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ビールの水質飲み比べをやってみた

先日ビールの水質飲み比べをやってみたらかなり面白かったので、それについて書こうと思います。
水質の違いはかなり繊細で、自分の持っていたビールと水にまつわる知識にはズレがあったんだなぁと考えさせらました。

ビールの水質とは?

まず、そもそもビールの水質ってなんのことでしょうか?
簡単に言うと、水に含まれるミネラル量が多いか少ないかということです。

ミネラルとは具体的に言うとカルシウムやマグネシウムなどの無機物のことです。これらが多く含まれた水は硬水、少なければ軟水と呼ばれます。
ミネラルが多い硬水は人間の体を整えてくれるうれしい機能がありますが、独特の味があるので慣れていないと少し飲みにくいです。その反面軟水は栄養素の面では劣りますが、クセのないさらっとした飲みやすさがあります。ちなみに日本の水のほとんどすべては軟水です。

この水に含まれる成分は、もちろんビールづくりにも影響を及ぼします。
一般的にミネラルが多い硬水のほうがビールの味わいを濃くし、軟水を使ったビールは軽やかで落ち着いた出来になるとされています。これは、ミネラルがビールを発酵させる際の栄養になったり、ホップの苦味を抽出しやすくさせるなどの効果があるためです。
ほかにもビールづくりにおいてミネラルにはたくさんの作用があると思われます。記事の最後のほうにミネラルの種類とビールづくりにおける効用を軽くまとめたので、気になる方は見ていってください。

今回飲んだビール「ミッケラー ウォーターシリーズ」

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デンマークの人気ブルワリー、ミッケラーの商品です。
公式インポーターの商品紹介ページから説明を引っ張ってきました。

” Mikkeller Water Seriesとは・・・?
ベースは同じで材料を一部変えて味わいの違いを知る実験的スタディシリーズ。
ホップの違い・イーストの違いに引き続き、今回の新しい試みはビールの醸造に最も必要不可欠な「水」。

「Denmark」、「Pacific」、「Czech」そして「Burton on Trent」の水質を再現し醸造すると・・・?Mikkellerのビールへの探究心に、ワクワクするシリーズですね!
美味しいジャーマンピルスに加え、水質の違いで全く異なるビールの味わいと面白さをぜひご体感ください!”
http://www.aqbevolution.com/6070/

まさに飲み比べをするためにつくられたビールって感じですね。
そう言われたら飲むしかありません!

ビアスタイルは4種すべて「ジャーマンピルスナー」に統一されており、水以外の要素は全く同じに造られているとのことです。おそらくホップもドイツ系の穏やかなものかと思われます。ちなみに各地の水は現地で実際に調達するのではなく、化合物を加えてその土地の水質に調節したもので仕込まれています。

4種類を飲み比べ

というわけでいよいよ飲んでみた感想です。
ビアバーのマスターのご厚意でいただいた思いがけずの飲み比べだったので、下調べなし、先入観なしのまっさらな気持ちで飲んできました。

・チェコ
まずは軟水から。
チェコは西ヨーロッパのちょい東方面。ドイツに隣接した国です。みんな大好きピルスナーは、このチェコの軟水によって生まれたという話はあまりにも有名ですね。

まず見た目ですが、当然ながら黄金色です。ですがいわゆる王道のピルスナーのような超クリアな見た目ではなく、若干のくもりがありました。
香りは穏やかで、ハーバルで華やかな香りを感じます。モルトの主張は控えめで、やはりといいますか、飲みやすい。
意外だったのはほかの3種と比べて全体的に穏やかな分、苦味が立ったメリハリのある味わいに感じられたところです。

・バートン オン トレント
お次はザ・硬水をいただきます。
バートン オン トレントはイギリス中心部の街で、世界的に有名なバス・ペールエールが生まれた場所です。世界でも有数の硬度の高い水が採れる地として知られています。

グラスに注ぐと...思ってたのと違う色のビールが出てきました。というのも先に飲んだチェコとほぼ色味が変わらないのです。イギリスのバートンのビールなんだから中濃色の色味をしてるんだろうなあ...と思ったらこんな感じだったのでびっくりしました。まあよくよく考えたらピルスナーなんだから色は淡くて当然なんですけどね。
香りはチェコのものより熟したフルーツのニュアンスが感じられました。ホップのハーバルな香りもありつつ、発酵由来のフルーツ香があるような感じです。
味わいはやはり少し濃く感じます。モルティというかなんというか濃いです。また、苦味やボディなど全体的なバランスが良く、非常に馴染みます。温度が上がってもずっとその美味しいバランスを保っているところが非常に良かったです。さすがはダラダラ飲みに最適なイギリスビールの水です。

・パシフィック
続きましては太平洋です。
アメリカ西海岸の水質を再現したということで、「クラフトビールの聖地の水」といったところでしょうか。正直アメリカ西海岸のビールの水質については個人的に全く考えたこともなかったので、けっこう飲むのが楽しみです。

