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Q. 轟木さん、酒屋として、新しく取り組んでいることはありますか?

 

雑餉隈に《とどろき酒店》という面白い酒屋さんがある。そう聞いた僕は福岡の人でもあまり馴染みのない雑餉隈(“ざっしょのくま“と読む)に面白い酒屋さんがあるとは思えず、足を運ぶまで半信半疑だった。ただ足を踏み入れた瞬間、その独特のセンスで集められた日本酒と焼酎、そして、自然派ワイン、その特化した品揃いに心が湧いたことを今でも覚えている。今、僕が動きの速い福岡で良い飲食店を探すには?と聞かれたら、《とどろき酒店》が卸している飲食店に行くといいと答えるかもしれない(実際はそのような探し方はできないのだが、ブルータスの『福岡の正解』でそのようなページを作ってしまったほどだ)。僕はそれぐらい轟木さんのセンスと酒屋としての手腕を素晴らしいと思っている。

 
 

一升瓶が動かなくなることからわかる、
今の時代のこと。


伊藤 やっぱり、コロナは大変でしたか?

轟木 商売していて、考えないといけないことが多かったと思うけど、考える時間もたくさんできたことで、結果としてすごく良かったなあと思いますよ。いろいろと削ぎ落ちたなと思って。

伊藤 実際に直接影響を受ける業態ですよね?

轟木 売上げが減っていないと言えば嘘になりますけど、そんなに変わらないんですよ。いろいろとタイミングが良くて。実は2020年に本店と薬院の両店舗とも移転することになっていたんですよ。《薬院STAND!》は突然の立ち退き話しで急遽移転場所を探して、運良くいい場所が見つかったんですけど、本店は計画が一年遅れてしまって。結果として同じタイミングでの移転となったので、周りの人たちからは「コロナの真っ只中になんで?」なんて言われながら(笑)。でも蓋を開けてみると、コロナで外食が止まっている間、家飲みの需要がすごく多くて。新しい本店は駐車場の数を6台から14台まで増やしたこともあって買いやすいからと数字は高止まりしたまま来ています。通販も増えましたし、今、飲食店の販売数字がだいぶ回復してきて、そこまで大きなダメージはなかったんです。ただ中でやっている仕事や売れるものの変化はすごかったですね。

伊藤 売れるものの変化はどういうものですか?

轟木 わかりやすいところでいくと、一升瓶が動かなくなりました。

伊藤 以前、轟木さんから「福岡では日本酒や焼酎は一升瓶で買うものだ」って教えてもらったことがありましたが、その一升瓶が出なくなった。

轟木 全然出なくなったんですよ。まあ、時代的なものもあるんですけど、一升瓶でひとつのお酒を買うよりも、700mlくらいの小瓶を2~3種類買う方が今のニーズに合っているんですよね。新しい本店では商品のラインナップも720mlを増やして、一升瓶をちょっと減らしました。

伊藤 飲み方も時代で変わっていくんですね。

轟木 九州で商売している僕らにとって、今までは小瓶って業務用だったんですよ、家飲みは一升瓶で買うものだと思っていたから。ただコロナで業務用としての小瓶が全然動かなくなっちゃったけど、店頭で自然と売れていく小瓶を見ていてもっと増やしていこうという話になりましたね。

伊藤 本当はハーフだから家っぽいけど。

轟木 これ焼酎に関してだけ言える話だったんですよ。日本酒やワインは次々とあれこれ飲みたくなる。これは醸造酒の特徴で、蒸留酒はこれと決めたら、それをずっと飲み続ける傾向があるので。

伊藤 面白いですね。

轟木 さらに言えば、いつもは角打ちで日本酒を飲んでいる方が、家飲みになって買って帰るのが少し地味めなワインになったりとか。ワインのポテンシャルをすごく感じましたね。例えば、すごく華やかな日本酒があったとして、それが人気のお酒だったら飲食店に行ってそれを頼みますよね。でもそれって、グラスで頼めるから美味しいのであって、一升瓶で飲むとなると違うんです。そのことを消費者はだんだん気がついてきていて、家で飲むのに地味めなものを買う傾向が多くなってきています。もちろん、あっという間に完売する華やかで人気の商品もあるんですけど、何杯飲んでも飽きないものを選ぶってお客さんも自分の感覚に対して正直になってきた気がします。

伊藤 正直になってきたとも言えるし、みんなが学んだとも言える。

轟木 そうですね。15年くらい前は一年中、赤ワインの方が売れていた。でも今見ていると、夏は白ワインの方が売れますし、冬はだんだん赤の比率が高くなってくるし、それが自然な感じになってきたな、と。

伊藤 それは《とどろき酒店》としては喜ばしいこと?

