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気候変動・海の酸性化でサンゴ礁はどうなるのか?

二酸化炭素が増加し、地球温暖化が進行する中で、海では温暖化・酸性化が進んでいる。日本では沖縄や高知、和歌山の沿岸海域に豊かなサンゴ礁が広がっているが、海の温暖化と酸性化により大規模死滅の危機が高まっている。時々ニュース等で話題にはなるものの、実態はどれほど深刻なのか、正確な情報が不足していると感じている。そこで、今回はサンゴ礁と気候変動・酸性化にまつわる最近の論文をレビューしてみた。

サンゴ礁の基本知識

サンゴ礁は浅い熱帯・亜熱帯海域に広がる環境であり、全体面積は地球表面の0.2%程しかないものの、サンゴ礁で育まれる生態系は海の中でも最も豊かで、9万種以上の生命が暮らしていると言われている。サンゴ礁の分布は、最寒月の平均水温が18°C 以上の暖かい海域とほぼ一致している。

海の宝庫であるサンゴ礁が、近年は白化・死滅の危機に瀕している。環境省は2017年に、日本最大のサンゴ礁域である石西礁湖のサンゴが7割死滅したという発表がされた。

【用語】
白化
:サンゴの中で褐虫藻が住んでおり、光合成により褐虫藻が作り出す栄養をサンゴは利用してる。海水温が高くなることで褐虫藻が減少し、サンゴが栄養不足に陥り、白っぽくなる現象のことを白化という。
死滅:白化が長く続くと、サンゴは栄養失調になり死んでしまう。つまり、海水温が高い状態が続くとその海域のサンゴは死滅してしまう。

ここから、近年出版された論文やレポートをいくつか紹介する。

Transitions in coral communities over 17 years in the Sekisei Lagoon and adjacent reef areas in Okinawa, Japan

(沖縄の石西礁湖周辺における、17年間のサンゴ群集の移動)
(※石西礁湖は、日本最大のサンゴ礁域)

2000年から2017年において、沖縄県の石西礁湖周辺におけるサンゴ群集の状態を196の調査地点から集計した。2007年と2016年には、大規模な白化現象が発生し、サンゴ被度が大きく低下した。2007年の白化現象の後、全体の31%のサンゴ礁は回復しきれていない。この未回復の海域は関生潟の中南部と石垣島沿いに位置し、ミドリイシ属のサンゴが多い。ミドリイシ属の産後は環境擾乱に弱いという特徴も、サンゴの回復を妨げていた可能性がある。

URL: https://esj-journals.onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/1440-1703.12013

Changes in the potential stocks of coral reef ecosystem services following coral bleaching in Sekisei Lagoon, southern Japan: implications for the future under global warming

(石西礁湖における、サンゴの白化に伴うサンゴ礁の生態系サービスの潜在的資源量の変化:地球温暖化の未来への示唆)

2016年の夏、海水温の上昇により石西礁湖では大規模なサンゴ白化が発生した。本研究では、サンゴ礁が提供する主要な4つの生態系サービス(漁業生産、水族館魚生産、レクリエーションダイビング、海藻制御)の潜在的資源量の変化を調査し、将来的な状態を予測した。白化前には、ラグーン全体で414億4,000万円/年と推定されていたが、水産業では21億1,000万円、水族館魚類生産では150億3,000万円であった。白化後には潜在資源が4分野とも減少した。一方で、オニヒトデ駆除と海洋公園の設置により、白化の影響は一部緩和された。このことは、局所的な撹乱を管理することでも、気候変動が潜在的な資源に与える相互作用を緩和できることを示唆している。

地球温暖化に伴う海水温上昇が日本近海の造礁サンゴの分布と健全度に及ぼす影響評価

海水温の上昇は、サンゴの白化と死滅を引き起こすだけでなく、造礁サンゴの生息域を高緯度側に移動させる。本研究では、高解像度気候シミュレーションにより海面水温を予測し、将来の日本近海のサンゴの分布と健全性も及ぼす影響を評価した。現在は南九州沿岸に存在する主なサンゴ礁の北限が、将来的に北部九州沿岸に届く可能性が示された。サンゴの白化現象は21世紀半ば以降には、より通常の現象として発生する可能性も示唆された。

Coral Bleaching Futures(UNEP報告書)

(サンゴの白化の未来)

気候変動がこのまま進行すると、今世紀中には世界の99%のサンゴで白化が発生すると予測されており、その中央値は2043年である。一方でパリ協定を遵守する気候シナリオであれば、中央値は2054年になる。気候の予測はグローバルであり解像度が低いため、ダウンスケールした予測を用いることで、地域レベルで管理計画を立てることができる。そして、サンゴ礁に依存する人々や産業が早期のサンゴ礁の損失に対して脆弱な場所を特定し、適応策の優先順位をつけることができる。
(日本周辺について)RCP8.5シナリオでは、2035年から2065年にかけて大規模な白化が起こる可能性が高い。

上記のレポートは2017年に発表された。しかし、先日発表されたUNEPからの報告で、問題はさらに深刻であることが指摘された。2014年から2017年の世界的な白化現象が発生し、気候変動の進行が早いRCP8.5シナリオでは、平均して2034年までに世界的な白化現象が発生すると修正された。3年前の予測よりも、さらに9年早くなってしまった。

サンゴ礁生態系への酸性化影響

二酸化炭素濃度の増加に伴って、海水の酸性化が急速に進行している、海水のpHが低下すると、海水中の炭酸カルシウム飽和度が低下するため、サンゴ礁とその生態系は大きく影響を受けることが懸念されている。炭酸カルシウム飽和度が低下すると、サンゴの石灰化速度が低下する。二酸化炭素濃度の高い海域では軟質サンゴの生存率が高くなるが、軟質サンゴの隙間は少ないために住み込める生物は硬質サンゴよりも少ない。将来的に、二酸化炭素濃度の増加により、海水のpHは今後50‒80年の間で、0.3‒0.4低下することが予測されている。しかし、サンゴ礁のような複雑な地形では海水のpH変動はより顕著になる可能性があり、さらなる研究が必要である。また、酸性化に加えて海水温の上昇のストレスに曝されると、サンゴの白化割合はさらに増加することも過去研究から示されている。

巨大化した台風がサンゴ礁生態系に及ぼす影響についてのレビュー:研究課題と研究戦略

(台風がサンゴ礁に与える影響について抜粋)

台風はサンゴ礁生態系に大きな影響を与える。台風がサンゴ礁に襲来すると、底生生物の剥離や破損が発生したり、サンゴ礁地形が変形したい留守リスクがある。一方で、台風が海の流れを発生させ、海水温を低下させることで、サンゴ礁の白化を抑制することもできる。また、陸地に雨が降ることで河川などからの堆積物や栄養塩が流入が増加する。もちろんサンゴ礁に棲む魚類にも影響を与える。台風は気候変動により強く・大きくなることが予測されているため、さらなる研究が必要である。


さいごに

サンゴ礁と温暖化について、検索しても論文が全然出てこないことに最初驚いた。原因として考えられるのは、サンゴ礁の生息域が熱帯・亜熱帯地域に集中しており、アメリカやヨーロッパ発の研究が比較的少ないためだと思っている。日本は気象・海洋の研究が進んでおり、かつサンゴ礁をその海域に多く持っている数少ない国であるから、日本こそサンゴ礁と気候変動の研究を、リーダーシップをもって進めていくべきだろうと考える。


※サムネイルは、lpittmanによるPixabayからの画像

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