル消費、食品会社のエシカル経営にかかわる。2021年9月より、アセットマネジメントOneサステナビリティ諮問会議アドバイザー。
アナリスト協会検定会員、国連グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン理事、日本サステナブル投資フォーラム理事、エシカル推進協議会理事、WWFジャパン理事。環境省中央環境審議会臨時委員、経済産業省家電リサイクルにかかわる審議会、著書「ソーシャルファイナンスの教科書」生産性出版、「SDGsで『変わる経済』と『新たな暮らし』」生産性出版など。

・・・

ー 河口さんは、なぜこのラボに参画されたのでしょうか?
最大の理由は、「消費を変えたい」ということです。私はこれまで、サステナビリティの観点で企業や投資家を変える、ということに挑戦し続けてきました。ですが、消費者が変わらないと企業は変わらず、企業が変わらなければ投資家も変わらない、と感じています。

消費者は、企業のように法律によって変化を促すことが難しく、掴みどころがありません。どうしたものかと思っていた時に、「エシカル」のコンセプトから消費者に広める、ということをやろうとしている「Tカードみんなのエシカルフードラボ」に出会いました。

今は、「エシカル」に対して意識が高い人と、そうではない人の差が非常に大きいです。ラボの活動を通じて、スーパーやコンビニエンスストアといった身近な店舗で「エシカルフード」を販売することで、より多くの消費者の意識を底上げしたいと考えています。

ー 河口さんが現在考えていらっしゃる、「エシカル」の定義を教えてください。
田んぼや畑で作物を作ったり、魚を獲ったりと、元々食べものというのは、自分自身でまかなっていたものです。人の歴史の中で、それがあるべき姿でした。

ですが、戦後70年ぐらいで作り手と食べ手の距離は離れてしまいました。アメリカでは、人口の1%しかいない農家が、食をまかなっているといいます。

自分で食べものを作っていたら、「自然を破壊すれば食べられなくなる」ということが実感できますよね。土など、自然をだめにすることは、自分を害することにつながります。全部獲りつくしてしまったら来年食べるものがなくなるので、生かしているものの中から一部をいただく、という考え方になるんです。

今は、そうではなくなっています。作り手と食べ手の関係性が見えにくいので、都会の消費者は、遠い生産地の環境問題は「関係ない」と思ってしまうんです。そのような中で、少しでも生産の現場に近づこうという気持ちを持つことが、「エシカル」の第一歩だと考えます。

スクリーンショット 2022-03-14 19.17.55

・・・

ー 日本と海外に、「エシカル」や「エシカルフード」に対する考え方の違いはありますか?
消費者の意識は、残念ながら欧米の方が日本より進んでいると感じます。マクドナルドはMSC認証を受けた魚を提供するようになりましたが、欧米と比べて、日本は提供開始が5年以上遅れました。日本の消費者がMSC認証を知らず、それが価値にならなかったことが原因です。

また、バングラデシュで2013年に発生したラナプラザ崩壊事故によって、劣悪な縫製工場に人々が詰め込まれていたことが判明し、ヨーロッパで消費者によるファストファッションに対する抗議運動が起きました。ですが、日本ではそうした大きな動きが見られませんでした。

欧米では、NGOの発言が盛んで、そうした情報に触れる機会も多いです。ヨーロッパで尊敬する人を聞くと、政治家や起業家ではなく、NGOの方々の名前が挙がったりもします。

日本人には、積極的に情報を取りに行かず、言われたことを鵜呑みにする傾向があるように感じます。話を聞けば、たとえば「アニマルウェルフェアという考え方があるんですね、知らなかったです」となるのですが、自ら調べたりするような自立した市民が、残念ながら少ないのです。また、権利には義務がセットになっているはずですが、消費者が義務を考える教育はほとんどなされませんでした。なので、消費者は権利だけを主張すればよいと思われがちです。

ただ、若い人たちは、小中学校での教育の成果もあって意識が底上げされてきているので、そこに期待をしたいと思います。そして、上の世代は、若い人たちが持っていない、虫取りや焚火などのアナログな知識や知恵を提供できるとよいのではないでしょうか。

消費活動は、世の中の資源を使うことです。ですので、権利だけを主張せずに、きちんと最後まで使い切るといった責任感を日本の消費者には持ってほしいと思います。「何を買うか」によって、「どこにお金が流れていくのか」が変わり、その積み重ねが社会を作っていくのです。

ー これから「エシカルフード」が選ばれていくために、どのような伝え方が必要でしょうか?
「こういうことをすると、もっとよくなりますよ」と呼びかけても、面倒だからやらないという人は多いと思います。「これが手に入らなくなりますよ」というように、起きたら困ることを伝えないと、なかなか人は動かないんです。

生産には様々なコストがかかっています。スーパーでお金を払ったからすべてOK、ではなく、生産の現場では価格に反映されない「外部不経済」というものが発生することも少なくありません。まずは、現在の生産活動や消費活動によって、環境破壊や児童労働が発生するなどの負の影響が発生しているという情報をもっと出していく必要があります。こうした問題が生じるのは
私たち消費者に責任の一端があり、だからこそ、そうした状況を変えられもするということを、知ってもらわないといけません。

日本人のいいところは、話を聞いて実態を知れば、多くの人はよりよい方を選んでくれる、というところだと思っています。そこまで持っていくのが大変ではありますが、企業活動だけではなく、学校教育など様々な場所で伝えていくことで変わっていくはずです。WWFもいいレポートを出していたりしますし、そういったNGOの話をもっと聞けるようになればいいですね。

スクリーンショット 2022-03-14 19.18.18

・・・

ー 日本にも、「エシカル」と言える事例はあるのでしょうか?
日本にもいい事例はたくさんあります。サプライチェーンの上流まで考える、という取り組みでは昔ながらの生協の「援農」がありますね。普段食べているものの作り手である農家さんのところに行き、農作業を手伝いましょう、ということを昔からやっています。

また、3年前のことですが、中高生を対象にした「SDGsまちづくりアイデアコンテスト」で、京都府木津川市の高校生が柿渋(渋柿の汁を発酵熟成させたもの)を活用したアイデアで受賞したんです。防水効果や消臭効果をもつ柿渋は、昔は壁に塗るなど様々な用途で使われていました。木津川は柿渋で有名でしたが、今ではもうほとんど作られていません。

柿渋の効果を知った地元の高校生が、「ポリ袋の代わりに、紙に柿渋を塗ったら、いいレジ袋になるんじゃないか」と、実際に袋を作って消臭効果などの実験をし、それが受賞にいたりました。紙に柿渋を塗ることで、プラスチックの代替になるんです。

江戸時代の日本はサステナブルな社会といわれました。その時代に生み出された伝統技術は他にもたくさんあるはずなので、もっと目を向けたいですね。廃れてしまったけれど実はサステナブルな技術をもう一度蘇らせ、世界の課題解決に役立てようとする若い人たちがいることには、とても勇気づけられます。消費者としても彼らを応援することが、これから私達がやるべきことの一つではないかと思います。

・・・

■ Tカードみんなのエシカルフードラボ

■ 公式Twitterでは、「エシカルフード」に関する情報を発信中!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?