轟木 喜ばしいですね。テーブルにいつも気の利いたお酒があればいいなって思っているんですよ。高い、安いではなく、プロダクトとして、気の利いたものがあればいいなと思っていて。酔っ払うためのものではなく、旬を味わうとか、食の進むものとして楽しめるお酒とかがあるといいなと思っています。スタッフの中にご両親がお酒を飲まないという人もいるんですけど、そのスタッフは食卓にボトルがある絵が頭に浮かばないらしいんですよ。

伊藤 家の風景として、お酒がいつもテーブルの上にない人にとっては、それは日常の風景ではないですもんね。逆にいつもあれば、当たり前の風景になる。

轟木 そうなるといいですよね。うちの息子はそういう風景の中で育っているので、食卓にボトルがあるのは当たり前に育つと思います。別に酔っ払うことではなくて、お酒は楽しいものだと思うので「テーブルにはいつもお酒がある」が自然でいいんですよね、言い方はアル中っぽいですけど(笑)。たくさん飲まなくてもいいんですよ。食事するのにちょうどいい量だけで構わないので、食卓にボトルが置いている家庭が増えるといいなって思っています。それは僕の酒屋としての目標のひとつ。それに付随してうつわがちょっとこだわったものだったりして。うちの昨日の夜飯にはどう考えてもワインの方が合いそうだったんですけど、買ったばかりのうつわがあってどうしてもそれで日本酒が飲みたくなり、日本酒を飲んでしまいました(笑)。そういうことが日常の中でたくさん起こってくれて、もっとお酒と暮らしがつながってくれるといいなと思っています。

 

単純に面白そうだから始めた
《とどろき酒店》のワイン造り。


伊藤 新しくなった2店舗、そして飲食店への卸販売。《とどろき酒店》としては今の形が完成形に近い感じですか?

轟木 いやいや、まだまだやることたくさんありますよ。

伊藤 勝手に完成形に近いと思っていました(笑)。他に何が足りない?

轟木 今はワイン造りとか。

伊藤 そうだ。ワイン造りは前から言っていたね。

轟木 畑は2014年から準備していて、2015年に植樹をしました。なんでワイン造りをやったのかというと、表向きは生産から販売まで一貫してやりたかったって言っていますが、まあ、単純に面白そうだったからなんですよね(笑)。

伊藤 扱っていると造ってみたくなるもの?

轟木 そうですね。2000年初めくらいから毎年、短い期間ですけど、山梨にワイン造りの手伝いには行っていたんですよ。単純にワイン造りを経験して販売に活かせればいいなと思って、もっといろいろなことを知りたいなっていうレベルの話だったんですけど。うちは比較的イベントが多い酒屋なんですけど、ある時、生産者を呼んでイベントやっている時に、山形でワイン造っている人から「轟木くんもワイン造ったら面白いのに」って一日中言われたんですよ(笑)。それまで考えたこともなかったんですけど、「そうなのかな」って。そのタイミングでうきはにある畑が何にもやってなくて、誰か何か植えてくれないかなって話がきて。「あ、じゃあ、葡萄植えます」って。その頃《巨峰ワイナリー》にお願いしてオリジナルのワインを造っていたこともあって、自分の作った葡萄をブレンドすればいいやと思ったんですよ。それくらいの小さい畑だから。ただやり始めて3年くらい経って気が付いたんですけど、製造中のワインは巨峰で、僕らが植えた葡萄はシャルドネとかメルローとかで、収穫時期も全然違うから混ぜられなかったんです。

伊藤 結構基本的な話だね(笑)。

轟木 混ぜれないやん!と思って(笑)。誰かにお任せするしかないものなんだと思いながらも……栽培や醸造に関して少しずつ経験していくと、やっぱりこういうワインを造りたいというイメージが広がっていくしで。本当に造りたいワインは自分で一からちゃんとやらなきゃ難しいなっていう。だったらもっと踏み込んでやろう!と思って、2014年から準備し始めました。朝倉の山のてっぺんに0.5ヘクタールの畑を借りたんです。2015年~2016年土壌を整えてすごく素敵な畑ができたんですけど、2017年に九州北部豪雨があって畑は大丈夫だったんですけど、山裾がざーっと落ちちゃって、車道が全然使えなくなっちゃった。だいぶ凹みました。でもそのままではどうしようもないので、スタッフ総動員でリュックサックに苗を入れて、歩いて登って、植え戻したりして……。植え戻した後は切り戻しをして、一回ゼロリセットしました。葡萄の木ってそうしないとうまく伸びない。そんなこともあったので、計画的にはかなり遅れてしまっています(苦笑)。

