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日本vsイギリス【持続可能エネルギー戦略02】

今回のnoteでは、日本とイギリスの自然エネルギーや温室効果ガス排出量について比較をしながら、日本の取り組むべき課題を浮き彫りにしていきたいと思います。

日本は様々な技術や政策を通して、自然エネルギーの普及に取り組んでいますが、イマイチ自然エネルギーの利用量は伸びず、温室効果ガスの排出量はここ数十年あまり減っていません。イギリスを選んだ理由としては、
• 日本と経済規模や人口動態が近い
• 島国という地理条件
があります。

日本とイギリスの様々な比較

日本とイギリスの比較

上記のグラフと表は、日本とイギリスの様々な指標について、近年の値を比較したものです。棒グラフは、日本(赤)を100とした時のイギリス(緑)の相対値を示しています。
ここから読み取れるポイントとして、イギリスは日本に対して、

• 1990年から二酸化炭素の排出量を大幅に減らしている
• 水力よりも、太陽光や風力発電の割合が圧倒的に大きい
• 経済活動あたりの二酸化炭素排出量は少ない

ことが挙げられます。最も重要な点は、イギリスは日本よりも、より環境負荷の小さい経済活動を行っているということです。この点については、後ほど詳しく見ていきます。イギリスにできていて、日本にできないことは何なのか。日本が学べることは何かないのか。これらを明らかにするため、日本とイギリスがこれまで行ってきたエネルギーの施策について概説します。

また、日本とイギリスの名目GDPと二酸化炭素の排出量についてのグラフも載せました(1990年以降)。データソースが異なるので先程の表の値と若干の差はあることにご注意ください。

名目GDPの変遷

二酸化炭素排出量の変遷

名目GDPについては両者ともガタつきはあるものの、概ね増加傾向にあります。一方で二酸化炭素の排出量は、イギリスがじっくりと減少させていることが印象的です。つまりイギリスは、経済成長と二酸化炭素排出量の削減の両立をうまく行っていることがわかります。そのためか、GDPあたりの二酸化炭素排出量は、日本よりもイギリスのほうが断然少なくなっています

日本のこれまでのエネルギー施策と分析

日本は3.11以前、原子力発電をベースロード電源、火力発電をミドル電源として電力供給をしてきました。しかし3.11以降は、原子力発電の運用は滞り、火力発電をベースロード電源として大量に発電してきたため、燃料である石炭や天然ガスから大量の二酸化炭素が排出されてきました。省エネなどの効果はあったものの、日本の二酸化炭素排出量はあまり削減することができませんでした。

日本は自然エネルギーの開発に長年尽力しており、太陽光発電や風力発電も利用してきましたが、日本の莫大な経済活動を支えるには程遠い発電量にとどまっています。その主な要因は、国土面積が狭く、気象が安定しないことにあります。自然エネルギーは他の発電方式に比べてエネルギー密度が小さいために、大量に発電するにはそれなりに大きな土地面積を必要としますが、国土面積が狭く、山がちな日本にとって、太陽光や風力発電は開発しにくい発電方式になってしまい、ヨーロッパやアメリカほど伸びませんでした。

地熱発電のポテンシャルは、活火山の多い日本ではとても大きいと言われていますが、石油開発と同じように、十分な地熱発電ができる場所を見つけるための調査が大変であり、これもあまり開発が進んでいません。

近年は技術力の向上により、海上に風力発電を設置する洋上風力発電が普及し始めています。日本ではようやく商用化が始まろうとしているところで、海の面積が世界有数に大きい日本にとって、洋上風力発電は今後期待される電源となると思われます

イギリスのこれまでのエネルギー施策と分析

イギリスは最近までEUに加盟していたので、EU全体で決めていた気候変動対策に準じて、国内のエネルギー政策などを決めていたと思われますが、EU内における各国の状況は千差万別です。こちらの記事を参考にしながら、1990年から大幅に二酸化炭素を削減してきたイギリスについて、そのエネルギー事情や気候変動対策についてまとめます。

イギリスが1990年から二酸化炭素を大幅に削減できた主な要因は、自然ネルギーの普及・省エネルギーだと思われます。特に、商業・工業分野の貢献が大きいと言われています。二酸化炭素を多く出す産業が国外に出たり、二酸化炭素をあまり出さない、エネルギー効率の高い産業が国内で成長したことが影響しています。また、省エネ(紫:電気、黄:その他のエネルギー)も大きな役割を果たしていました。

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(黒が実際の二酸化炭素排出量を示しており、その他の色は削減した二酸化炭素の量を示しています)

また、火力発電の燃料を石炭から天然ガスに転換したことにより、エネルギー単位あたりの二酸化炭素が大きく減少したことで、エネルギー部門の二酸化炭素排出量削減につながりました。

ここまでは、日本が石油危機後にやっていた施策とあまり変わりはないのですが、2000年代からイギリスでは、風力発電・太陽光発電・バイオマス発電の供給量が大幅に増加してきました。特に風力発電は、自然エネルギー全体の20%を占めています。