見た目ですが、やはり他のビールと大きな差はありません。なるほど、なるほど。そういう感じなのねとこのへんで察してきました。
香りはマイルドな印象がありました。ドイツホップらしいハーバルな香りはあるのですが、そこまで強くは感じません。
そして特徴的なのがミネラルを感じる味わいです。どんな味かと聞かれれば、ほのかに塩気を感じるような味です。わずかに唾液が出るような感覚があり、ほかのビールにはない大きな特徴でした。海沿いの地域ならではの水質の特徴なのでしょうか?余韻はモルトの風味が支配的な印象があります。

ちなみに飲んだ後に調べたのですが、カリフォルニア州の水の硬度は場所によって軟水~硬水までと幅広いようです。ですが、ミッケラーはサンディエゴに醸造所を持ってるので、このビールはサンディエゴの水質なんじゃないかな~と私は予想します。サンディエゴの水質はわりと強めの硬水だそうです。

・デンマーク
最後はミッケラーのお膝元、デンマークです。おそらくデンマークの中でもミッケラーの生誕地である首都コペンハーゲンの水質を再現してるのではないかと予想します。
これも後ほど調べたのですが、コペンハーゲンの水質はけっこうな硬水とのことです。

外観はお察しの通り、ほかのビールとあまり変わらない少し曇った黄金色です。
香りには果実感を感じました。バートン オン トレントにも感じたような発酵由来の熟したフルーツの香りがあって心地よいです。ホップの香りも程よく感じられます。
味わいはこれまたバランスが良く、優等生な感じです。苦味やモルトの風味は中庸で、余韻のアルコール感も強くなく穏やか。尖っているところがなく、意外と一番引っかかりなく飲めました。

個人的にはこのデンマークの水質が一番好みだったかもしれません。
控えめな味わいとその調和のとれたバランスがとてもイイです。

総論

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今回は水質にスポットを当てた飲み比べということで、4地域の水質で仕込んだビールを飲みました。
非常に素朴で繊細な違いを楽しむことができたとともに、自分の中にある知識の見直しができました。なのでそれを最後に書き記しておこうと思います。

・水質がビールの色に与える影響は微々たるもの?
今回の飲み比べで最も意外だったのが、水質による色の違いの無さでした。
ビアスタイルが例えジャーマンピルスナーで揃えられていたとしても、ちょっとくらいは色の差は出るだろうと私は考えていましが、その予想は見事に裏切られましたね。
今回の試飲の結果私の中では、水質がビールの色味に与える影響はごく僅かという結論に至りました。これを踏まえると、濃色ビールの色の決め手はモルトの種類が9割5分くらいになるじゃないかと考えることができます。

・硬水はビールの発酵由来の香りを生む?
4種類のビールを飲んで、香りがふくよかだったのが「バートン オン トレント」と「デンマーク」です。この両者には香りがフルーティー、味のバランスがいいなどの共通する点が見られました。この特徴には間違いなく水質が関わっていると予想します。というのも、この2つの産地の水質はどちらも強い硬水だからです。硬水の中のミネラル分を酵母が代謝することによって、このようなフルーツの香りを出しているのでしょうか。だとしたら、モルトの糖分とミネラルとで、酵母が生み出す香りの成分は変わるのか?なんてことが気になっちゃいました。

・硬水というだけではわからない
硬水とはひと口に言っても、その中にはいろいろなミネラルが含まれています。ということでミネラルの種類とその役割を少し調べてみました。

 重炭酸塩
アルカリ性の成分で、麦汁の糖化に影響を与える。麦汁はpH5.5前後の弱酸性で糖化が盛んになるため、重炭酸塩はpH値を調節するために使われる。
また、モルトのタンニンの抽出と煮沸によるメイラード反応の促進効果もある。

 カルシウム
酵母の栄養源となる。
ビールに安定的な透明感をもたらす。

 マグネシウム・亜鉛
酵母の栄養源となる。

 ナトリウム
ビールに塩気を与える。
適量であれば味わいに幅を持たせるが、多すぎるとバランスを崩してしまう。

 硫酸塩
ビールをドライにし、ホップの風味を引き立てる。

ざっと調べた感じだとこんな感じになりました。
こうしてみると、あのビールのあの味はこのミネラルのせいなのかな~てのが分かりました。

「バートン オン トレント」と「デンマーク」のバランスの良さは、ミネラルの働きが強く出た結果だった。
「パシフィック」に感じた塩気はナトリウムの効果だ。
「チェコ」で感じたホップの強さは硫酸塩の効果か?それともミネラルが少なく控えめな味わいが相対的にホップを際立たせた?

このようなことが考えられるようになっただけでも、今回の勉強は非常に有意義なものでした。水質がビアスタイルをつくったとはこのことなんだなあと再確認できたことも良かったです。


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