伊藤 そんなことをやっていたとは……。

轟木 今でも夏は午前中に草刈りとかやってます。また2020年にワイナリーを建てるつもりだったんですけど、場所が見つからなくて、申請ができなかった。実は2020年ワイナリーができるだろうと思っていたから、自分のところの葡萄だけではなく、契約農家からの葡萄も買うことにしてしまっていて……、約束していたので。その時は知り合いの山梨のワイナリーに持って行ってそこで間借りして造るっていう……。

伊藤 一難去ってまた一難……。それで自社のワイナリーは?

轟木 もう造っています。朝倉でいいところを見つけて2021年の頭に建てて、7月に醸造免許をもらって、8月から醸造を始めています。

伊藤 その突進していく感じ。先に行動があるみたいな。それって轟木さんの性格?

轟木 単純に下調べの甘さですよ(笑)。

伊藤 でも、行っちゃえ!って感じでしょ?

轟木 やらなくって後悔するってあるじゃないですか。それが嫌で。

伊藤 ワイン造りがとどろき酒店グループの中に入って、生産から販売までが揃ってきて。次の展開は何か考えているんですか?

轟木 ワインの話の続きで言えば、葡萄の質は北海道に敵わないと僕は思っているんです。雨が多いんですよ、九州。10年前と比べものにならないくらい増えているらしくて、農家の方々が口を揃えて、「昔はこんなんじゃなかった」って言いますもん。でも、だからダメではなくて、僕は個性が違うという考え方で、福岡らしい、九州らしいワイン造りができればと思っています。

具体的には、僕らと一緒に取り組んでいただけるワイナリーや農家の人たちともっと出会いたいなあと思っています。ワイナリーがある朝倉市って、葡萄の一大生産地なんですけど、高齢化が進んでいて、これから耕作放棄地が間違いなく増えます。今は若い人の介入が少ない。みんな野菜に行くんですよね。果樹を育てる方に若者が向いてくれたらいいな、それでもっとワイン用の葡萄品種の栽培が盛んになったらいいなと思って、若い契約農家さんにお願いしていたりします。

若い方だけでなく、ご年配の方でワイン用の品種に切り替えるお話を興味もってくれる農家さんもいて、その方々にお話をしているんですけど……食用品種とワイン用品種って手間のかかり方が全然違って、ワイン用品種の方が育てやすいんです。形は関係ないし、病気じゃなくて糖度が乗っていればいいぐらいの感じ。ただし、価格が食用ほど高くはないから、手間を減らして作ってもらったものを僕らが買い取る仕組みを作ろうとしていて、もう何人か協力してくれる人たちも見つかっています。

今、その活動と加えて、ワインを造ってみたい人からの声もあって研修プログラムを考えています。これらの活動を通じて、朝倉がワインの産地だよねって思ってもらえるところまで行ければいいなと思っています。

伊藤 新しいことだけにやり方や進め方はわからないことが多いと思うのですが。

轟木 葡萄は単純に僕らが必要としているんです。自社で作ることができる量は限られているので、ワインの生産を増やしたいと思っています。そこに協力しやすい体制ってなんだろうと考えています。

伊藤 今はちょっとずつ見え始めてきた感じですか?

轟木 なんとなくですけどね。僕らは経験があると言っても自社で醸造するのがまだ一年目ですし、これからいろいろ起こるでしょうね。ワインを造りたいって人って僕もそうですけど無計画な人が多いんですよ(笑)。葡萄はこのエリアが産地だから、市町村と協力してワイナリーを建てちゃおうって、日本中かなりの数できているんですけど、もうダメになっている場所もありますからね。

伊藤 行き当たりばったりだから?