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風力発電が普及した背景にあるのは、イギリスの周辺に広がる広い海域の存在です。イギリスの周りにある海は水深が浅く、着床式洋上風力発電を建設するのに向いています。元々、石油産業が盛んだったことから海洋開発技術が進歩しており、洋上風力発電の建設にはポテンシャルがあったと考えられます。

結果として、イギリスは日本よりもはるかかに多い自然エネルギーの利用率を誇っています。2019年の第3四半期には初めて、化石燃料による発電量を自然エネルギーの発電量が上回りました。国の地理的要因に合わせた自然エネルギーの開発が、日本とイギリスの明暗を分けたようです。

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日本の気候変動対策とエネルギーの計画

日本の気候変動への対策計画は環境省が主導して作られており、「地球温暖化対策計画」として2016年に閣議決定されました。一方で、日本の電力などを担うエネルギーについての計画は経済産業省が主導して作っており、「第5次エネルギー基本計画」として2018年に閣議決定されています。
2つの計画から、特に温室効果ガスに関係する部分についてまとめました。

• 2013年度比で、2030年度までに温室効果ガス排出量の26%を削減する。2050年までには80%の削減を目指す。2020年度については、2005年度比で3.8%以上の削減を目指す。
• エネルギー政策の基本方針は、「安全」「資源自給率向上」「環境適合」「国民負担抑制」
• 原子力発電は依存度を減らしつつ継続。火力発電は脱炭素化実現までの過渡期の主力発電。
再生可能エネルギーは主力電源化を目指す。低コスト化への技術向上を促す。
• 省エネの推進を継続。水素エネルギーの利用も拡大させていく。
• 二酸化炭素の地下回収・貯留(CCS)の技術開発と実用化を進めていく。

イギリスの気候変動対策とエネルギーの計画

イギリスはこれまでEUに加盟していたので、気候変動対策やエネルギーの計画はEUと共に決めていました。しかしEUから独立後は、イギリス独自で気候変動対策とエネルギー計画を作り、実行することができます。ただこれは最近の動向なので、イギリス政府は気候変動やエネルギーに関して、まだ正式な計画を発表していないようです。

以前からイギリスでは、気候変動委員会(Committee on Climate Change)という独立機関がイギリス政府に助言する形式で環境計画を考えていたようなので、EUからの独立後もこの機関の意見が反映されることと思われます。この機関はイギリスの気候変動対策として、日本のような「計画」ではなく、「提言」という形で発表しているので、どれほど法的拘束力があるのかは不明ですが、この機関が発表している内容から、イギリスの現状や今後の方針についての重要なポイントをまとめました。

• 1990年比で、2030年度までに温室効果ガス排出量の57%を削減する。2050年までには、80%の削減を目指す
2018年には既に44%の削減を達成している。
2017年では、再生可能エネルギー発電量は全体の30%
• 今後の計画:再生可能エネルギーは可能な限り拡大させる。原子力発電は引き続き利用を続ける。火力発電は継続しつつ、二酸化炭素は地下に回収・貯留(CCS)をする。

イギリスの優れた点

ここまで見ると、日本はイギリスと比べて結果が十分に出せておらず、二酸化炭素排出量の削減に失敗しているように見えます。イギリスが行っている施策について、優れた点をここにまとめます。

• 二酸化炭素の排出量が少ない産業に転換し、経済成長と二酸化炭素排出量削減の両立を図った。
• 省エネを推進して、電力使用量の削減を成功させた。
浅くて広い海域という地理的条件を活かして、洋上風力発電を大規模に展開した。

日本にとって参考になる点

経済成長と環境負荷の削減は両立の難しそうな課題ですが、イギリスはそれを見事に行っています。もちろん国ごとの事情は異なるので一概に言うことは難しいですが、今後日本が温室効果ガスを減らしていくために参考になるポイントは、以下の3点だと思います。

• 二酸化炭素排出量が少ない、エネルギー効率の高い産業への転換
• 省エネによる、エネルギー使用量の削減
• 自国の地理的特性に合わせた、自然エネルギーの開発と普及

ありきたりな結論になってしまいましたが、全体論として言えることは中々多くないものだと、書いている内に気付きました。個別の産業やエネルギー源について詳しく見ていかないと、本当の参考点は抽出できないと思いました。特に自然エネルギーは地理的要因や気象的要因に左右されやすいので、単純な比較だけでは何も解決しなさそうです。省エネなども、日本は石油危機や3.11などのイベントを契機に、優れた対策を多く行っているので、今後日本がどのように省エネするべきかはとても難解な課題だと思います。

ただそれでも、経済成長と二酸化炭素排出量の削減はこれから益々進めていかなくては、気候変動の脅威を変化させることはできません。これからの記事では、より具体的な日本の事情に踏み込んで議論を進めていきたいと思います。


【2020/03/24追記】

エネルギーに関する、国別比較の考えについては落合陽一さんの本「2030年の世界地図帳」の中の第3章末、「落合陽一×宇留賀敬一 対談」にて興味深い情報と意見が説明されているので、ぜひご参照ください。国ごとの勢力関係や分散型エネルギーについてなど、とても勉強になります。


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