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特別支援学校への進学は「逃げ」なのか。

 だいぶ前の話なのですが、ふと思い出したので、書いてみようと思います。特別支援学校の高等部にお子さんを通わせている、あるお母さんの話です。

 そのお母さんは、軽度の知的障害のあるお子さんを育てていらっしゃいます。お子さんが小学校の特別支援学級に入ったのは高学年の頃で、中学校も、そのまま特別支援学級を利用しました。中学でも最初は交流学級に授業や諸活動で参加できていたのですが、中3では交流を全てやめてしまったそうです。理由は「お子さんが周りの友達とトラブルを起こすことが多くなったから」とのことでした。「小学校の特別支援学級を利用することにしたのは、勉強がなかなかついていけなくなったこともあるんだけど、それよりも、友達とのトラブルが多くて、クラスの中に居場所がなくなってしまったし、他の子と関わる時間が短くなれば、トラブルも少なくなるのではないかと思ったから」とおっしゃっていました。

 どう返事をしたらいいかわからなくて、「そうなんですね・・・」と呟いた私に、そのお母さんはこう続けました。

 「支援学校の高等部を選んだのも、結局、逃げなんだよね・・・。支援学級で勉強がわかるようになってきて、子どもは高校に行きたがったんだけど、私が止めたの。『ずっと特別支援学級で過ごしてきて、勉強も完璧には追いついていないのに、高校に行ってもついていけないよ? 高校には特別支援学級はないんだよ? 友達とトラブルになっても、もう逃げる場所はないんだよ?』って、説得したんだよね。そしたら、子どもは『じゃ支援学校にするよ』ってなる。でもそれって、本当に子ども自信が「選択」したわけじゃないように思う。親が選択させちゃってるんだよね、逃げの人生を。私は、子どもにずっと逃げの人生を送らせてきちゃってる・・・」

 自分にとって、衝撃的な言葉でした。そういう進路選択があるとは思いもしなかったからです。

 

 中学校で勤務していた頃、普通学級で3年生の担任を何回かしてきた中で「この学校にしか入れないから、他に行けるところがないから」という理由の選択をした生徒には、丁寧に話をしてきました。最終的にはその学校に行くにしても、理由がそれでは先方に申し訳ない、というか、そんな後ろ向きな気持ちで選択するのは失礼ではないかと思ったからです。「その学校に入学して、何をしたいのか、どんな3年間を送って、卒業する時にはどうなっていたいのか、もっと考えよう」そんな話を、3年になったらすぐに伝えて、時間をかけて話し合って受験先を決めていました。

 今、私は特別支援学校の高等部で勤務しています。もしかしたら、関わっている生徒の中にも、あまり前向きでない「選択」をして、特別支援学校に入学した人もいるのかもしれません。生徒もそうですが、保護者の方も。(・・・思い出しました。別のお子さんですが、特別支援学校の高等部に通っていますが、制服が自由だそうで、地域にある高等学校(進学校)の制服を選び、近所の人にきかれたら「○○高校に通っています」と嘘をついている、と話してくれたことがありました・・・。それも衝撃でした・・・。)


 「高校に行けないから、特別支援学校に進学する」のではないと私は考えています。高校が上で、特別支援学校が下、ではありません。また、「特別支援学校に進学すれば、高校から就職するよりも楽に就職できると思ったから選択する」というのも違うように思います。

 学校を選ぶ時には、子どもにとって、高校の教育課程と特別支援学校の教育課程のどちらがふさわしいのか、ということが大切だし、18歳で学校を卒業する時に子どもにどうなっていてほしいのか(子ども自身であれば、どうありたいのか)、が大切だと思っています。3年間の学校生活の中で、自ら進んで何を学び、何を身につけるのか、つまり、主体性が大切になるというのは高校でも特別支援学校でも同じです。

 特別支援学校は教員が多いから目が届き、至る所で細かく手が入ります。また、現場実習が何度もあったり、自立活動等の様々な場面を通して就労準備性を高めていたりする、という点では、特別支援学校は確かに手厚いです、でも、子ども自身が受け身でこなしているだけでは、目指す就労にはつながりにくい、というのが本音です。やっぱり主体性が大切なのです。

 私は、「逃げの人生を送らせてきた」なんて、特別支援学校の生徒や保護者の方に思ってほしくはないです。仮に今そう思っているなら人がいるならば、生徒が3年間過ごしていく中で、また、保護者の方が3年間我々と関わる中で、最終的には「特別支援学校を選んで良かった」と言ってもらえるように、指導・支援をしていきたいと思います。過去にしてきたつらい「選択」が報われるように、支えていきたいです。


 ふと思い出した出来事ですが、改めて、特別支援学校での勤務する上での心構えというか、生徒や保護者との関わり方を振り返るきっかけになりました。

 長文をお読みいただき、ありがとうございました!

特別支援教育に興味を持つ教員です。先生方だけでなく、いろいろな職業の方とお話して視野を広げたいし、夢を叶えたいです。いただいたサポートは、学習支援ボランティアをしている任意団体「みちしるべ」の活動費に使わせていただきます。