轟木 コストの問題はあるし、品種の問題もあるし、醸造の問題もあるし、クリアできていない問題がすごく多いと思います。さらに言えばこれはうちの強みなのでうちは問題にならないんですけど、販売の問題は大きいと思います。うちは売る場所となる同業者や仲間が全国に散らばっているので、昨年造ったワインも仙台から宮崎まで仲間の酒屋さんで売ってもらったんで。今ワイン造りに参入した第三セクターの人たちは「できました」「さて、どうしよう」「どこで売ろう」ってなることも多いと聞いています。

伊藤 あと轟木さんの場合、コミュニケーションの塩梅がいいじゃないですか。デザインにしても、売り方にしても、ストーリーにしても。それに関しては轟木さんならではというか、いい意味で属人的で、第三セクターには真似できない。仕組みだけ真似してもできないようなことをやっている気がする。

轟木 例えば第三セクターや異業種からワイナリーやりますとなると、コンサルティングみたいな人たちが間に入るので、必要ない設備を揃えてしまう場合が多いんです。すんごい豪華な設備を作っちゃたりして。それをペイするためには、ワインの価格の設定を高くするか、何十年も払い続けるかどっちかしかない。正直、それは難しいなと思いますよね。

伊藤 《とどろき酒店》は必要なものを必要なだけ自分たちの手で作っている人たちだから、それは全然違うでしょう。

轟木 結局、僕らが造りたいワインって、福岡に来た人とか福岡の人が日常的に親しめるレベルの価格でありたいなと思うし、そもそも高級品を造るほどの葡萄にも成長していないし、技術も届いていないと思うので、フルボトル2,000円台で収めたいと思っています。新規参入するワイナリーとか、「はいできました。4,000円です」みたいになっちゃう。4,000円のワインって、ワインをそんなに飲んでない人だと特別な日用なんですよね。僕はそうじゃない、もっと日常のワインを造りたくて。今日もこれを飲もう的なところにいたいなって思います。

伊藤 販売だけだった《とどろき酒店》がワインも造り始めて、今、どちらも同じぐらい力を入れている感じですか?

轟木 いずれ採算が取れるような計算をしていますけど、本当に知れた量です。僕ともう一人で主にやっている感じなので、まずはその中でやれることをやろうかなと思っています。

 

こんな店があったらいいな
というのに近づきたい。


伊藤 今の動きは轟木さんが酒屋を先代から受け継いだ時には全く想像していなかったでしょ?

轟木 してない。してない(笑)。

伊藤 こうやって広がっていった理由はどこにあると思いますか?

轟木 やりたいことをやっているだけなんです。飲食店をやっていることに関しても、酒屋は割と古い業態なので周辺にお客さんの飲食店があるのに出していいの?みたいなこと言われたりもするんだけど、出してみたら飲食店さんもそんなこと気にしていなくて、むしろ近くにあったら便利だと言ってもらえる。仕込みの手が空いた時にみんなで飲みに来たりとかもしてくれるし、コミュニケーションが増えて良いことの方が多いんです。酒屋はこうだというものを僕は気にしませんし、自分が行きたい店を作るというか、こんな店があったらいいなというのに近づきたいなと思っているだけです。今思っているのは、食品をもうちょっと扱いたいなと思っているんですけど、ノウハウが異なるんですよね。

伊藤 どういう食品を扱おうとしてるんですか?

轟木 今農家さんから直接野菜を買っているんですが、例えば、ある時期になるとなすびばっかり来るんですよ。季節があるから、それは当然のことなんですけど。なすびをいろんな調理法で食べることができると、お酒との組み合わせも多様になって、食卓が豊かになる。そういうきっかけをつくりたいですね。野菜の販売だけでなく、塩やオリーブオイルなどの調味料も扱いたいとか。だから野菜のことをもっと知りたいから、自分たちで野菜も収穫しに行ったりして。

伊藤 それも実際に自分たちで?

轟木 僕ら空いている時期もあるので、農家に手伝いに行ったりとか。

伊藤 ワインも造り始めたし、そんなに空いている時期ってないでしょう?

轟木 時間は作ればできますよ。そんなことよりも楽しくなってきちゃうんですよ。収穫ってわかりやすく楽しいですから。

 

みんな楽しく働いて欲しい。
僕は行くべき方向を調整しているだけ。


伊藤 スタッフや仲間といろいろなことをやっていく中で大事にしていることってありますか?

轟木 楽しく働いて欲しいなって思っています。忙しくなってきたからって求人募集を出したことがあったんですけど、人ってどうしても条件を気にしてしまいがちじゃないですか。そういう話からスタートするのが嫌になっていて(笑)。うちの場合は自分たちの活動だったり、ここで扱うお酒が好きだとか、接客が好きだとかそういう理由がないと続かないと思っているんです。今いるスタッフが長く働いてくれる長く働き続けてくれるにはどうしたらいいんだろうとよく考えています。そのために給料だったり、休みだったりを考えるんですけど、最初にその話をしたくないなと思っていて。

伊藤 スタッフとは轟木さんの考えていることを共有するための対話をしたりしてるんですか?

轟木 それはコロナで一番感じたことなんですけど、配達少なくなったので出勤する人を半分にしたんですよ。遠方から通っているやつは出勤ほとんどしなくていいようにしたんですけど、彼らから出てきた話なんですけど、雑談がないと何も浮かばないというんですよね。だから、雑談がとても大切だなと思っていて。僕らのお店は19時くらいに終わるんですけど、いつも終わったら、サンプルのお酒や新しく届いたお酒を開けて、みんなで飲んで、ワイワイやったりしているんです。その時間ってものすごく大切だったんだなと改めて思いました。面談も半年に一回やっているんですけど、ふとした感じで出てくる話の方が面白かったりしますよね。

伊藤 《とどろき酒店》のスタッフって、個性があって、自分がある人が多いイメージですよね。

轟木 偏ったやつばっかりですね(笑)。それもそんなに難しいことじゃないと思っています。いろんな子がいても、同じ方向を向いていれば自然と息が合ってくるので。僕は行くべき方向を調整しているだけな感じです。

伊藤 勉強会したり、試飲会したりをずっと重ねてやっているでしょ。ここで働くためには、自分の興味がちゃんとないとダメですね。

轟木 僕らがやっている勉強会は、例えば、「じゃあ、総研さん、勉強会やってください」じゃなくて「総研さんが開けたいお酒を開けてください」、で「それをみんなが飲みたくなるようにしてください」っていう勉強の仕方なんですよ。勉強会のために何かきちんと準備しなくてはいけないという感じではなくて、今夜飲みたいものとか、飲み比べたいものを並べて、自分たち目線で勉強していく。そのほうが共感しやすいんですよね。

伊藤 私見なんですが、轟木さんって、僕がいいと思っているものは、みんながいいはずだと思ってやっていますよね?

轟木 基本的にはそれですね。僕が美味しいと思わないと薦められないですよね。

伊藤 それって簡単そうに思えるけどすごく難しいと思うんです。それって轟木さんだから、自分が良いと思うものを薦められるんですよって思ってしまう自分に自信のないスタッフとかいたりしませんか?

轟木 よくスタッフに言うんですが、飲食店さんで一番売れるお酒の注文の取り方って、若いアルバイトの子でも誰でも、「私も好きなんです」っていうだけなんです。それは本当に好きじゃないと言えない台詞なんです。それだけ。味なんか関係ないですよ。

伊藤 確かに頼んじゃうかも(笑)。

轟木 うちは尖ったお酒が多いんですよ。作っている人は普通じゃない人ばかり(笑)。だから、自分の言葉が必要なのかもしれません。最大公約数を求めてお酒を選ぶと大手の有名ブランドになっちゃうんですよね。でも僕はそれを売るつもりは全くなくて。小さくても尖って面白い人の作ったお酒は売る時も楽しいし。

伊藤 そういうお酒を売るつもりはないって、言い切っちゃうのがすごいですね。

轟木 面白いと思わないんですよ。下手すると機械的に同じお酒なら作れちゃう時代になってきていて。ビーカーで調合したりして、それを大量に作れてしまう。じゃあ、僕はどっちを売るんだって言ったら、汗水流したりとか頭悩ませて作るものの方が面白いじゃないですか。

 

みんなに繁盛店になってほしい。
だから、僕はきちんと言う。


伊藤 福岡の飲食店の状況で思うことはありますか?酒屋という立場からいろいろと見ていると思いますが。

轟木 良いお店とそうじゃない店の差が激しくなってきていて、何でなんだろう?と思ったりしています。すごく流行っているところとそうじゃないところが出てきている。

伊藤 何が違うと思います?

轟木 店を動かしている人の違いですかね。オーナーだったり、店長だったり、任されている人。うちは飲食店向けにも勉強会をやっていたんですが、コロナになって、人を集めづらくなったので、声をかけてもらえれば、僕らが出向きますよってお知らせしたんです。すると繁盛店から先に電話がかかってくるんですよ。

伊藤 良いお店ほど貪欲にもっともっとなんですね。

轟木 時間ができるとその時間を上手に使おうとしているんですよね。

伊藤 轟木さんにとって、良いお店ってどんなお店だと思いますか?

轟木 飲んで食って3,000円でも高いというお店もあれば、寿司を食って「これで30,000円でいいんだ」ってお店もあるわけじゃないですか。それがもう一回行きたいと思わせる差ですよね。今、これだけ家での食事の役割が大きくなって、飲食業界は本当に大変だと思います。コロナが収束してきても、今、家飲みが減らないのは、家でも十分楽しいじゃんってことに気がついたからだと思うんです。テイクアウトフードもいろいろあるし。ってことは飲食店さんは家での安くあがる食事と比べて、それを上回る2~3時間を提供できないと消えていくんだなと思います。

伊藤 轟木さんから見て、福岡で残念に思う飲食店の傾向ってありますか?

轟木 素材がいいからいいでしょみたいな料理ですかね。もちろん美味しいものは手をかけなくていいんですけど、それだけに頼り過ぎているお店はなあと思います。海鮮系の店に多いなと思っていて、もったいないなと思うことがあります。

伊藤 福岡の飲食業界は本当に難しいって言われるじゃないですか。例えば東京から来る人は結構な割合で失敗したりする。あれはなんでだと思います?

轟木 人的な問題が大きいんですかね。あと、誰向けなのかな?って思う店も多いですよね。地元の人向けなのか、県外者なのか、外国人なのかどのあたりの層向けなのか見えないと難しいかなと思ったりしますね。

伊藤 自分が卸しているお店は気になるでしょう?

轟木 気になります。気になりますし、耳が痛いこともきちんと言います。

伊藤 その関係性は大事ですよね。轟木さんたちは一番見ている人ですもんね。

轟木 結局、みんなに繁盛店になってほしいんですよ。うちのお酒も売れるし、自分も行きたい店が増えるし。だから、言うタイミングは考えますけど、僕は言いますね。

伊藤 こういう店には卸さないっていう店はありますか?

轟木 レアなものばかりを欲しがる人たちですかね。レアになったものって最初からレアだったものじゃないんですよね。人気が出なかった時期があって、いいと思った人たちが薦めてくれたから人気な酒になっていくんです。うちはみんなが気づいていないものや次に光るものを見つけていきたいと思っていて。「レアなやつがずらっとありますよね」とか言われると、味見てないな?って思っちゃって、なんかこっちはひいちゃいます(笑)。

僕らは酒蔵との付き合い方も同じなんです。例えば、若い子が造り始めて、酒の味が70点だなと思うけど、話してみたら「こいつ、来年は80点、90点いきそうだな」と思ったら、取引きしますし、今90点だけど、全然ノリが合わないなと思ったらやりません。

 

これからは福岡の中心ではない地域を
酒屋として盛り上げていきたい。


伊藤 今も新しいことをいろいろとやっていますが、2022年、特に力を入れて取り組みたいことはありますか?

轟木 今はワイナリーですかね。福岡市内のレストランも流行っていて面白いとは思うんですけど、これからはどんどん変わって、福岡の中心ではない地域の方が面白くなっていくと思っています。僕自身、酒屋の大きなテーマとして地域を盛り上げたいというのがあって。今までは福岡のお酒を売ったり、逆に全国の素敵なプロダクトを福岡に紹介したりしてきましたが、今、縁があって朝倉にいるので何かできないかなと思っています。田舎で出店したい、働きたいっていう人がいたら、「朝倉いいよ」「うきはいいよ」って言っています。いろんな仲間が増えていって、地域の魅力になっていくといいなあと思っています。

伊藤 そこをつなげて、広げていく。

轟木 朝倉の場合、誰かが何かやらないと素敵な宿やレストランがまだ少なかったりするので、もうちょっと増えるといいなと思っていて。僕らの業態には宿って必要なんですよ。せっかく来たのに飲めないとか嫌じゃないですか(笑)。

伊藤 それは確かに嫌ですね(笑)

轟木 地域の人が許してくれればイベントもやってみたいですね。総研さんも朝倉に遊びに来てくださいよ。収穫の時期に手伝ってもらってもいいし、本当に楽しいですから。

edit_Mayo Goto
photo_Yuki Katsumura


 

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